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龍王街の夜陰第二話 不器用な兄貴分 第三章 兄貴の威厳
第三章:兄貴の威厳
「張哥……!」
男たちが怯えたように呟き、次々と逃げ出していく。その背中を見送りながら、張陽は短く舌打ちをした。
「ガキ共が。俺の顔も知らねぇで、好き勝手しやがって……」
張は振り返り、祐介を見下ろした。
「おい、日本人。怪我ねぇか?」
「あ、ありがとうございます……」
祐介は咄嗟に頭を下げたが、その言葉もまだたどたどしい。
「お前、日本から来たばっかりか?」
「はい……今日で三日目です。」
張は煙草に火をつけ、少し柔らかな声になった。
「そりゃ災難だったな。まあ、この街は甘くねぇぞ。」
祐介は頷きながら、自分の浅はかさを痛感していた。だが、目の前の男の存在が、妙に頼もしく思えた。
「腹、減ってんだろう。俺の店、来るか?飯くらいなら出してやる。」
「え、いいんですか?」
「ああ。ついでにこの街の歩き方でも教えてやるよ。」
そう言って歩き出す張の背中を、祐介は迷わず追った。
路地裏に滲むネオンが、二人の背中をぼんやりと照らしていた。
(第四章に続く)