面食いについて話した夜(容姿コンプレックスOrijgin23)
この世には面食いゾーンってのがある
ある時、女子友達と3人でお泊まり合宿みたいなことをして、「面食い」について語りまくったことがあります。
あたしたちはみんなまだ学生で、発情した番茶も出花のまっさかりでした。そういう季節には、キャピキャピと飽きもせずに男子についていくらでも語れるものです。
あたしたちの関心は、世の中に「面食いゾーン」というものがある、ということでした。
たとえば。ある種のカフェでは顔のいい男の子だけをアルバイトに雇っています。これは女性客を呼ぶためです。したがって不特定多数が好む顔をそろえています。
銀座の高級クラブには色っぽい美人しかおつとめできない、というのと同じです。
お泊まり女子その1が主張するには、彼女がアルバイトをしているラーメン屋さんの厨房にも、色男しかいないそうで。
「なんで厨房に?客から見えないでしょう?」
「経営者の好みなんだと思う」
「どんなんじゃ?」
その経営者は厨房が好みのタイプであふれていないと、お仕事をする意欲がわかないのでしょうか?かなり繁盛している店ではありました。
これは後に確かめに行ったのですが、けっこう偏ったタイプに統一されていました。
お泊まり女子その1が唱える、”従業員ハーレム説”の根拠となる店です。
ちなみにこの好みは彼女の好みとも合致しており、彼女はほどなくそのうちの一人とつきあい始めました。
お泊まり女子は二人とも音大に通っていました。
その2が言いました。
「大学の職員は、みんなすごいハンサムだと思う」
「なんで?」とあたし。
「学長か理事長の好みじゃないかしら?それとも人事の人?」
「ほんとかよ」
「だけどきっとみんなホモセクシャルだと思う。あるいはゲイの人に好まれるタイプ。みんな何となく似ているの。でもすっごくきれいな男の子ばっかり」
音大ってそういうところ?噂には聞くが・・・。
「密室で教授のレッスンを受けるにあたって、身の危険を感じるのは女の子ばかりではない、という場所だから」
「レッスン危ないの?」
「時には・・・。可愛い子は、というべきか」
「私は大丈夫。私の教授は男専門だから。歌のレッスンで、おなかとか触られるけど、危険は全然感じない」とお泊まり女子その1。
きれいな顔の男の人ばかりが働いていて、もしかしたら全然女の子には関心を示してくれない場所、というのを想像して若いあたしはくらくらしました。
あるいは美しい老教授と密室で限りなく清い身体的接触。
なんかけっこう隠微なところかも知れない。面食いゾーンとしての音大。
(我ながらろくでもないことばかり考えていたと思う。過去形。)
そういえば英会話学校なども、顔を優先して白人を雇うと流行る、などと言われている時期でした。
「あれも面食いゾーンかね」
「まさに!」
お泊まり女子1,2は同意しました。
「あれは・・・美容院とかと同じ感じかな?」
美容院というのは、髪の毛を切ってもらうとか言うこと以上に、自分の美について、他人がかまってくれることが大切な場所なのではないかしら、とあたしは思っていました。
だから、男性の美容師で、しかも色男だととても価値がある。
「今はお金がないからあんまりいいところには行けないけど、お金があったら、そういう時間を買いにいくね」とその1。
その2は「私は触られる人に対してピッキーだから、今でも無理して同じ人を指名しているよ」と言いました。
そして、彼女の担当美容師の容姿容貌、服装、手の形などについて、細かく描写しました。
手の形が美しいことは、絶対条件だそうでした。
自分だけに関心を向けてくれる時間
ああ、それぞれの面食い。
それぞれの面食いゾーン。
そこでは恋愛やパートナー選びとは全く関係がないチャンネルで、思う存分”あなたの好み”ってもんを表出して構わないわけです。遠い芸能人を愛でるのとはかなり違う。なにせ直接接触があるのだから。
このお泊り合宿面食い談義の、その後10年ぐらいして、英会話教室の男性インストラクターにこの話をしてみたことがあります。
「それで私たちの結論としては、英会話教室のインストラクターを選ぶのと、自分の担当美容師を選ぶのは非常に似ているってことになったの」
「技術も大事だけど好みの容姿だってことも重大だってことにおいて?」
「そうよ。美容室は、実は好みの男性が自分にだけ関心を向けてくれる時間を売っている!英会話教室も、個人レッスンやカウンセリングの時間には講師はその人にだけ関心を払っているでしょう?それが商品の一部なのよ」
「なるほど!ぼくらは美容師と同じなわけだ」
「一部の講師に人気が集中する理由も、そういうわけだと思う」
「そうかー。日本の英会話学校ってなんて値段が高いんだろ(当時は特にバカに高かった気がします)生徒が気の毒だと思っていたけど、そう考えると納得できるな」
そういう「需要」がもっともはっきりと表れている”面食いゾーン”がホストクラブなわけですが、そうしたあからさまな疑似恋愛を売り物にするところよりも、「後ろめたさがない分、女性客にとって心理的にも”安全”なのよ」という、あたしのうがった意見に対してもおおむね賛成してくれました。
彼はこの話を面白がってました。若いイギリス人で、人気のあるタイプだったと思います。しかし今気が付いたけど、もしもそのインストラクターが
極度にあたしの好みのタイプの男性だったら、あたしはこんな話を話題にしたかしら?
あたしは当時美容師に関しては初めてものすごい美男(当社比)と巡り会っていましたが(爆笑)英会話の練習の相手としてはもう断然知性とユーモア優先で、それは今も変わらないと思います。知性とユーモアは姿かたちに非常によく表れる、という意見もありますが、これはまた違うテーマですね。
つづく
おひねりをもらって暮らす夢は遠く、自己投資という名のハイリスクローリターンの”投資”に突入。なんなんだこの浮遊感。読んでいただくことが元気の素です。よろしくお願いいたします。