【002】1995.1.17 (その1)
『おい。今日バイトちゃうんか?』
親父の声で目が覚める。
『うへ?』
驚いてクーラーの赤く光るデジタル時計を見る。
【4:40】
いつもなら家を出てる時間。
でも、ダダダっと準備してダッシュすれば
なんとかいつもの電車に間に合う時間。
『お゛、おこしてくれてありがとー!』
寝ぼけながら礼を言って慌てて準備。
家から垂水駅まで歩いて20分ちょいの距離を程よくダッシュ。
『ヒッヒッフー。ヒッヒッフー。』
駅に着き
改札通って階段駆け上がると
ちょうど到着しようとしている始発の普通電車の
眩しいヘッドライトが見えた。
『(セーフ…)』
【5:07】
出発進行。
普通電車の中で息を整えつつ
流れる夜景色をぼーっと眺めてるうちに三ノ宮駅到着。
【5:27】
中央出口からそごうとの連絡橋を渡ろうとすると
『おおw雪すごww』
連絡橋の下を分厚い雪をのせたスキーバスが通る。
バイト先の事務所が入っている市役所向かいのフラワーロードビルに向けて
しばしとぼとぼ歩く。
お向かいの神戸市役所の明かりがゆっくり大きく近づいてきた。
ビル下到着。
【5:34】
ビルのエレベーターに乗り事務所が入っている『11』のボタンを押す。
『・・・。』
11階到着。
ドアが開き事務所入り口へ。
事務所のドアノブをガチャ。
『ん?』
ガチャガチャ。
『(うそーん。マネージャー来てへんやーん。。)』
仕方がないので非常階段へ。
真っ暗な階下を覗き込むように
柵に足かけて身をくの字にしながら
マネージャーさんが来るのをしばらく待つ。
『(大人しごと初日かー。心入れ替えて神戸で頑張っていかな。)』
人生初のスランプになり
ひと月前に大阪のデザイン専門学校を辞めたところで
将来のことでモヤモヤしていたものの
2日前に成人式を迎えたこともあって
眼下でキラキラ光る神戸の街並みを眺めながら
そんなことを自分に言い聞かせる。
『(ってか、まだかなー)』
腕時計を見る。
【5:43】
『(いつもなら、ユニフォームに着替え終えて
テーブルの上のクルーノートに落書きしたりしてる時間やけど
今日は描けんなー、、)』
と思ってたらエレベーターのドアが開く。
慌てた顔したマネージャーさん登場。
『ごめんごめん!早速着替えて準備やー!』
マネージャーさんと急いで事務所に入って
カバンをテーブルの椅子に置き
脱衣所のクローゼットを開け
シャツ!着た!
ズボン!履いた!
あとはハンガーにかかっているネクタイを…
『ゴォォォオオオオ…』
『え?何??』
『ドン!!!』
体が浮いた。
【5:46】
(続く?)