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溶接とは、科学である。

 前職は、金属加工業をしていた。
 主に扱うのは建築金物で、一般的には「板金屋」と呼ばれる職業だった。
 それでも、アングル材とかパイプとかH鋼とか、加工できるものは何でも扱っていた。
 図面を引いてCAD/CAMでデータにして、金属板を形に抜いて、曲げたり加工して、溶接して仕上げて、なんなら塗装まで一人でこなせる。
 一人鉄工所が可能なスキルを持っている。
 その中でも、主に溶接を担当していた。
 当初は、職業訓練校で習ったことをベースに、行ったことと結果を照らし合わせて、その中で動作を最適化するという手法で腕を磨いていた。
 だがしかし、割とすぐに行き詰まって閉塞感に襲われた。
 それは「見て盗む」「経験則で身に付ける」ことの限界だと思い知った。
 ある程度のレベルの腕前までであれば、見て盗んで経験して、それで十分であると思う。
 しかし行き詰まって気付いたのは、そのやり方では自分や周囲の職人を超える技術は身に付けることが出来ないという、非常な現実であった。
 新たな技術を身に付けるにしても、自分が持っている技術の枠の中でもがきながら、永遠とも思える試行錯誤が必要になってしまうのである。

 そこで、考え方を少し変えた。
 見て盗むというのは有効なので継続することにして、自分が発展させたいと思う技術については、可能な限り科学的に思考して突き詰め、成功やミスの原因を探ることにしたのだ。
 溶接とは、科学的な現象を人為的にコントロールすることなので、原理を考えて仮説を立てて実践することで、技術を進化させることが可能なのである。
 試行錯誤しながら時間を掛けて技術を熟成させることと比較すると、非常に短期間で、ブレイクスルーと言っていいくらいの技術の飛躍を期待できるし、短期間で実際に幾つかの技術を開発した。

 自分や付き合いのある会社では知られていないだけで、他では既に知られているものもあるかも知れないけれども。

・ステンレスの防虫網を、TIGのトーチで金属枠に綺麗に接合する方法画像4これなら、接合強度も出せて網もほつれないし失敗もない。同業他社に見せると「どうやったの??」と質問される。
・ステンレスや鋼板の裏側に、シールドガスを使わずに裏波を出す方法
画像3裏面が見えるとか、強度が必要とか、食品関連の溶接で非常に有効。同業者に見せると「えっ、これバックシールド使ってないの?」と驚かれる。
・アルミ板の全溶での接合で、歪みを最小限にする方法
画像1殆ど歪まないので仕上げが楽だし、裏波も強めに出せるので強度も出る。これもかなり驚かれるし、仕上げ部門の人には非常に喜ばれる。
・ガルバリウム鋼鈑を、下処理無しでTIGで綺麗に溶接する方法
画像2普通に溶接すると、メッキを巻き込んだ際に弾けて見栄えが悪くなる場合が多い。綺麗に出来る場合もあるが、まぐれ当たり。

 以前いた会社では、防虫網を付ける技術が普及した。
 最初のうちは「手間がかかり過ぎる」とか言われていたが、防虫網の溶接はこれがスタンダードになった。
 上記の技術のうち幾つかは、他の加工屋さんにもチラッと話したことがあるが、どうやら今のところは自分だけの技術だしお金になる可能性を秘めているので詳細は秘密。
 講習会とか開ければ、それだけで引き合いがありそうな予感。
 ……特許取れるんじゃね?(多分取れない)

 実は、科学的に思考することにより、溶接の職人芸を文書化可能なレベルにまで落とし込める可能性を秘めている。
 文書に落とし込めれば、あとは一定レベルの基本を身に着けた職人見習いが文書を読んで再現することができれば、自分が今までやってきたことが間違いではないと証明することが出来るように思う。

 ともかく科学的に考えれば、それまで理解できなかったことが論理的に理解できるようになり、溶接の世界が大きく広がる。
 溶接工の多くは、PCとかスマホを開いてnoteなんて読むとは思えないけれども、もし目に付いたら「こんな考え方もある」といういう一つの意見として捉えていただければ幸い。


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