ワリエワだって人間だもの

 本当は北京オリンピックの総括を書こうと思っていたんです。それはそれとして、別でどうしても書きたくなってしまいました。

 僕の職場の同僚にフィギュアスケートをこよなく愛する人がいるんです。十年分以上のグランプリシリーズとオリンピックの録画を残していて、北京が始まる前にも「またバンクーバー見返しちゃった」っていうような、ジャンプの種類の違いがかろうじて分かる程度の僕に「樋口若葉のショートのラストは誰々(まじで名前忘れました。知ってたら教えてください)のオマージュだと思うんだけどどう思う?」って聞いてきたりするだいぶマニアックな人なんですけど、その人がこれまで見てきた中で最高のスケーターだと随分前から言っていたのがカミラ・ワリエワ選手でした。

 多分日本人選手と同じくらい有名だと思うので説明の必要はないかと思いますが、世界記録を塗り替えまくった15歳で、一緒に出ると間違いなく勝てないということから「絶望」という異名で呼ばれている選手です。今回のオリンピックでは金メダル確実と言われていましたが、ドーピング疑惑の影響なのか、決勝でボロボロになりメダルすら獲得できませんでした。

 僕は例のフィギュアマニアの勧めでワリエワ選手の演技を何回か見たことがありましたが、まさかオリンピックでここまでひどいことになるとは思っても見ませんでした。彼女に何があったのか、どんな思いだったのか、僕には知る由もないですが、メンタルが重要とされるフィギュアスケートでオリンピックのプレッシャーとドーピング疑惑の精神的ダメージはやはり計り知れないものだったのだろうと思います。

 滑り終えてコーチの最初の一言が「どうして諦めたの? なぜ戦うことをやめたの? 説明して」だったそうです。いやいや、そりゃ心も折れますよ。むしろよく最後まで滑り切ったなって僕は思いました。多分序盤のジャンプ失敗してから頭真っ白だったでしょうね、これまでの練習で染み付いた体の動きをただ繰り返していただけのように見えました。

 いくら天才とはいえまだ15歳です。僕が15歳のときなんて中学校の学年集会で前に出て話すのでさえ吐きそうなくらい緊張してましたよ。

 ここ数年は日本人だけでも野球の大谷選手や将棋の藤井竜王、東京オリンピックでも若くして天才と言われる選手がたくさんいました。でもやっぱり彼らも人間なんですよね。しかもまだ未成年だったり、子供だったりするんです。勝負の世界なんだから年齢なんて関係ないとか甘いとかという意見もわかりますが、その前に普通の人間なんですもの。世界で戦うなんて重圧半端なさすぎます。エヴァのシンジくんくらいのメンタルが普通なんじゃないでしょうか?

 オリンピック選手とはいえ、「絶望」の異名を持つ天才とはいえ一人の女の子です。ボロボロになって帰ってきたらやっぱりまずは「よくがんばったね」と声をかけるべきだったんじゃないでしょうか? これで何もかも嫌になって引退なんてことになったら悲しすぎます。

 4年後のオリンピックでなんの疑惑もなくいつも通りに完璧な演技をして、最高の笑顔のワリエワ選手が見られることを切に願っています。

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