FMTの最適なプロトコルについて語る(2) 〜内視鏡を使わなくてもできるの?〜
前回の記事では、FMTを実施する前に抗菌薬を投与することの是非や、移植回数、移植菌液量の試行錯誤を見てきた。
今回は、ドナーの人数や菌液を届けるルート、そしてドナーやレシピエント(患者)の食生活によって効果が変わるのかを見ていこう。
複数ドナーのいいとこ取りはできるのだろうか?
手軽にカプセル薬で治療できる時代は来るのだろうか?
移植前後に食生活を変えると、効果に差は出るのだろうか?
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マルチドナー
FMTにおいて、1人の患者に、あるいは1回の移植菌液に複数人のドナーを含める方法は、実は提供側からするとあまり採りたくない方法だ。
なぜならドナーの数が増えると、移植菌液のトレーサビリティにかかる手間が倍になるし、冷凍しているドナーの糞便も多めに使うことになるからだ。
こっそり言い添えておくと、それは単純にコストの増大を意味する。
とはいえ、複数のドナーを使用することで得られるメリットについても十分に検討しておく必要がある。
まず、ドナーの人数を増やすと、単純に移植菌液中に含まれる微生物の多様性が高まる。それがイコール効果につながるかどうかを理屈の上で判断するのは難しい。
潰瘍性大腸炎(UC)を対象としたいくつかの信頼性のある研究(1,2)で、マルチドナーは症状の寛解、炎症マーカーの低下、長期寛解に効果があったことが示されている。
さらに肥満患者へのFMTでは、2〜4名のドナー便を混ぜることで、患者の腸内細菌叢をより効果的に変えることに成功している(3)。
けれど、マルチドナーが本当に効果を高めるのかどうかを直接確かめたランダム化比較試験は今のところない。
ドナーと微生物という1対1の関係で築かれてきた生態系バランスを混ぜて、1人の患者腸内の生態系に移すことは、生態学的にどのような意味を持つのだろう。
考えるべきことは多い。
それでも、マルチドナーFMTには、例えばビフィズス菌優位な赤ちゃんドナーの便を少し混ぜてみたり、異なった腸内細菌叢バランスの組み合わせにより理想のドナーバランスを実現できるなど、期待できる点も多い。
投与ルート(大腸内視鏡、浣腸方式、経口カプセルなど)
意外と見過ごされがちだが、投与ルートによる効果の差もよく検討しておくべきだろう。
なぜなら、例えば上部消化管経由の投与ルートは有害事象の発生率が高いなど、FMTの結果が異なるからだ。
これは、同じ移植菌液であっても、投与ルートの違いによって患者の体が異なった受け入れ方をしている可能性があることを意味する。
ただし残念ながら現時点では、どの投与ルートがもっとも有効かを示す直接的な研究はほとんどない。
現在のところ、FMTの投与ルートには主に下記のものがある。
上部消化管内視鏡
経鼻胃管/経鼻十二指腸チューブ
浣腸
大腸内視鏡
経口カプセル
よく使われる方法は大腸内視鏡や浣腸によるもので、これは移植菌液の量の多さを考慮してのことだろう。
一方で、カプセルに関しては意欲的に研究が行われており、有効性も確かめられている。
300人以上が参加した研究(4)では、再発性C.difficile感染症(rCDI)に対して凍結カプセル化された糞便が大腸内視鏡と同じ効果を示した。
さらに、カプセルは凍結乾燥状態で長期間保管することができるため、FMTのコスト削減にも一役買いそうだ。
いや、投与ルートをひとつに決めてしまう必要もないのかもしれない。
イタリアの研究者(5)らは、24の研究からドナー、移植前の患者、移植後の患者の腸内細菌叢を比較した。その結果、大腸内視鏡とカプセル投与の両方を行うことで、よりドナー由来の細菌が生着していることがわかった。
患者側の視点に立つとどうだろう。
上部消化管内視鏡や経鼻チューブは、体への負担が大きく、吐き気などの有害事象につながりやすい。
大腸内視鏡も、下剤による腸管洗浄や、施術時の痛みが避けられない。
浣腸は体に負担が少ないが、一般的な方法では大腸の奥まで菌液が届きにくいと考える研究者や医師も多い。
経口カプセルはどうだろう。
「うんちを飲む」と意識してしまうとちょっと気持ち悪くなるかもしれないが、飲み込む力が普通にある患者にとっては間違いなく一番簡単な方法だろう。
ただし、カプセルは十二指腸や小腸で溶けてしまい、菌液がばらまかれてしまうリスクもある。確実に大腸で溶けるカプセルを使うのが賢明だろう。それに、移植菌液の量が少ないという課題も解決する必要がある。
潰瘍性大腸炎の患者201名にFMTの「好み」を聞いたユニークな論文(6)では、患者は経口カプセルまたは錠剤での投与をもっとも好むという結果になった。
もし効果が同じで、安全性にも差がないなら、将来的に経口カプセルが有力な方法になるのかもしれない。
ドナーの食生活
腸内微生物たちは、私たちの食べたものから栄養を獲得して、増殖している。
当然のごとく、FMTで使用される移植菌液には、ドナーの食べたものが反映されているはずだ。
ここから、ドナーのスクリーニングに食事のアンケートを含めるべきではないかという推論が得られる。特定の疾患を持っていない健康な人でも、普段食べているものによって腸内微生物の状態は違うはずだからだ。
何を食べているドナーが望ましいのか、明確な答えはない。人種や年齢によっても違うはずだ。
この分野の研究はまだまだ黎明期と言っていいが、一般的に健康的な食生活をしているかどうかの目安にはなるはずだ。
現在では、多くのFMTプロトコルでドナーの食事、またはドナーの腸内細菌叢検査(腸内フローラバランス検査)は含まれていない。
※一般財団法人腸内フローラ移植臨床研究会によるFMTでは、どちらも実施している。
レシピエント(患者)の食生活
では、移植を受ける患者側の食生活はどうだろう。
移植前の食生活の変更は、ドナー由来の微生物の定着を助ける可能性があるし、移植後もその食生活を続ければ、長期的にその効果が持続するかもしれない。
ただし患者ごとに腸内環境が異なるので、画一的な食事指導は逆効果になる懸念もある。
それでも、とある臨床現場の医師の意見によると、FMTに合わせて自らの食生活を変更できるだけの柔軟性を持ち合わせている患者のほうが治癒率が高いそうだ。
せっかくFMTを行うなら、入ってきてくれる微生物たちがしっかり増えていけるような栄養源を摂ることを心がけたいものだ。
※FMTに関する記事へのリンクをまとめた記事はこちら。
1. Wei ZJ, Dong HB, Ren YT, Jiang B. Efficacy and safety of fecal microbiota transplantation for the induction of remission in active ulcerative colitis: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Ann Transl Med. 2022;10(14):802-802. doi:10.21037/atm-22-3236
2. Sood A, Mahajan R, Singh A, et al. Role of Faecal Microbiota Transplantation for Maintenance of Remission in Patients With Ulcerative Colitis: A Pilot Study. J Crohns Colitis. 2019;13(10):1311-1317. doi:10.1093/ecco-jcc/jjz060
3. Wilson BC, Vatanen T, Jayasinghe TN, et al. Strain engraftment competition and functional augmentation in a multi-donor fecal microbiota transplantation trial for obesity. Microbiome. 2021;9(1):107. doi:10.1186/s40168-021-01060-7
4. Vaughn BP, Fischer M, Kelly CR, et al. Effectiveness and Safety of Colonic and Capsule Fecal Microbiota Transplantation for Recurrent Clostridioides difficile Infection. Clin Gastroenterol Hepatol. 2023;21(5):1330-1337.e2. doi:10.1016/j.cgh.2022.09.008
5. Ianiro G, Punčochář M, Karcher N, et al. Variability of strain engraftment and predictability of microbiome composition after fecal microbiota transplantation across different diseases. Nat Med. 2022;28(9):1913-1923. doi:10.1038/s41591-022-01964-3
6. Marshall DA, MacDonald KV, Kao D, et al. Patient preferences for active ulcerative colitis treatments and fecal microbiota transplantation. Ther Adv Chronic Dis. 2024;15:20406223241239168. doi:10.1177/20406223241239168