私たちは常に「物語」とともに生きている~物語のデザイン~
SYNTプログラマーの井上です。
最近は『「ついやってしまう」体験のつくりかた』という本を読んでいます。
ゲームを題材に人の心を動かす「体験デザイン」について学べる本です。
さて、ゲームの中核とも言えるのが、ゲームの中の「物語」です。
どんなに優れたUIを実装したとしても、物語が魅力的でなかったら意味がありません。
コンテンツの中身とも言える部分なわけですが、実はこの物語にも体験デザインの要素が含まれています。
なぜならば、プレイヤーの体験はゲームの物語と非常に密接に繋がっているからです。
今回はそんな「物語のデザイン」について紹介します。
日本語では「物語」と一括りにされますが、英語にすると二つあり、少し意味が違います。
それは「ストーリー」(story)と「ナラティブ」(narrative)です。
「ストーリー」には、「何があったか」という物語内容に重きが置かれます。物語の中身そのものですね。
一方で、「ナラティブ」には、「どう伝えるか」という物語の伝え方に重きが置かれます。ナレーターは、このナラティブから派生した単語ですね。
物語というと、どうしても私たちは「ストーリー」ばかりを意識しがちです。
ゲームに限らず、ドラマや小説にしてもストーリの良し悪しが評価の大部分を占めているように思えます。
しかし、中身と同じぐらい「ナラティブ」も大事です。
どれだけ素晴らしいストーリーでも、それが相手に伝わなければ意味がありません。
魅力的なストーリーでも伝え方が悪ければ、受け手にとっては退屈なストーリーになってしまうことすらあります。
同じストーリーでも、素人が語る怖い話と稲川淳二が語る怖い話とでは、怖さは格別に違いますよね?
ゲームでも様々な工夫を凝らして、物語を伝えようとしています。
UIなども広義のナラティブに入るかもしれません。
そのうちのひとつに「環境ストーリーテリング」という手法があります。
これは、無数の情報の断片からストーリーを理解させる物語の伝え方です。
環境の中に配置された無数の情報をプレイヤーが自発的に集めていくことで、物語を構築させていきます。
例えば、『ドラゴンクエスト』などのRPGでは主流の方法で、村人などに話しかけて情報を集めていくことで物語が進んでいきます。
実はこの環境ストーリーテリングは人のもつ”ある本能”を利用しているのです。
それは「物語る本能」です。
人間の脳は、一見すると無関係な情報の断片でも、それらを組み合わせることで「何があったか」を推測しようとします。
さらに、これから「何が起こるか」という未来の推測も行います。
脳は常に周辺の状況や全体像を把握しようとしています。バラバラな情報が集まっているだけの状態を嫌うのです。
「環境ストーリーテリング」はこの脳の性質を利用した物語の伝え方です。
昔話や御伽噺のような、架空の世界というイメージの強い「物語」ですが、実は私たちは常に「物語」とともに生きているのです。
私たちは、常に物語を作ろうとしています。
人生も広義での物語に該当します。
私たちが、自分の人生に単なる記憶の羅列以上の意味を見出せるのは、この「物語る本能」のおかげといえます。
ゲームの「物語のデザイン」にも実はプレイヤー自身のストーリー、すなわちリアルの人生が深く関係しています。
今回はここまでです!
「物語のデザイン」は体験デザインの中核とも言えるもので、一回では紹介しきれませんでした。
「物語のデザイン」のお話はまだまだ続くので、興味を持たれた方また次回に!