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薪で焚く銭湯にエールを贈る

※この記事は過去にシン・エナジーの公式ブログ「ミラトモ!」に公開された2018年11月の記事の再掲です。内容はすべて当時のものです

重油ではなく、今も薪を使って経営している銭湯が神戸市内にある。
兵庫県公衆浴場業生活衛生同業組合に加盟する神戸市内の銭湯は現在47軒。このうち3軒が木材を燃料にしているという。
神戸市灘区篠原南町にある「ふじ温泉」はその一つ。阪急電車の六甲駅から歩いて4、5分。高い煙突のある建物の側壁と道路との間にある幅数メートルの敷地に燃料となる木材が3メートルほどの高さまでうず高く積み上げられている。

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父親の川道一雄さんと共同経営している川道雄亮(ゆうすけ)さんから話を聞いた。
「昭和30年(1955年)ごろ、ここで銭湯を経営していた方から私の祖父が譲渡を受けました。何度か改築し、現在は私、父、母、弟の家族全員でこの銭湯を切り盛りしています」

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なぜ薪を使っているのか。
「燃料の薪は建築廃材を一定の長さに切ったものです。建築廃材は家屋に使われている間に程よく乾燥するので、燃料として使いやすいのです。間伐材などの生木は水分が多く、また重油は便利ではあっても購入費がかかり、価格変動のリスクもあります」
「その点、建築廃材は重油よりはるかにコストを抑えることができます。ただ、むき出しになっている釘を抜いたり、チェーンソーに似たチップソーで建築廃材を一定の長さに切りそろえる手間がかかり、時には見えないところに釘が残っていたりして危険なこともあるのです」
話を聞きながら雄亮さんの手を見せてもらうと、過って切ってしまった傷跡が残る。

厚生労働省調べの全国の銭湯の数は1996年が9,461軒だったのが、20年後の2016年には3,900軒と58.8%減少した。同じ期間に兵庫県では399軒だったのが183軒と55%減少している。そんな厳しい環境の中をこの「ふじ温泉」は生き抜いてきたことになる。
ふじ温泉の1日の利用者数は150人前後。兵庫県の入浴料金(統制額上限)は大人430円だが、ふじ温泉では建築廃材を使うことでコストを切り下げ、大人370円と統制額より60円も安い料金にしている。しかも浴室内には普通の浴槽のほか、新陳代謝を促進するというラドン温泉の浴槽と、血行を促進するという人工炭酸泉の浴槽も設けている。こうした経営努力がしっかりしたファン層を築いている。

浴室に入ると炭酸泉は人気があるようで4~5人が浸かっている。
「家にも風呂があるけれど、この銭湯に来てラドン風呂や炭酸風呂に入るとあったまるし、疲れも取れるんですよ」―近所に住み、毎日来るという70歳前後のおじさんは湯船につかりながら笑みを浮かべて話す。
祖父、父、そして雄亮さんと3代にわたり薪を使い続けて来たふじ温泉。「今どき薪で」というより、地球に二酸化炭素の負荷をかけない再生可能エネルギーを燃料にしていることで、逆に時代の先端を走っている。

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「二酸化炭素排出量について行政から届く調査書にゼロと記載するとき、少し誇らしく感じます。燃え残った灰は農家の方に肥料用として無料で差し上げています。銭湯はお客さま同士のコミュニティーの場にもなっていて、これからも頑張って続けていきます」
廃材を燃料として使い、灰は農業に生かす。この無駄のない資源循環の一役を街に古くからある銭湯が担い、地域の人のつながりにも貢献している。
ふじ温泉にエールを贈りたい。

(2018/11/29 シン・エナジー広報/元日本経済新聞記者 府川浩・記)