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クリスマスという名の日常
クリスマスというものを意識することが減った。
もちろん、お付き合いをしているひとがいたときは、毎年なにかしら祝っていた。時にはふたりで、時には友達を交えて。家で、遊園地で、旅先で。
ただ、なにをやったのかと思い出そうとしても、ふしぎなほどに記憶がない。思い出すのはあの子の笑顔だけ。
そうだ、わたしは「祝うことがスキ」というより、ひとのよろこんでいる顔を見るのがスキなのだ。だから、脳裏に浮かぶ光景はいつもひとつだ。
8年という長期間を共に過ごした彼女と別れて、もうそろそろ4年が経とうとしている。それなりに壮絶な別れかたをしただけあって、なかなか次には進めない。
もちろん、進みたい気持ちはあるのだけど、なかなかどうやったらいいものか、わからないところがある。
去年や一昨年のクリスマスはなにをしていたのか、まったく思い出すことができない。平日だったので、仕事であたまをかかえていたのだろうか。
記憶もなく、顔が浮かぶ相手すらいないのであれば、まったくの「無」でもしかたがないだろう。そんなものもあったのかなぁ、というかんじだ。
逆に、「あのひとはいまも、わたしの覚えているあの笑顔で笑えているのだろうか。」そんなことをふっと、思い出す日でさえあったような気がする。
今年のクリスマスは、すこしちがっていた。
わたしの愛するバンド、「ポップしなないで」がクリスマスイブに、はじめてのワンマンライブをしたのだ。
感無量である。昨年の10月、最初に見たときは、観客が30人もしかいなかったんじゃないだろうか。すきなアーティストの対バン相手として出てきた彼らに、わたしは釘付けになってしまった。好きすぎて、思わずブログにあふれる愛を書いてしまったほどだ。
その、昨年の10月に出した曲のMVに、アイドルグループ「Maison book girl」の和田輪さんが出演したということで話題になり、今年の夏ごろにはTikTokの有名な子が曲を使ったとかで、なんというかもう、盛大にバズりにバズった。
彼らが人気を博していくに比例して、このエントリも異様にアクセスが増えてきた。なんせ、人気に火がつく前に書いたのだ。「ポップしなないで」でgoogle検索すると、今日の時点では5番目に出てくる。なんというかまぁ役得である。
日に日に伸びる記事のアクセス数を見ながら、彼らに人気が出てきたことを、肌で感じることができたのは、ほんとうに貴重な経験だった。たぶん、こんな経験ができることってそうそうないだろう。めちゃめちゃ一方通行ではあるが、この1年は、わたしも彼らとともに過ごしたつもりで、いる。
そんな彼らの晴れの場に、友達が一緒に来てくれることになった。わたしがTwitterであまりにうるさく騒ぎ立てるものだから、つい気になって聴いてくれたのだという。なんというやさしいひとであることか。30代の男ふたりで、ライブのあとにお好み焼きをつついて、ファミレスで語り合ってイブを過ごした。
彼は、今年出会った友達で、ライターであり、人生の先輩だ。今年出会ったかたはとても多いが、そのなかでも心底「出会えてよかった」とおもえるかたのひとりだ。
おおよそクリスマスイブに話すようなことは、おそらくなにひとつ話さなかった。ただ、わたしにとってはきわめて大切で、素敵な時間を共に過ごすことができたのは言うまでもない。わたしにとっての思い入れのあるバンドの記念すべき初ワンマンを、そして共に語らう夜を共有してくれたのだ。
こんな女っ気のない、小さなしあわせがあってもいい。
さて、イブが開けて今夜はクリスマス。
今日はやはり好きなバンドである「学園祭学園」がライブをする。いつもの小さなハコで、いつものようなにぎやかでたのしいライブになるだろう。ブレイク間近の彼らが、あのあほみたいにせまいハコでライブができるのは、もう残り少ないかもしれない。わたしはひとりで参加する予定だ。
たぶん、世のなかの大多数のひとたちからすると、今年のわたしのクリスマスは、ただの日常なんだろうな、とおもう。あくまでもただ、ライブがあった日がたまたまクリスマスだったりイブだったりするだけだ。
うん、だって正直、ライブとクリスマスまったく関係ないもんね。このバンドにクリスマスソングなんかないし。
そう、クリスマスらしさはまったくない。それでも記憶に残るような「たのしい一日」が増えてゆくのは、とてもうれしいものだ。
もう大人になってしまったわたしたちにとって、クリスマスを、どうしても特別な日としてとらえる必要は、ないのかもしれない。
たとえば恋人と、家族と過ごす、特別な一日としてたいせつにするひとがいるのはあたりまえだし、それでいいとおもう。ただ、クリスマスだからなにをしなきゃいけない、楽しまなきゃいけない、過ごすひとを作らなきゃいけない、なんて強迫観念に駆られる必要は、ないような気がする。
すきなバンドのライブに行って、友達と来年やりたいことについて語った「ふだんと変わらない昨日」が、わたしにはかえって、輝いて見えた。
今晩のライブもどうか、たのしいものでありますように。
そして来年、わたしとあなたが、ともに笑える未来が待っていますように。
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