ゴールドピアス
<何十年も前に書いた小説のようなものを載せてみようかと思います>
ブードゥーとアルファベットで書かれた。というよりは肌に刻印された、白人の男がメンソール煙草を吸っている。
確かに、日本人の女の子がハワイやグァムに行ってころりと騙まされてしまうのはわかる気がする。
ブルーの瞳で背が高く、マナーを̪識っていてセックスが上手い。
下手な男に抱かれ、そういう奴に限って俺はこの女を大切にする。という妄想を抱く。そんなアホな男に時としてきれいな女が繋がり、マジになる。
それならブルーの瞳に繋がるほうがまだマシなのだが。
ブードゥとタトゥのしてある、Gは日本にきてGといわれるようになった。Gは駅前で大麻や今では見ない偽造テレカを販売していた。忘れず、すぐに呼べるようただGとだけ言われるようになった。
街では女が声をかけてくる。悪い気はしないがどうでもいいように体を安売りしている制服をきた女子高生に視線を送るおじさんたちにもその女子高生にもどうかと思う。冷めた気持ちになる。
別にキライじゃないが。なぜだか何となくどちらかというとかかわりたくない。そんな気持ちにさせる。
日本に来て厄介なことはあまり病気のできないことだ。不穏な商売をしているGの主というのは医者ではあるがハードなゲイだとのことだ。とても効くよ。と言ってとても眠くなる薬をくれたりする。それは厄介ごとの一つだ。
スージーという恋人から電話がかかる。
「あたし、あたまに来たよ。ポリスいつもついてくるあたし眠れない。ボスに言って貰ってよ。あれ」
「わかったよ。きっと出してくれよ。そのためのボスだから。今どこ?」
「あたし、OO。帰れないよ。ポリスいて、怖いよ。Gワタシ捕まる?」
「捕まらないよ。安心して。ビールとか飲んでだらっとしろよ。また明日の朝電話してきな。その時までに、ボスと連絡とっておくから」
スージーも少し手を付けるヤバイものでキテしまっている。体を売るのが商売なので、不機嫌になることも多いのだろう。気晴らしだって必要だ。アジアの女はみんなそうだ。日本にいても欲しいものためや彼に送るプレゼントを買うための金に体を売る女子高生たちとは違う部分がある。日本に来るためにブローカーに借金をしてまで日本に来てそんなことをして金をつくるのだ。すこしというかだいぶ違う。
日本に来ているアジアの女はたいていくにの家族や、親や、そんなことのために体を売らなくてはならない。電話を切りそんなことをGは考えた。溜息をついて、缶コーヒーを買いに行く、とバイトの日本人に伝え歩き出した。
幻惑する夜の街の光に照らされながら自販機に向かう、見つけて一つ買う。自動販売機は珍しくはないが不思議なものだ。24時間何があっても飲料水を売ってくれる。なんだか矛盾しているようそれが正当のような不確かなきもちだ。確かに日本に来る前にそれほど偏ったイメージを持っているほうではないと思っていたのだが。
浅見という日本人の男と知り合うことになったのは、そのころあった個人情報を突き合わせる雑誌の情報欄だった。
東京は刺激的だ。一度来るといい。そういうように浅見は手紙をよこした。それでGはそれまで続けていたアメリカの大学の勉強を中座して日本に来たのだった。あてもなかったから、浅見にその旨を書いて手紙を送ると、それから先は一切Gに返事はこなかった。
Gはそれでも東京という街にくるのを自分の命題のようにし、そう考えた。もちろんこんな摘発されてしまう可能性のある生活を送るようには想像してはいなかったのだが。
パンケーキと蜂蜜のある風景。郊外の家と両親。チアをやってる妹と、期待度通りの進学をして当時のガールフレンドのブレンダと一緒になるんだろうという噂話を振り切ってエアラインに搭乗して日本に向かう。
別に特にあてもなく。
「何か、困ったときまで使うなよ」
という父親の言葉の金をものの見事に引き出して渡航費にあててしまった。こうして、さしたる目的も目論見もなく日本へ向かった。特に誰にも話さずに渡航しようと考えていたが、ブレンダにはきずかれてしまった。
観光客のよく集まる港町のダイナーでブレンダは怒るというより冷ややかに座ってた。特に会話をするわけでもなく。ただ、じっとしていた。それはそれで気づまりなものがあった。
しかし、ブレンダはGの渡航について無口であったわけではなく、カレッジで口もきいたことのない男から
「思い切るね、僕にはできないけどね」
と、冷ややかに言われたりした。そういうノイズを振り切りGが日本へ出かけることに駆り立てたのは、きっと焦燥とかいう感情であったのではないだろうか。なにか現状では詰まってしまう感覚。なにか自分が箱詰めされてパッケージのようにカレッジの生活を送り、その延長を送ることへの漠然とした恐怖。そのような感覚が日本へと向かわせたのではないか。
向こうの大学を出る。穏健な就職をして美貌であるブレンダとの平穏なくらし。そんな自分をわざわざむき出しにする必要のない。与えられた幸福をそこにどんな魅力があるのだ。とも言い切れない、魅力的な部分はいくらもある。
でも、一切合切持っている荷物をおろしたい。そういう欲求もあった。
ただ、年月というものと現実というものの、そういう種類の力の作用によって何時のまにか自分が小さな箱に閉じ込められていくそんな感覚が恐ろしかった。
いつの間にか父親というものになって、そしてきがついてみたら50代になっている。そんなものだ。
航空機の機内は快適だった。あまりエアポケットに入ることもなかった。浅見の住所だけが頼りだったが金がないわけではなかったの当座心配することもなかった。ホテルで長期ではないが過ごすこともできなくはないしどこかに家を借りることも実際のことの不雑さはわからないが、可能だろう。
残してきた、ブレンダはきっといまごろ誰かの体に支配されて、思い悩むことをやめることに成功しているだろう。
浅見に保証人になってもらうことができなかったら、どうしようか。そういう種類の考えもあった。機内に軽い夕食がでて、スチュワーデスが小さなボックスを渡している。この夕食が済んで、その後、機内は暗くなり消灯になる。そして、明ければ航空機はもうナリタに着くということになる。
食事をとりながら、機体の下の方向へ目を向ける。漆黒の闇を機体は空を切り裂いている。アメリカから退屈を感じずに東京に着けるのはありがたかった。もう一度浅見の住所の書いてある手紙を読み返した。
浅見の住所と東京マップを見比べ、どちらにしても東京駅に出なければならないということは、よくわかった。東京駅につくと、どこかのCD できいたような、東京を呼ぶアナウンスが入り、今自分が東京駅にいるというかとがわかる。
荷物も東京で必要なものは新しくするということで、多くはなかった。スーツケースひとつにこれから先の生活の最低限が収められていた。Gは東京駅から浅見に電話をかけた。浅見のよこした手紙の電話番号にダイヤルするとよくは分からないが機械的な音声が流れる。
『おかけになった番号は使われておりません』
というアナウンスが流れる。Gはとりあえず、浅見とコンタクトをとることができないのだな。ということだけは分かって、スーツケースとともに試案にあぐねた。仕方ないあきらめGは東京駅を出て、ホテルを探すことにした。東京にはカラスのようなスーツを着たサラリーマンで溢れていた。