今日も水晶玉を見つめる。
水晶玉に映るのは、私より537歳若い人間の男。
…と、いつもそばにいる人間の女。
楽しく笑う2人。
水晶玉の向こうの彼を見るたび、あの日を思い出す。
森で帽子を無くした私。
隠さなければ、隠さなければ、と必死になって帽子を探していた。
「これ、君の帽子?」
そう声をかけられて見上げると、帽子を持っていたのは人間の若い男。
「あり…がとう」
久々に私の口から出た感謝の言葉。
下を向きながら帽子を受け取った。
人間に見られてしまったという恐怖からすぐさま逃げたかった。
けれども、足よりも先に口が動いていた。
「よかった!」
笑ってそう言う彼。じゃあ、と手を振って村の方へと消えて行った。
たった一度の出会い。
たった一度だけれども、400年近く一人で過ごす私には十分すぎる素敵な出会いだった。
今日も水晶玉を見つめる。
ただ、それだけ。
なにをするわけでもなく。
ただ、それだけ。
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蝕……ショク。むしばむ。少しずつ端からおかしていく。
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