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試合本番前のグルコース値を安定させる方法
パフォーマンスを最大限に発揮するためには、血糖値、つまりグルコースの管理が非常に重要です。特に、スポーツ選手や試験を控えた学生、あるいは舞台やプレゼンテーションに挑む人々にとって、エネルギー源であるグルコースを安定させることは成功の鍵となります。本記事では、血糖値を安定させるための具体的な食事や生活習慣、パフォーマンス直前の実践的なアドバイスを提供し、読者が本番に備えるためのサポートを行います。
目次
1. 血糖値とパフォーマンスの関係
2. 血糖値を安定させるための食事戦略
3. 本番前に血糖値を安定させる具体的な方法
4. 事例
5. 長期的な血糖値管理で本番に備える
6. まとめ
1.血糖値とパフォーマンスの関係
血糖値の基本的な役割
血糖値、つまり血液中のグルコース濃度は、私たちの身体と脳にとって主要なエネルギー源です。血糖値が安定していると、体力や集中力を持続させやすくなり、反対に不安定な場合、疲労感や注意散漫を引き起こします。これは重要なイベント前において致命的です。
血糖値が急激に上昇すると、一時的には血管中から送られるエネルギーが増加しますが、血糖値を下げようと、インスリンが分泌されるため、その後急激に血糖値が低下する「血糖値スパイク」が発生し、疲労感やだるさ、眠気を引き起こす可能性があります。このため、持続的なパフォーマンスが求められる場合、血糖値を一定に保つことが最優先事項となります。
血糖値がパフォーマンスに与える影響
スポーツでは、筋肉の収縮や酸素の供給に必要なエネルギーが不足すると、パフォーマンスが低下します。また、勉強などの頭脳の活動でも同様に、脳がエネルギー不足に陥ると集中力が続かず、判断力が鈍くなることがあります。マラソン選手であれば、レース前に血糖値を急上昇させない、ゼリーなどの糖質を摂ることが推奨されます。また、集中力が求められる試験やプレゼンテーションを控えたビジネスパーソンも、直前や最中に血糖値が急激に低下しないよう、グルコース管理が欠かせません。
一方で、口から摂取する糖分以外に血糖値が上昇する因子として、ストレスがあります。アドレナリン等のホルモンを、ストレスホルモンといいますが、これらは、肝臓中のグリコーゲンの分解を促進し、血糖値の上昇を引き起こします。試合になると不思議な力が出る、練習以上の能力が発揮される、ゾーンに入る、などの“火事場の馬鹿力”の正体は、「ストレスホルモン分泌に起因する肝グリコーゲン分解促進による血糖値上昇」といえます。アドレナリンなどのストレスホルモンは、緊張や興奮、集中状態でしか分泌されないので、“気持ち”のスイッチや制御によって、血糖値を高い状態で一定に保つことが重要です。
相反することを言っているようですが、血糖値とパフォーマンスの関係をまとめると、それはつまり、
「食事による糖質摂取ではなく、“気持ち(気合・集中力など)”で血糖値を高く安定させる」
ことが、試合本番での高いパフォーマンス発揮に必要になってきます。そのために、SympaFitアプリでは、その人に合った試合前のココロとカラダのアドバイスを提供します。
2.血糖値を安定させるための食事戦略
血糖値を安定させる食事の基本
食事は血糖値管理の最も重要な要素の一つです。低GI(グリセミック・インデックス)食品を中心に摂取することが、血糖値の急激な上昇を防ぐための基本的な戦略です。低GI食品には、全粒穀物、野菜、ナッツ、豆類、ヨーグルトなどがあり、これらはゆっくりと消化され、エネルギーが持続的に供給されます。
また、炭水化物を摂る際には、そのタイミングにも注意が必要です。パフォーマンス前の24〜48時間にわたって適切に摂取することで、エネルギーを安定的に供給できるようになります。加えて、タンパク質や健康的な脂肪をバランスよく取り入れることで、血糖値の急激な変動を抑えることができます。
マラソンなどの長時間の運動時などは、糖質を補給しなければいけない一方で、血糖値の急上昇/急下降を抑える必要があります。そういったときは、ランニング用のエネルギージェルに入っているような、パラチノース、マルチデキストリンといった血糖値上昇が起きにくい糖質を摂取することが推奨されます。
試合や試験前におすすめの食事例
競技や試験、重要なプレゼンテーション前の食事として、低GI食品をベースに、エネルギー補給と血糖値安定を両立させるメニューが効果的です。
• 朝食: 全粒パンにアボカドと卵、ヨーグルトとナッツを添えた食事。これにより、持続的なエネルギーが供給され、血糖値の急上昇を防ぎます。
• 昼食: 野菜と豆類を中心としたサラダに、鶏肉や魚などのタンパク質を加えたメニュー。消化がゆっくりな食材を選びましょう。
• 軽食: バナナとナッツ、グリークヨーグルトなど。これらはエネルギー補給に適しており、消化も良いためパフォーマンス前におすすめです。
避けるべき食事や習慣
一方で、血糖値の急激な上昇を引き起こす高GI食品(白パン、精製された砂糖入り飲料、スナック菓子など)は、パフォーマンス前には避けるべきです。また、大量の炭水化物を一度に摂取することも、急激な血糖値変動を引き起こす可能性があります。カフェインは興奮作用があり、ここぞの集中力やパワーを出すのによいのですが、一方で利尿作用もあるので、直前に大量摂取することは避けたほうが良いと思われます。カフェインの効能は、10時間近く続くとされているので、本番3,4時間前に、50-100 mg程度を目安に摂取することをおすすめします。
3.本番前に血糖値を安定させる具体的な方法
当日の準備と食事タイミング
パフォーマンス当日は、適切なタイミングで食事を摂取することが重要です。特に、本番の3〜4時間前にはバランスの取れた食事をし、その後1時間前には軽食を摂ると良いでしょう。
例として、スポーツ選手であれば、全粒パンとナッツバター、フルーツを組み合わせた軽食が推奨されます。また、アーティストや試験を控えた人も、軽いサンドイッチやスムージーなどが良い選択です。これにより、血糖値が安定し、持続的なエネルギー供給が可能になります。
血糖値を安定させるサプリメント
さらに、マグネシウムやクロム、オメガ3脂肪酸などのサプリメントを活用することも効果的です。これらは、インスリンの働きをサポートし、血糖値を安定させるのに役立ちます。特に、血糖値のモニタリングを行い、自分の体の反応を見ながら適切に摂取することが重要です。
睡眠とストレス管理の重要性
ストレスが血糖値に与える影響も無視できません。ストレスが増加すると、コルチゾールと呼ばれるホルモンが分泌され、血糖値が上昇する傾向があります。そのため、パフォーマンス前にはストレスを軽減するための方法、例えばメディテーションや深呼吸、ヨガなどを取り入れることが効果的です。
加えて、十分な睡眠も欠かせません。睡眠不足はインスリン抵抗性を引き起こし、血糖値のコントロールが難しくなります。パフォーマンス前夜は、少なくとも7〜8時間の睡眠を確保することを心掛けましょう。一方で、大切な試合の前夜は、なかなか寝付けないこともあるかと思います。箱根駅伝の選手の中には、2時間しか眠れないけど走れた、という選手もいます。前日の睡眠時間は、当日のアドレナリンでカバーできる可能性が高いですが、数日前から睡眠不足になるようであれば、気をつけたほうがよいです。
4.事例
有名なアスリートの中には、血糖値管理を徹底し、パフォーマンスを向上させた例が多くあります。たとえば、マラソン選手やトライアスリートは、レース前に食べたり飲むことによる糖質摂取に気をつける一方で、集中力や緊張/興奮をコントロールすることで、パフォーマンス前とパフォーマンス中の血糖値を最適な値にもっていくことができます。それによって、持続的なエネルギー供給と気持ちのコンディショニングを保ち、良い結果につなげています。
また、試験前に血糖値管理を徹底することで、集中力を高め、試験に成功した学生の事例もあります。このような成功事例を参考に、実践的なアプローチを取り入れることが大切です。
5.長期的な血糖値管理で本番に備える
日常的に血糖値を管理するための習慣
本番前だけでなく、日常的な血糖値管理が重要です。食事、運動、睡眠のバランスを整えることで、血糖値を安定させる習慣を身に付けることができます。例えば、定期的な運動はインスリン感受性を高め、血糖値の安定を助けます。
さらに、アプリやウェアラブルデバイスを使って血糖値をモニタリングし、自分の体調を把握することで、パフォーマンスの質を向上させることができます。
モチベーション維持のためのコツ
モチベーションを維持するためには、小さな目標を設定し、それを達成することが重要です。パフォーマンスが向上することで、自信が付き、継続的な血糖値管理が容易になります。実績を追跡することで、成功体験を積み重ねていきましょう。
6.まとめ
血糖値の安定は、パフォーマンスを最大限に引き出すために不可欠な要素です。食事として低GI食品を中心に取り入れ、タンパク質や健康的な脂肪をバランス良く摂取することで、持続的なエネルギー供給を実現しましょう。また、試合や試験の前には、適切な食事のタイミングと内容を見直し、血糖値の急上昇を避けることが大切です。
サプリメントの活用や、睡眠とストレス管理を通じて、血糖値の安定をサポートする方法も効果的です。長期的な習慣として、運動やモニタリングを行い、日常生活における血糖値管理を意識しましょう。専門家のアドバイスを参考に、自分に最適なアプローチを見つけることで、さらなるパフォーマンスの向上を目指してください。
寄稿者
代表取締役 加治佐 平
順天堂大学 革新的医療技術開発研究センター特任准教授
2003年 東京大学野球部投手卒
2009年 東京大学大学院農学生命科学研究科博士終了
2013年〜2019年 東京大学および東大発ベンチャーprovigateにおいて「涙で血糖値を測る」装置を研究開発
2019年〜 ㈱WorldTryoutにて、プロ野球選手を中心に、ゴルフ/テニストップジュニアなど幅広くアスリートサポート活動を行う
2023年 東洋大学陸上部の血糖値解析を基に、「血糖値でメンタルを読む」㈱SympaFit設立