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ショートケーキ

何だか安心していて、気持ちよくて、微かに目覚めて状況を察したけれど、もう少しこの快感を味わっていたかったから起きてないふりをしていた朝があった。ひどい二日酔いだったからかもしれないけれど、だとしてもあれほど気持ちの良かったやつは、はじめてだった。

当時の私は、入社1年目のなりたて営業マンで前泊として県隣のホテルに一緒に同行する上司と泊まった。もちろん部屋は別々。だったはずなのに起きたら一緒のベッドで上司の手が私のパンツの下で動いていて、そこまでの経緯は私の部屋の電話が鳴ってベロベロに酔っぱらったまま上司の部屋へ行ったまでしか覚えてない。翌日、スーツのジャケットがやたらベタベタしていて鼻を近づけてみると、ショートケーキの匂いがしたから多分二人で食べたんだと思う。

そして私たち二人は、そのまま客先で何事もなかったかのように県隣の所長同行で営業に行き1日を終えた。所長は私たちの親密さに違和を感じなかったのだろうか。もし、察しのいい所長に気付かれないくらい私たちが平然としていたのなら私は社会人になって数ヶ月でやっと大人というものに近付いたのだと思う。

そんなこんなで、その上司は明日の夜、私の家に泊まりに来る。パンデミックと化したコロナの影響でなんだかんだうちの業界もかなり痛手をくらっているので経費削減とやらで・・・「広島までだったら新幹線じゃなくて車で行ったらいいんちゃう?」という上からの指示があり。できるだけ広島に前日から近づいておく為に私の家に来るらしい。たぶん、こっちの状況の方が彼にとっては理由が作りやすくなって好都合何だろうな、ぜったいに。

基本的に、私は私のことを好きな人が好きで、そこに年齢や属性は含まれない。対して、彼も同じことを言っていてその部分においては私たちはすごく似ていると思った。”人間、生まれ落ちた時から死に向かっているんだから、だったら好きなことして好きな物食べて生きた方がいいし、生きる為に仕事はしなくちゃいけないから、だったら自分が楽しいと思えるように仕事もその他も工夫をすればいい。”私も同じ感覚で生きていてそれを的確に言語化してくれたのが彼だった。その人はこれを生きるテーマにしていると言った。そんなのただ俺が我儘なだけだよって言ったけれどそういう人間の欲望のままに生きてしまえる強さを誰しも心の奥底では羨ましく思っているから同じく私も評価してしまう。こういう人間を大多数は、癖の強い絡み辛い人とみるのだろうか。欲望に忠実な不誠実な人と見るのだろうか。それとも、あるがまま生きていて魅力的だと見るのだろうか。まぁそんなもの人それぞれの人の見方というものがあってそれすら時に揺らいでしまうのだから人間って都合がいい。

そして私は私をとても欲望に忠実な生き物だと知っているので、片道2時間かけて行った営業先の1番の目的は美味しいランチだし、仕事中でもセックスの最中でも眠くなったら仮眠するし、一人で寝るのが寂しい夜は近所の男を呼ぶ。そして、なによりも私のことを好きな男が私は好きだ。

ー『女は男に愛される人生の方がお得』教があれば、25年前の信者ばりに熱心な教徒になれるだろう。ー

そうは言っても、、、



「俺がどれだけ、お前のこと好きかわかってないでしょ。」
「全てを投げ打って守りたいくらい好きよ。」
そう言ってくれる男と私は結婚して果たして幸せになるのだろうか。どれだけ私のことを好いてくれる人でも今いる妻子を傷付けてまで私はこの人を必要としていて、彼にとっても私が今後の人生で必要不可欠な存在になれるのだろうか。過去に同じような罪悪感に苛まれる関係の人がいた事を思い出して、これってただのブームであっていつか終わるものなんじゃないかと怖い。

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会いたいと思うときに限って、会えない。

若さだけを吸い取られてる気になるこの感覚、なんだか凄く懐かしくて心地いい。最近、懐かしさと心地よさの狭間にずっといる気がする。一度上げてしまった生活水準をそう簡単に落とせない様に、良くないと思ってる事を遂行する楽しさを知ってしまった私はもう一生涯それ以上のドキドキがないと楽しめない体質になっているのだと思って人生の際限を見失ってしまった。

遠い目をして、毎日次に会える日を楽しみにしているこの日々がなんらかのきっかけでおわってしまえば良いのにね。

END.

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