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高校の女子トイレに何者かが侵入して警察が来た話

「自由登校」という言葉に懐かしさを覚える方もいると思う。
高校3年生の最後の時期に、大学受験を控えた生徒が自分のペースで勉強に励めるよう登校を免除されるしくみだ。学校によってあるなしが異なるそうだが、ぼくの通っていた高校では高3の3学期、1月後半から自由登校がはじまっていた。
「自分のペースで勉強に励めるように」とは言うものの、実際に勉強に励む生徒よりも、「やった!!!自由だ!!!」と解放感に浸っていた人が多かったと思う。ぼくもそうだった。

(余談:ぼくは大変に不真面目な受験生だった。教室の最後列の席だった時、国語の授業でPSPのモンスターハンターポータブル3rdでクエストをこなすことに必死だった。学校主催の受験のための合宿でも、やっぱり友だちとベリオロスの素材を集めていた。)

今回の記事では、そんな自由登校の時期に起きたちょっとした事件の話を紹介していく。

それは、ぼくが高校2年生の2月のことだった・・・・・・

事件

この時期の高校は独特の寂しさがある。それは冬の寒さのせいでもあったが、自由登校期間で3年生がほとんどいないからでもあった。全校生徒の3分の1がいないと、校舎はかなり閑散とした雰囲気になる。
3年生の先輩たちは、基本的に自宅あるいは塾で過ごしている。しかし、中には勉強でわからないところを先生に質問しにくる奇特な生徒もいる(もちろんぼくは行かなかったが…)。普段は授業をしている時間帯に自由に校舎内を歩き回れるので、その特別感がいいという先輩もいた。

4時間目、ぼくたち2年1組は家庭科の授業を受けていた。家庭科室は2年生の教室と同じ2階の端にあった。家庭科室はクラスからすぐ近くだったので、いつもチャイムを聞いてから移動していた(下の見取り図参照)

2階見取り図

その日の家庭科の授業は悪徳商法に関するものだった。強面のセールスマンが気の弱そうなおばあちゃんを恐喝する安っぽいVTRを見せられ、ぼくたちはあくびをしながらそれを眺めていた。となりに座っている友だちに「うわこのおばあちゃんざっこ」とか言って笑っていたような気がする。完全に授業を舐めていて良くない。

つまらない授業が終わって教室を出ると、なんとすぐそこで2人の警察官が先生と話していた。当然みんなびっくりして、廊下が騒がしくなった。警察官がいたのは女子トイレの前だった。
「女子トイレになんで警察?」「まさか不審者が??」
不安半分、好奇心半分。みんなそれぞれ想像力たくましくことのあらましを考えた。昼休みはその話題で持ちきりだった。

さて、この事件の真相はなんでしょうか…?
「自由登校」、「女子トレイ」、「家庭科の授業」
ヒントはすでにそろっています。もしお時間のある方は少しだけ考えてみてください。
それでは、以下が事件の真相になります。

真相

結局なんのヒントも得られないままその日の授業が終わった。ホームルームの時間となり、大柄な担任が部屋に入ってくる。
「お前ら(本当に2人称複数形が『お前ら』だった)、お昼に警察がいただろ?あれな、こういうことがあってな」
と担任が事件の真相を語りはじめた。

4時間目、ぼくたちが家庭科の授業を受けている時、廊下ではこんなことが起こっていた。
3年生のA先輩(野球部。2年1組担任は野球部顧問)はその時間、学校に来て自習をしていた。A先輩はまじめで頼れるいい先輩だと友だちが言っていた。
化学の勉強をしていたまじめなA先輩は、問題集でどうしても解けない問題があったらしく、化学の先生に質問をしにいくことにした。
3年生のクラスは3階にあり、化学室に行くためにA先輩は2年1組近くの階段から2階に降りてきた(見取り図参照)。そしてそこから渡り廊下を通って別棟の化学室へ行こうとした。

階段を降りるA先輩は女子トイレの方から聞こえる声を耳にした。男性の声だった。しかも誰かに詰め寄っているような口調だったという。
まじめで正義感の強いA先輩は黙って通り過ぎることなんてしなかった。ためらうことなく女子トイレのドアを開け、中を見回した。しかし一見して誰も見当たらない。個室を確認したかどうかはわからないが、おそらく誰も見つけられなかっただろう…。

一方、廊下では女子トイレに近づいてくる人が2人いた。A先輩と同じ3年生の女子の先輩だ。この2人も自習のために登校し、先生に質問をしようと廊下を歩いていた。
2人はA先輩とは異なり、2階廊下の家庭科室とは真反対の位置にある階段から降りてきて、2年1組方面に歩いていた。そして、2人は怪しい男性が女子トイレにものすごい勢いで入っていくのを見た
この2人もかなり正義感の強い方たちで、身の危険をかえりみず不審者を追い詰めてやろうと女子トイレ近づいていった。

その頃、女子トイレのA先輩は焦っていた。「誰もいない…?」「俺の勘違い…?」。そして何より、廊下からこちらに近づいてくる足音が聞こえる。「え?もしかしてトイレに入ろうとしてる…?」
このままではまずい。不審者を捕まえようとした自分が不審者になってしまう。
A先輩はもう正常な判断ができなかった。出ていって理由を言って弁解することもできたかもしれないのに…。

そしてA先輩は、窓から飛んで脱出した!!
2階から!!!

トイレのドアを開けた女子の先輩2人が見たのは、窓から飛び降りる男性の姿だった。2人の判断は極めて冷静で、その場ですぐに警察に通報を入れた。
その後2年1組の授業が終わり、ぼくたちは駆けつけた警察官が事情聴取をしているところを見たというわけだった。

ミイラ取りがミイラになったように、不審者を捕まえようとしたら自分が不審者扱いされてしまったA先輩だが、2階から飛び降りて当然無事なはずはなく、救急車で運ばれることになった…。脚を複雑骨折してしまったそうだ…。
受験あと数週間後に控えている身でこの状況は相当な負担だったと思う。メンタル的にも。

これが警察を見るまでの一連の背景だ。
さて、最後に一つだけ疑問が残る。A先輩が聞いた不審な声の正体はなんだったのだろうか?
それは、ぼくたち2年1組生徒が家庭科の授業で見ていた悪徳商法に関するビデオの音声だった。おばあちゃんを恐喝するセールスマンの声が廊下まで漏れ聞こえており、A先輩はそれを女子トイレから聞こえていると勘違いしたのだった。

担任から真相を聞いた時、A先輩には本っっっっ当に申し訳ないが、めちゃくちゃ興奮した。リアルに伏線回収を経験して鳥肌が立った。ぼくだけじゃなく、クラスのほぼすべての人が「おおおおおおお!!!」と歓声を上げていた。

ちなみに、A先輩の受験がどうなったのかは誰にもわからない…
大学には合格したらしいと4月以降に風の噂で聞きはしたが…


最後に、2つ目の余談だが、ぼくは高3の頃に受験勉強が嫌すぎて見様見真似で学園ミステリを書くのにハマっていた。その際、この体験を下敷きに一つのエピソードを書いた。
当時はルーズリーフに手書きをしていたので、家で書いた続きを授業中に書いていた(なんて受験生だ)。ある日、学校についてさて書くかと思いカバンを見ると、執筆中のルーズリーフを入れたファイルが入っていなかった。
家に帰ってさて探すかとあたりを見回したところ、家族との共用スペースの机の上にファイルが追いてあるのを発見した。「えっ、誰も見てないよな!?」と焦ってファイルを手に取ると、付箋が貼ってあり、「おもしろかった!でもここの箇所がわかりづらい」という父からの感想文が書かれていて大変に恥ずかしい思いをした。
ぼくの黒歴史的体験でした。

長文読んでいただきありがとうございました!
それでは次の旅記事か雑記事でお会いしましょう!

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