30年前の少年院(5)
審判の日
逮捕された未成年は留置所の次は鑑別所に行きます
一旦全裸にされてお股も確認されて何も持ち込めない状態で生活が始まります
その後、審判を受けて処分が決まります
でも鑑別所はまだ処分が決まってない子達なので割と自由です(個室だったけど)
ラジオが流れ、テレビも好きな番組が観られます
いつもではないけどテレビの時間は社会と繋がる手段
だけど何故か競馬と、できたばかりのJリーグばかり観てました
てことは日曜日だったのかな
ノートを渡されているので落書きしたり好きな歌詞書いたりして時間潰してたような
あとは元々本が好きだったので個室なのもあって死ぬほど読みました
職員オススメの本も、何となく選んだ本も
最初はノートにそのタイトル書き出してたけどそのうち飽きて書くのはやめました
鑑別のノートは当時持ち帰れたのでまだどこかにあるかも
探してみようっと
そんな楽しい鑑別生活もいよいよ終わり
審判の日です
どうやって行ったかは覚えてないけど呼ばれるのを待機する部屋に入ります
女はわたし一人だったけど、男は15人ほどいました
女がいる、という感じの好奇の目
そりゃいるだろ
そこを見張る為であろう職員が一人
パラパラと何かを見ているのはその日の資料
時々、佐藤ってだれ、鈴木ってどいつ、と話し掛けている
そしてその個人のノートくらいの調書の束を見ながら、少しバカにしたようにふーんなんて言っていた
何となく俺が一番悪いぜって感じでドヤ顔で見渡す男の子が何人かいて、可愛いなーと思っていた
そして、Aは……あ、そこの女の子か
その声でそれまでふんぞり返って座っていた男の子達が一斉にこっちを見る
まぁお互い何してここにいるのか気にはなるので無理もない
そして取り出された調書の束はドスンと鈍い音を立てた
広辞苑くらいの厚さの調書の束
「おーおー、お前やってんなー」
さっきまでのドヤ顔の子は急に顔を伏せていた
調書の厚さで悪さが決まる訳ではないし、悪い方がいいなんてこともあるわけないのにさっきまでの少し浮き足立ってザワついてた感じは文字通りシーンとなった
こっちは恥ずかしいだけなんですけど
いたたまれない空気の中、ようやく自分の番
別室に入ると椅子が3つ
両脇に父と、何年か前に結婚した女が座っている
割とぴったりと置かれた椅子
親とこの距離で座るのはいつ以来かと思うと気持ち悪かった
そして言い渡された中等少年院送致
ちょっとだけ涙が出た
それは行きたくない、でもないし
とんでもないことになった、でもないし
これからどうなるんだろう、でもない
思い通りにならない癇癪が一番近い
つまんねぇ!が一番強かった
ほぼ怒りに近い
清々しいほどの逆ギレである
でも頭ではそんな事はわかっているから少しだけ涙が出た
もちろん大人はそう取らない
なので神妙に、そこでの生活で自分を見つめ直しうんたらかんたらとありがたいお言葉を聞く
涙は本当に一瞬だったけど笑いそうなのは堪えた
つまり1mmの反省もまだなかった
反省すべき理由を知らなかった
結果として犯罪に手を染めたけど、遊びのついでに悪者退治、その時はまだそんな考えがあったのだ
そこからどんな流れで少年院に行く段取りがあったかは覚えていない
何度も書くけど30年も昔のことなのです
とにかく覚えているのは電車移動だったこと
上野だったか東京だったか、電車詳しい人ならすぐわかるんだろうけどどちらかの駅へ行った
もちろん手錠と腰縄つき
季節は夏
つまりむき出し
持ち物の入った白い紙袋を両手に乗せるように持たされて何となく隠される
今のようにスマホが普及していたら晒されまくるであろう状態
誰の目に見ても明らかに移送中なのだ
同行者が密着しているので遠目にはわからないかもしれないけど、ホームに並んでいる間は気付いた人達の目とざわめきが広がっていくのがわかった
高崎線に乗り込むとなかなかの混み具合
それでもボックス席というのか、誰かと向かい合って座る席に座ることができた
紙袋は相変わらず抱えている
前に座った旅行と思われる老夫婦が同行者に話しかける
「どこまでですか?」
「高崎までです」
人の良さそうな奥さんが飴を取り出してあなた達も食べる?と聞いてくれた瞬間、視線が手首に行ったのがわかった
いえ、ありがとうございますと同行者が断り、それきり夫婦は口を開かなかった
高崎には車が迎えにきていてそれに乗り込んで少年院へと向かう
知らない場所に行くのはいつだって楽しみで、
初めての高崎を見渡してまるで旅行に来たようにワクワクしてしまった
甘くないのはわかっているけど、まだまだ好奇心の方が強かった
次回ようやく少年院スタートです