世界のドナー便バンクをありったけ調べてみた 〜便移植(FMT)最前線〜
FMT(糞便微生物移植)が積極的に研究されるにつれ、血液バンクと同様に便のドナーバンクの需要が高まってきた。
便ドナーバンクがあれば、臨床研究を行う研究者や治療提供する医師たちは、自分たちでドナーを集めて検査し、糞便を保管し、移植菌液を作る必要がある程度なくなる。(何らかの検査項目やドナー選定にこだわりたい場合は別だが)
FMTへのハードルは一気に下がり、単一機関で実施するよりコストも抑えられる。
FMT便ドナーバンクには、主に大学病院や医療施設に付属するものと、会社や非営利組織として運営されているものがある。
今回は、世界の便バンク事情をインターネットで入手可能な限り調べてみた。
記事下部に日本国内のドナー便バンク事情も記載しているので、そこだけを読みたい方は目次から飛んでください。
・本文中のカッコ付き番号は、記事下部の参考文献の番号を表しています。
・用語解説はこちら(随時更新)
・主要記事マップはこちら(随時更新)
アメリカ
組織名:OpenBiome
ウェブサイト:https://openbiome.org/
国:アメリカ
設立年:2013年1月15日
詳細:マサチューセッツ工科大学の大学院生2人とその指導教官により立ち上げられた非営利組織。設立経緯は『あなたの体は9割が細菌』P371に記載されている。
設立当初から全国の病院へのFMT菌液供給機関として重宝されてきた。
2013年春、FDAがごく一部の認定医療機関以外でFMTの実施を禁止する発表を行ったが胃腸科専門医からの激しい抗議によりすぐに撤回された。
その後、2022年にFDAが第三者組織としての便バンクを事実上認めない方針を示したため、現在はミネソタ大学と連携してFDAの指針に沿った形で運営している。
常に規制と隣り合わせの大変な状況だが、2024年2月までに70,000件以上のFMT菌液を提供し、多くのCDI患者の命を救っている。
30種類以上の疾患に対して治験も行っており、論文数も相当ある。(https://openbiome.org/microbiome-education/publications/)
ドナースクリーニング:現在募集なし。
対象疾患:クロストリジオデス・ディフィシル感染症(CDI)
カナダ
組織名:MTOP
ウェブサイト:https://mtop.ca/get-involved/
国:カナダ
設立年:2016年
詳細:トロント大学マイクロバイオータ治療成果プログラム(The University of Toronto Microbiota Therapeutics Outcomes Program (MTOP))の一環として実施されている。
ドナースクリーニング:
ドナー候補者はまず、以下の質問に答えることを求められる。
このあと、血液検査や便検査を受けることになる。
ドナー便に対しては報酬が支払われる。
対象疾患:クロストリジオデス・ディフィシル感染症(CDI)、炎症性腸疾患、肥満、2型糖尿病、メタボリックシンドローム、不安、うつ病、さまざまなアレルギーおよび自己免疫疾患など、広範囲の慢性疾患
さまざまな疾患を対象としたFMTにおけるドナー選定に関する論文(1)を出版している。
組織名:マクマスター小児病院
国:カナダ
設立年:2023年
詳細:ハミルトンヘルスサイエンス(HHS)マクマスター小児病院(MCH)による小児用便バンク。再発性C. difficileに対して使用される。
マクマスター大学とマクマスター小児病院は、小児IBDとFMTに関する論文(2)を出版するなど、かねてより小児腸疾患とFMTについて関心を寄せていた。
ドナースクリーニング:小児のドナーを募集している。
対象疾患:小児クロストリジオデス・ディフィシル感染症(CDI)
オーストラリア
組織名:消化器病センター(Centre for Digestive Diseases (CDD))
ウェブサイト:https://centrefordigestivediseases.com/faecal-microbiota-transplantation/
国:オーストラリア
設立年:1984年(FMT実施は1988年から)
詳細:Thomas Borody氏がシドニーで設立した消化器病センターではこれまでに14,000件のFMTが実施されており、彼はオーストラリアのFMTにおける権威的存在となっている。
彼は長年をかけて独自のFMTプロトコル(CDD FMTプロトコル)を作り上げ、これをもとに治療を実施している。
https://centrefordigestivediseases.com/cdd-fmt-protocol/
また、潰瘍性大腸炎(UC)に効きやすいドナーの特徴を研究する(3)など、FMTの手法改善に尽力している。
ドナースクリーニング:
16歳から60歳まで
毎日健康で形のいい排便がある
収集から2時間以内に便をセンターに届けることができる
全体的に健康で、BMIが正常である
不調、慢性または急性の病気がない
薬を飲んでいない
定期的な健康診断に参加し、スクリーニング検査を受ける意思がある
→これらにチェックがつけば、正式な申込みを行うことができる。
さらに、ドナーに対しては厳格な食事制限がつくところがユニークな取組みである。
ドナーになると、便の提供の3〜4日前から以下のような食生活への変更を「強く」勧められる。
摂取すべき食品
すべてのパン、シリアル、穀物は全粒粉を使用すること。これにはパン、パスタ、米、朝食用シリアルが含まれます。
新鮮な野菜をたくさん食べること(トウモロコシを除く)。
豆類や豆の加工品を食事に含めること(レンズ豆、ひよこ豆、豆類、ホムス)。
1日に少なくとも2つの果物を食べること。
1日少なくとも1リットルの水を飲むこと。
ドナーには、腸内の善玉菌の増殖に適した環境を作るのに役立つとされるサプリメントの摂取が推奨されます。これらのサプリメントには以下が含まれます。
アップルペクチン
イヌリン – 注意: メーカーが指定する最低の治療用量から始めることが推奨されます。
N-アセチルグルコサミン (N-A-G)
避けるべき食品
貝類、エビ、カキ、生魚、サラミ、ハムやソーセージなどの加工肉を避けること。
すべての抗生物質を避けること。
参考:https://centrefordigestivediseases.com/the-cdd-donor-diet/
対象疾患:クロストリジオデス・ディフィシル感染症(CDI)、潰瘍性大腸炎(UC)を含む炎症性腸疾患(IBD)、過敏性腸症候群(IBS)など
さらに多発性硬化症などの自己免疫疾患、自閉スペクトラム症などへの効果も経験している。
組織名:BiomeBank
ウェブサイト:https://www.biomebank.com/
国:オーストラリア
設立年:2018年
詳細:オーストラリアで初となる第三者便バンク。
2022年、世界で初めてのFMT承認薬「Biomictra」を開発した会社で、現在は再発性クロストリジオデス・ディフィシル感染症(rCDI)患者に対する提供を行っている。
当社ではドナー便に頼ることのない人工便をつくる技術を確立し、将来的にドナーの寄付から人工培養した微生物への移行を目指している。
2025年からは潰瘍性大腸炎を対象とした治験が始まる予定。
設立者へのインタビューが下記に記載されている。
https://www.abc.net.au/news/2020-03-09/first-public-poo-bank-in-adelaide/12034138
ドナースクリーニング:
ドナー候補はまず下記の項目をセルフチェックする。
健康であること
18歳から50歳までの年齢であること
アデレード首都圏に住んでいるか、アデレード中央の21 North Terraceにあるドナ施設に定期的に通えること
次の条件に該当する場合はドナーになれない:
治療中の疾患がある
妊娠している
プログラム開始前3ヶ月以内に経口抗生物質治療を受けた
牛海綿状脳症(狂牛病)に曝露される可能性のある地域に住んでいた
現在喫煙者であるか、過去90日以内に喫煙したことがある
過去に腸疾患(過敏性腸症候群、炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎を含む))を患ったことがある、または胃腸障害の症状や胃関連の癌、または手術を受けたことがある
以下の感染症に罹患したことがある:HIV、HTLV、梅毒、B型肝炎、C型肝炎
自己免疫疾患、心臓病、糖尿病、高コレステロール、脳卒中と診断されたことがある
生体または非生体の人細胞や組織を受け取ったことがある、または移植を受けたことがある
条件を満たした場合、面接と便、血液検査、鼻腔拭き取り検査を行う。
合格すれば、オンサイトで便を提供し、寄付あたり25ドルを受け取る。
詳細は下記を参照
https://www.biomebank.com/stool-donation/
対象疾患:再発性クロストリジオデス・ディフィシル感染症(rCDI)
ヨーロッパ
ヨーロッパでも、各国でFMT便バンクの整備が進んでいる。ただ、全体としてアメリカやオーストラリアのような組織だった便バンクの情報はあまり見つけられなかった。
それぞれの国の言語で検索する必要があるのかもしれない。
ここでは、2020年にフランスとドイツの研究者らがまとめた論文(4)と、2019年にUEG(United European Gastroenterology )のグループが医療機関付属の便バンクにアンケートを実施してまとめた論文(5)、そして筆者による検索によって情報を集めた。
オランダ
オランダは、アムステルダム大学の研究者らが世界で最初の非常にインパクトのあるFMTのランダム化比較試験(6)を発表した経緯も手伝って、もっとも早くからFMTが普及してきた国のひとつだ。
組織名:NDFB(Netherlands Donor Feces Bank)
ウェブサイト:https://www.ndfb.nl/
国:オランダ
設立年:2015年
詳細:
レイデン大学医療センターが主体となって設立。
まだ国際的なガイドラインが定まっていない時期から便バンク運営の指針を示し(7)、ヨーロッパのFMT先駆者となった。
ドナー便の処理を含めて、ここで確立された方法が多くの国でFMT標準法として採用されている。
ドナースクリーニング:
候補となったドナーは、いくつかの問診、便検査、血液検査を経て合否が決定される。
合格するのは全候補者の10〜20%程度。
https://www.ndfb.nl/screening.html
報酬はなし。
対象疾患:
原則としてクロストリジオデス・ディフィシル感染症(CDI)
IBDなどその他の疾患の場合は、定められた治験手続きを踏んだあと、提供可能。
イギリス
組織名:マイクロバイオーム治療センター(Microbiome Treatment Centre (MTC))
国:イギリス
設立年:2017年
詳細:
もともとはPeter Hawkey氏が2014年に設立したPHE Public Health Laboratory Birminghamが発展したもの。
現在はバーミンガム大学に附属する形で、イギリスの法律Medicines and Healthcare products Regulatory Agency (MHRA) を満たすライセンスを持つ国内初の便バンク組織として活動している。
2020年に結果報告の論文(8)を出している。
ドナースクリーニング:
原則として国のガイドライン(9)に従う。
基本的な問診への回答に加えて、便検査、血液検査を含む。
18歳から50歳で、非喫煙者で、ブリストルスケールが2〜5の人が対象。
報酬は、10日寄付ごとに200ポンド。
対象疾患:再発性クロストリジオデス・ディフィシル感染症(rCDI)、または治験
組織名:NIHR FMT Trials
ウェブサイト:https://www.fmt-trials.org/
国:イギリス
設立年:2018年
詳細:Guy's and St Thomas' NHS Foundation Trust、King's College Hospital、King's College Londonによる共同プロジェクト。
2018年にGuy's and St Thomas' NHS Foundation TrustのSimon Goldenberg氏が国によるライセンスを取得し、実施を開始した。
ドナースクリーニング:
年齢が18歳から60歳
ロンドン(M25内)に住んでいる
定期的に薬を服用していない(錠剤や注射剤、クリームやローションは許可される)
過去3ヶ月以内に抗生物質を服用していない
長期的な病状がなく、健康である
標準体重(BMIが18~30)
HIVや肝炎を含む様々な病原体のスクリーニングを受ける意思がある
対象疾患:
主な対象はクロストリジオデス・ディフィシル感染症(CDI)だが、潰瘍性大腸炎(UC)にも行われている。
https://www.guysandstthomas.nhs.uk/health-information/faecal-microbiota-transplantation-fmt
組織名:Portsmoth Hospitals
ウェブサイト:不明
国:イギリス
設立年:2013
詳細:
2020年に発表された論文(4)には名前があるものの、Webでは情報を見つけられず。
組織名:TML.Science
ウェブサイト:https://tml.science/
国:イギリス
設立年:2011年(FMTの開始が2011年で、設立は2003年)
詳細:イギリスの医薬品・医療製品規制庁(MHRA)の認可を受けた第三者組織。ソーシャルビジネスとしての商業便バンクの形態を採っている。
母体にTaymount Clinicという医療機関があり、いくつかのパートナークリニックとともにFMTを民間サービスとして提供している。
10日間のFMTプログラム:約100万円
5日間のCDI限定プログラム:約50万円
参考:https://taymount.com/fmt-programmes/
ドナースクリーニング:
下記の項目
仕事環境
BMI
ライフスタイル(運動、食事、喫煙、薬物使用、アルコール使用など)
排便の頻度とタイプ(ブリストル便形状スケールに基づく)、および糞便に関連する問題や薬の使用
歯の健康(歯の手術や詰め物を含む)
過去6ヶ月間に受けたタトゥー、ピアス、鍼、針刺し傷
代謝症候群(過体重、高血圧、脂肪肝、糖尿病など)
現在または過去の癌や自己免疫疾患
HIV、梅毒、B型肝炎、C型肝炎、プリオン感染症、神経疾患の健康リスク要因
胃腸の併存症(炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、慢性便秘、下痢など)
過去6ヶ月間に受けた輸血
過去2年間に使用した抗生物質
これまでに使用した全身免疫抑制剤
糞便寄付の6ヶ月前以内に受けた生ワクチン
現在または過去に化学療法を受けたことがあるか
精神的健康状態(うつ病やその他の精神疾患、本人や家族の歴史を含む)
血液検査、便検査の詳しい検査項目については下記リンクを参照
https://tml.science/donors
対象疾患:
クロストリジオデス・ディフィシル感染症(CDI)、その他疾患
フランス
組織名:Hôpital Saint Antoine AP-HP 糞便移植センター
ウェブサイト:https://saintantoine.aphp.fr/centre-de-transplantation-fecale-de-laphp/
国:フランス
設立年:2014年
詳細:
治験を除くと、再発性クロストリジオデス・ディフィシル感染症(rCDI)のみを対象として実施されている。
2020年にはクローン病に対するランダム化比較試験(10)も行うなど、対象疾患の拡大に精力的である。
YouTubeチャンネルも開設されている。
https://youtube.com/@centredetmfdelap-hp6979?si=Vt90tt5z3Id1wNXk
ドナースクリーニング:不明
対象疾患:
臨床現場では再発性クロストリジオデス・ディフィシル感染症(rCDI)のみ。
その他疾患は治験扱い。
ドイツ
組織名:Cologne Stool Bank
ウェブサイト:不明
国:ドイツ
設立年:不明
詳細:Cologne大学病院の所属。Web上で公式サイトなどは見つけられなかったが、複数の論文(5,11,12)でUEG(United European Gastroenterology)のワーキンググループとして名を連ねており、国際基準に則った形でドイツでの院内ドナーバンク事業を実施していると思われる。
ドナースクリーニング:不明
対象疾患:不明
スペイン
組織名:Hospital Universitario Ramón y Cajal
ウェブサイト:不明
国:スペイン
設立年:不明
詳細:こちらもドイツと同様。
ドナースクリーニング:不明
対象疾患:不明
イタリア
組織名:ジェメリ大学病院消化器病センター
ウェブサイト:なし
国:イタリア
設立年:2018年?
詳細:イタリアでは、ジェメリ大学病院消化器病センターのGianluca Ianiro氏らを中心にFMT研究が盛んな国のひとつだ。彼は主要な国際ガイドラインの策定に携わるなど、ヨーロッパでのFMTを積極的に勧めている人物の一人と言っていい。
公式の便バンクウェブサイトはないものの、ドナーバンク運営の報告をまとめた論文(13)を出している。
ドナースクリーニング:
かなり厳格に行っている。通常の問診、血液検査、便検査、追加の問診に加え、提供されたすべての便において検査を実施していた期間もあり(14)、コストは高いと思われる。
対象疾患:不明
この他、オーストラリア、デンマーク(15)、フィンランド、ブルガリア(16)にも便バンクがあり、ヨーロッパでは大学病院が中心となって便バンクを運営するスタイルが主流のようだ。
アジア
アジアにもいくつかの便バンクが存在する。
中国
組織名:China Microbiota Transplantation System (CMTS)
ウェブサイト:http://fmtbank.org/en/home-en/
国:中国
設立年:2015年
詳細:
南京医科大学第二附属医院のFaming Zhang氏らが立ち上げた非営利組織。
緊急にFMTが必要な場合での使用が想定されており、日本、欧米、オーストラリアからの患者も受け入れている。FMTの適応かどうかを自動で判断させるシステムを構築している。
また移植懸濁液作製方法としては自動微生物精製システム「GenFMTer」を使ったwashed microbiota transplantation (WMT)という方法が確立されており、移植ルートについてもTransendoscopic Enteral Tubing(TET) という結腸チューブを用いた方法を開発している。
ドナースクリーニング:
他の便バンクに比べてドナー年齢が低いことが非常に特徴的。
・性的経験のない10〜18歳が好ましい。時には健康な大学生や大学院生や若いスタッフを選ぶこともある。特定のケースでは、子供も含めることができる。
・便検査を実施して、感染症や炎症、病原性感染症が認められないこと。
・他のドナースクリーニング基準を実施することもある。
・書面によるインフォームドコンセントは、ドナーまたは未成年のドナーの両親または法定後見人から取得する必要がある。
対象疾患:クロストリジオデス・ディフィシル感染症(CDI)を含む重篤な感染症、偽膜性腸炎、薬剤耐性菌感染症など
香港
組織名:アジアマイクロバイオータバンク(The Asia Microbiota Bank)※休止
ウェブサイト:http://asiabiobank.com/
国:香港
設立年:2016年
詳細:
FMTを提供したい医療機関が登録し、移植菌液を購入する方式。
ソーシャルビジネスとしての商業便バンクの形態を採っている。
凍結経口カプセル形態または凍結液体形態(大腸内視鏡または浣腸方式での移植を想定)の製品をラインナップしている。
Fecal Microbiota Trandplantation(FMT, 糞便微生物移植)ではなく、Human Microbiota Transfer(HMT, ヒト微生物移植)と呼称しているところがユニーク。
新型コロナ(Covid-19)のリスクを鑑み、2020年2月から現在まで事業を休止している。
ドナースクリーニング:
欧米のスクリーニング基準に加え、炎症性マーカーや消化器の健康状態などの追加項目を設定している。ドナーは150項目の問診、50項目以上の検査を合格する必要がある。
【質問例】
お腹の調子はいいですか?
寄付期間中は18〜50歳ですか?
あなたのボディマス指数(BMI)は30未満ですか?
過去3ヶ月間、薬や抗生物質を服用していませんか?
最低3ヶ月以上、週に3回以上の寄付が可能ですか?
対象疾患:
過敏性腸症候群(IBS)、炎症性腸疾患(IBD)、クロストリジオデス・ディフィシル感染症(CDI)、潰瘍性大腸炎(UC)、またはその他の消化器疾患などの慢性腸疾患
組織名:香港中文大学
ウェブサイト:https://www.cuhkibd.org/stoolbank
国:香港
設立年:不明
詳細:当大学の臨床研究に参加する形
ドナースクリーニング:不明
対象疾患:クロストリジオデス・ディフィシル感染症(CDI)、過敏性腸症候群(IBS)、糖尿病
日本
最後に、国内の便バンク動向を調査した。
Web検索で確認できる範囲では、2件ヒットした。
ちなみに筆者は、一般財団法人腸内フローラ移植臨床研究会の関連組織であるシンバイオシス株式会社の社員だ。
極力中立的な立場で書くように心がけるが、事業に携わっている分知っていることも多く情報が多めになるのでご留意いただきたい。(ドナーバンク運営担当ではないが)
組織名:Japanbiome®(一般財団法人腸内フローラ移植臨床研究会に所属)
ウェブサイト:https://fmt-japan.org/technical-features/japanbiome
国:日本
設立年:2017年11月(一般財団法人腸内フローラ移植臨床研究会に準ずる)
詳細:非営利組織である一般財団法人腸内フローラ移植臨床研究会に所属し、会員医師らによるドナー選定を行っている。
実際の運営はシンバイオシス株式会社に委託し、当社が移植菌液の作製などを行っているため、イギリスのTML. Science同様、ソーシャルビジネスとしての商業便バンクの形態を採っている。
実際にFMTを受けるためには、提携医療機関を受診する必要がある。
2023年に自閉スペクトラム症を対象とした特定臨床研究を実施し、現在論文投稿準備中。
ドナースクリーニング:
現在、不特定多数からの新規のドナー募集は行っていない。
<問診票>
年齢、性別、身長、体重、抗生物質使用歴、自然分娩/母乳育児、既往歴、薬やサプリメントの使用状況、渡航歴、食習慣、睡眠習慣、等々
<医師による診察>
血圧、脈拍、聴診、尿検査
<血液検査、便検査>
詳細は以下を参照。
https://fmt-japan.org/technical-features/japanbiome
対象疾患:
特別な制限はなし。ただし、主治医が適応と認めない場合を除く。
組織名:J-Kinsoバンク(メタジェンセラピューティクス株式会社に所属)
ウェブサイト:https://www.metagentx.com/microbiome-bank/
国:日本
設立年:2024年4月
詳細:
「腸内細菌を用いた医療技術および医薬品の研究開発への活用を目的とした腸内細菌叢バンク」としては日本初を掲げる便バンク。
順天堂大学と共同でさまざまな取組みを行っており、当ドナー便バンクで集めた便も、順天堂大学における臨床研究などに活用される。
ドナースクリーニング:
18歳以上65歳以下の日本国内在住で、健康な人
※除外項目
https://d1p0jrn7ed6hqy.cloudfront.net/web-questionnaire.pdf
特定の医療機関で 「血液検査」「腸内細菌叢検査」「唾液検査」と問診による厳格な適格性検査を受ける場合がある。
対象疾患:
不明
(以下は、便バンクではなく先進医療等としてFMTを提供しているいくつかの大学病院を列挙する。)
組織名:滋賀医科大学医学部消化器内科(他3施設)
ウェブサイト:https://www.senshiniryo.net/repo/37/index.html
特徴:2020年3月に先進医療として藤田医科大学、順天堂大学、金沢大学と共同で臨床研究を開始。
ドナースクリーニング:患者が自分で確保する必要がある。
対象疾患:クロストリジオイデス・ディフィシル関連下痢症・腸炎
組織名:順天堂大学医学部附属順天堂医院(他3施設)
特徴:2023年1月より、先進医療Bとして潰瘍性大腸炎(UC)患者を対象に臨床研究を開始。
金沢大学付属病院(石川県)、順天堂大学医学部附属静岡病院(静岡県)、滋賀医科大学医学部附属病院(滋賀県)でも受診が可能である。
抗菌薬を併用して患者の腸内細菌を一旦「リセット」する方法が特徴的。
ドナースクリーニング:
18歳以上の健康な人
便、血液、唾液の検査を実施して合否を決定
現在、Webからドナー募集は実施していない。
対象疾患:潰瘍性大腸炎(UC)※細かい参加基準あり
※追記
2024年8月9日、国立研究開発法人国立がん研究センター、学校法人順天堂 順天堂大学、メタジェンセラピューティクス株式会社が共同で新たな臨床試験の開始を発表した。
食道がん・胃がん患者さんを対象とした「腸内細菌叢移植」の臨床試験を開始~免疫チェックポイント阻害薬と腸内細菌叢移植併用療法の安全性と有効性を検討~
※FMTに関する記事へのリンクをまとめた記事はこちら。
1. Hota SS, McNamara I, Jin R, Kissoon M, Singh S, Poutanen SM. Challenges establishing a multi-purpose fecal microbiota transplantation stool donor program in Toronto, Canada. J Assoc Med Microbiol Infect Dis Can. 4(4):218-226. doi:10.3138/jammi.2019-0003
2. Wang AY, Popov J, Pai N. Fecal microbial transplant for the treatment of pediatric inflammatory bowel disease. World J Gastroenterol. 2016;22(47):10304-10315. doi:10.3748/wjg.v22.i47.10304
3. Haifer C, Luu LDW, Paramsothy S, Borody TJ, Leong RW, Kaakoush NO. Microbial determinants of effective donors in faecal microbiota transplantation for UC. Gut. 2023;72(1):90-100. doi:10.1136/gutjnl-2022-327742
4. Nicco C, Paule A, Konturek P, Edeas M. From Donor to Patient: Collection, Preparation and Cryopreservation of Fecal Samples for Fecal Microbiota Transplantation. Diseases. 2020;8(2):9. doi:10.3390/diseases8020009
5. Baunwall SMD, Terveer EM, Dahlerup JF, et al. The use of Faecal Microbiota Transplantation (FMT) in Europe: A Europe-wide survey. Lancet Reg Health – Eur. 2021;9. doi:10.1016/j.lanepe.2021.100181
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8. McCune VL, Quraishi MN, Manzoor S, et al. Results from the first English stool bank using faecal microbiota transplant as a medicinal product for the treatment of Clostridioides difficile infection. EClinicalMedicine. 2020;20:100301. doi:10.1016/j.eclinm.2020.100301
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12. Cammarota G, Ianiro G, Kelly CR, et al. International consensus conference on stool banking for faecal microbiota transplantation in clinical practice. Gut. 2019;68(12):2111-2121. doi:10.1136/gutjnl-2019-319548
13. Ianiro G, Porcari S, Bibbò S, et al. Donor program for fecal microbiota transplantation: A 3-year experience of a large-volume Italian stool bank. Dig Liver Dis. 2021;53(11):1428-1432. doi:10.1016/j.dld.2021.04.009
14. Rondinella D, Quaranta G, Rozera T, et al. Donor screening for fecal microbiota transplantation with a direct stool testing-based strategy: a prospective cohort study. Microbes Infect. Published online April 26, 2024:105341. doi:10.1016/j.micinf.2024.105341
15. Kragsnaes MS, Nilsson AC, Kjeldsen J, et al. How do I establish a stool bank for fecal microbiota transplantation within the blood- and tissue transplant service? Transfusion (Paris). 2020;60(6):1135-1141. doi:10.1111/trf.15816
16. gianni. Establishment of the first stool bank in an Eastern European country and the first series of successful fecal microbiota transplantations in Bulgaria. European Review. Published January 15, 2021. Accessed August 5, 2024. https://www.europeanreview.org/article/24406