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#59『”会いたい、いますぐ 。”SHISHAMO「熱帯夜」を語る』

今回は2015年8月5日に3rdシングルとしてリリースされた「熱帯夜」という曲について語ります。この曲は2016年3月2日にリリースされた3rdアルバムSHISHAMO3の8曲目と2019年6月19日にリリースされたSHISHAMO BESTの6曲目にも収録されています。ここ最近のうだるような暑い夜にぴったりな恋愛ソングとなっているので今回取り上げてみました。

簡単に説明すると”夏の夜に好きな人を想う恋心”がテーマに描かれており、一番が彼女目線で二番が彼目線という歌詞展開になっています。また、ギターボーカルの宮崎朝子はインタビューで”この曲を作る時に夏が来る手前に夜のベランダで夏が来そうみたいな空気を感じて、その空気をそのまま曲にしたいなって思った”と答えており、サウンド面にかなりこだわりを持って作成された一曲となっています。YouTubeにてMVが公開されていますので載せておきます。

それでは語っていきます。

一番Aメロの歌詞

じっとりとぬるい湿った空気
風が吹いても変わらない私の体温
いつだって君に触りたい
こんな暑い夜はとくに

「熱帯夜」作詞:宮崎朝子

夏の夜の空気感が伝わってくる出だしですよね。「風が吹いても変わらない私の体温」というフレーズから、主人公は外の空気に触れるところにいることが読み取れます。なんとなく、アパートのベランダで外をボーっと眺めているような絵が浮かんできますよね。

「いつだって君に触りたい」と主人公には付き合っている彼がいて、その彼のことが大好きなことが分かります。「こんな暑い夜はとくに」というフレーズ。作詞をしたギターボーカルの宮崎朝子が夏の夜のジトっとした感じが好きだと話していることから、こういう歌詞になったんじゃないかと思われます。

一番Bメロの歌詞

もうこんな時間なのか 明日も早いよな
君は私に会いたくないかな
もうバイト終わったかな 電話してもいいかな
二度くらい上がる呼び出し中

「熱帯夜」作詞:宮崎朝子

「もうこんな時間なのか 明日も早いよな」と彼のことを気遣いながらも、「君は私に会いたくないかな」「もうバイト終わったかな」と会いたい気持ちが優先してしまう主人公が可愛いですよね。

「電話してもいいかな 二度くらい上がる呼び出し中」というフレーズ。個人的にこのフレーズがいいなと思っていて、電話する時ってドキドキするじゃないですか。特に好きな人相手となると。そのドキドキする気持ちを、体温が二度くらい上がったような感覚と表している訳ですよね。上手い表現だなと思います。

一番サビの歌詞

「会いたい、いますぐ。」そう言った私を
「わがままばかり」と 叱って今すぐここに来て

「熱帯夜」作詞:宮崎朝子

主人公は、彼が翌日も朝が早いことや、この日もバイトで疲れているであろう夜中にいきなり「会いたい、いますぐ。」と呼び出して、迷惑かなとわかっていながらも「わがままばかり」と叱ってほしいだなんて、完全に惚気ていますよね。でも、彼女のことを大切に想っていないと彼もすぐに来てくれたり、叱ってもくれないだろうから、会いたい気持ちが前提としてありつつも、彼から愛されている、大切にされていると感じたいからこその呼び出しなんじゃないかなと思いました。

二番Aメロの歌詞

じっとりとぬるい湿った空気
バイクに乗ってあの子のうちまで
いつだって君に触りたい
こんな暑い夜はとくに

「熱帯夜」作詞:宮崎朝子

ここからは、冒頭でも書きましたが、彼目線の歌詞となっています。

「バイクに乗ってあの子のうちまで」と彼女からの電話に答えて、彼女に会いに向かっていることが分かります。バイクに乗ってっていう設定が味があっていいなと思います。バイトが終わって彼女の為に夜の公道をバイクで飛ばしている絵が浮かんできますよね。

「いつだって君に触りたい こんな暑い夜はとくに」と彼もまた彼女のことが大好きなことが伺えます。

二番サビの歌詞

「会いたい、いますぐ。」そう言ったあの子に
言わなきゃ 今すぐ 同じ気持ちだと

だからほら、今行くから
呆れないで飽きないでね

「熱帯夜」作詞:宮崎朝子

彼もまた、彼女と同じで「会いたい、いますぐ。」と思っていたことが分かります。

ただ、「言わなきゃ 今すぐ 同じ気持ちだと」という歌詞になっていることから、彼女に電話で「会いたい、いますぐ。」と言われた時に「僕も会いたいと思っていた」と彼女には言えてないことが分かります。歌詞には出てきませんが、彼女からの電話に本当は嬉しくて仕方なかったのに、思わず照れ隠しで「仕方ないな」というような応答をしてしまったんだろうなという背景が見えてきますよね。

「だからほら、今行くから」と言葉では「僕も会いたかった」とは恥ずかしくて言えないけれど、行動で気持ちを示そうとしている訳ですよね。「呆れなで飽きないでね」は、「決して君(彼女)ばっかりが会いたいと思っているのではなくて、僕(彼)にも会いたい気持ちがきちんとあって会いに行っているんだから、言葉足らずの僕(彼)だけど嫌にならないでね」というようなニュアンスが込められているような気がします。

Cメロの歌詞

この季節が過ぎて
日焼けのあとが消えたら
なんだか一緒にはいられなくなりそうで
この季節が過ぎたら
あの熱帯夜の風に
あたりながら 空見上げながら
君に電話できないなあ

「熱帯夜」作詞:宮崎朝子

ここからは、また彼女目線の歌詞に戻ります。

「この季節が過ぎて 日焼けのあとが消えたら なんだか一緒にはいられなくなりそうで」と別れの予感がしている彼女…。

そして「この季節が過ぎたら あの熱帯夜の風に あたりながら 空見上げながら 君に電話できないなあ」と彼に電話をすることができなくなってしまった彼女…。

なぜそんなにも彼女はナーバスな気持ちでいっぱいなのか、真相はこの後のサビに続きます。

最後のサビの歌詞

「会いたい、いますぐ。」そう言ったらいつでも
まっすぐ来てくれる 君が当たり前になりそうで
怖いの、私を叱って
いますぐ 会いに来て

「熱帯夜」作詞:宮崎朝子

好きな人と会って過ごす時間って特別ですよね。付き合い始めは誰だってドキドキして新鮮だと思います。でも、その新鮮な気持ちも「会いたい、いますぐ。」って言ったら、来てくれる彼に彼女はいつしか物足りなさを感じてしまうのではないかと不安になっているということですよね。

「怖いの、私を叱って いますぐ 会いに来て」という最後のフレーズ。そんな先を見据えた恐怖におびえてる自分(彼女)に「そんなことないよ」と叱って私を安心させてほしいという彼への要望ということですよね。二番の歌詞を見て分かるように言葉足らずの彼だから、彼女をそういう風に思わせてしまったのではないでしょうか。

個人的に最後の「会いに来て」の後にアウトロが凄く好きで、そこの部分だけでも何回も聴きたくなるメロディーなので是非注目して聴いて欲しいなと思います(冒頭のMV3:51辺り~)。

まとめ

夏の夜に好きな人を想うカップルの心情が彼女目線と彼目線でそれぞれ描かれていましたね。彼女の方は「会いたい、いますぐ。」とストレートに気持ちを言えるタイプで、反対に彼の方は気持ちを口に出すことが恥ずかしいタイプなのが印象的だなと思いました。お互いに会いたいという気持ちは一致しているのに、そういう性格の差もあってか彼女の方は「君は私に会いたくないかな」と思ってしまったり、彼の方は「言わなきゃ 今すぐ 同じ気持ちだと」と気持ちを素直に言えない自分と奮闘していて、そこら辺の歌詞展開が絶妙で面白い一曲だなと思いました。

また、最後のサビの歌詞で、恋の新鮮さがいつしか失われてマンネリ化してしまうんじゃないかという内容も共感してしまいますよね。でも、恋愛感情っていつかは落ち着いていくものだと思うので仕方ないとは思いますが、いつか無くってしまうかも知れないから、そういう感情を失うことが怖くて大切にしたいと思えるのか知れませんね。

そして、この曲の魅力と言えばやはりサウンド面ですよね。「熱帯夜」というタイトル通り、夏の夜のじとじとした空気感を見事に再現できていますよね。

何よりこの楽曲を3rdシングルとしてリリースしたことがSHISHAMOにとって大きな変わり目となったんじゃないかと思われます。当時、リリースされていたシングル曲が「君と夏フェス」と「量産型彼氏」でした。この二曲ってどちらもわかりやすくポップで大衆の人がノリやすい曲じゃないですか。そんな楽曲の印象がSHISHAMOに根付いていた中で、その次にリリースされたのが今回取り上げた「熱帯夜」なんですよね。めちゃくちゃ攻めていますよね。

ギターボーカルの宮崎朝子は当時を振り返るインタビューで以下のように答えています。

去年の夏は「君と夏フェス」をだしているから、なんとなくSHISHAMOが今どういうものを求められているんだろうか、あと自分たちが何をやりたいのか考える時期で、そこでこういう曲が出せたのはその後のSHISHAMOにとって凄く大きかった。だす時もこれまでにない曲だったし、音楽的にも技術的にも凄いぶつかった曲。今でにないグルーヴ感。この曲をやるまでグルーブっていうものをそんなに気にしなかった。勢いで行ける曲が多かったから。そういう面でも挑戦となったし、この曲をSHISHAMOのお客さんに受け入れてもらったら、この先どんどん自由になるだろうな。っていう曲でした。

Liner Voice+SHISHAMO『恋を知っているあなたへ』から引用

やっぱりこの曲というのは他の曲と比較してもいい意味で異色なんですよね。新しい一面が開拓されたという意味で、SHISHAMOというバンドの幅を広げることができた一曲になったんだろうなと思います。

話が変わりますが、この曲はMVも魅力の一つで面白い構成の映像となっています。注目すべきポイントが二つあって、まず一つ目は、SHISHAMOの三人がそれぞれの夏の夜の日常を演技していることです。ギターボーカルの宮崎朝子はタンクトップ姿でアパートのベランダで外を眺めています。ドラムの吉川美冴貴はスタジオでドラムの練習を、ベースの松岡彩はコンビニに立ち寄るシーンが描かれています。当時のSHISHAMOにとって演技をすることはあまりなかったそうで、そういう意味でも初々しい三人の姿を見ることができます。

二つ目の注目ポイントはこの曲の歌詞内容とリンクしたMVになっていることです。それぞれの夏の夜を過ごしているSHISHAMOの三人の映像の中に、この曲の主人公となっている彼女と彼が実際にでてくるんですよね。細かくまとめると…

その①【MV0:59辺り】
ベランダで外を眺めているギターボーカルの宮崎朝子の向かいのアパートのベランダで電話をかけようとしている女性が出てきます。この女性がこの曲の彼女で一番Bメロの「もうバイト終わったかな 電話してもいいかな 二度くらい上がる呼び出し中」の部分とリンクしています。

その②【MV1:39辺り】
コンビニに入店するベースの松岡彩のシーンに映り込んでいる、携帯を見ている男性店員さん。この男性がこの曲の彼で、彼女からの電話に気づくシーンとなっています。

その③【MV2:03辺り】
コンビニで雑誌を読んでいるベースの松岡彩の横で、バイトが終わってバイクに乗り込む彼が出てきます。これは、二番Aメロの「バイクに乗ってあの子のうちまで」の部分とリンクしています。

その④【MV2:51辺り】
ベランダで外を眺めているギターボーカルの宮崎朝子。交差点の横断歩道で携帯を触りながら登場する彼女。これは、彼が来てくれるのを待っているシーンです。

その⑤【MV3:06辺り】
ベースの松岡彩がコンビニに立ち寄った帰りに、横断歩道を歩く傍らに映り込む女性。これはさっきと同様で彼が来てくれるのを待っているシーンですね。

その⑥【MV3:33辺り】
ドラムの吉川がスタジオから帰宅中に、信号待ちして、通り過ぎる彼が映り込んでいます。これは彼女に会いに向かっているシーンですね。

その⑦【MV3:55】
ベランダで外を眺めている宮崎朝子。交差点の横断歩道で彼女と彼が合流するシーンがでてきます。

長くなりましたが、こんな風に歌詞とMVがリンクした映像となっており、よりこの作品を堪能することができます。

また、この曲は2023年2月4日にリリースされたCDデビュー10周年を記念したコンセプトアルバム『恋を知っているすべてのあなたへ』のdisc1”恋の喜びを知っているあなたへ”の7曲目にも収録されています。

最後になりますが、ライブではアコースティックバージョンで披露されることもあり、また違った風に聴くことができます。”「熱帯夜」SHISHAMO YouTube Music Night Ver.”と題したアコースティックバージョンでの映像がYouTubeにて公開されているので載せておきます。

皆さんも是非聴いて見て下さい。

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