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琴に鈴 奏で遊ぶは 神の舞
折々、機会に恵まれると、舞人とのコラボをさせていただいているのですが、
最初のきっかけであり、強く望んだのは、
こちら、舞踏家・加藤おりはさんとの出会いからでした。
出会いは、
さるご縁の導きにより、五年前の夏至の夜、
私的な催しではありましたが、お声がけいただき、
奈良県の天河辨財天社様のご神前能舞台にて、
演奏家・奈良裕之さん
舞踏家・加藤おりはさん
と私、大和歌・瀧里しひな
の三人で、ご奉納をさせていただくという、とんでもない栄誉な僥倖でした。
(なにが僥倖って、世界的に活躍なさる有名なプロの方の中、私だけ無名の身で抜擢されたのですから!!)
天上に近いかみやしろの沙庭舞台上において、
まず奈良裕之氏による音開き、
続いて加藤おりはさんの神舞、
私は、それらすべてを統合した聖域における躍動と神気を心身におとし、即興で和歌を琴のねと共におろすお役目でした。
それぞれが、原初的な神つとめを果たせる者として招かれ、
楽と舞のおふたりは、極められた技術により魂を表出する匠として、
私の場合、和歌・短歌を学んできた経歴により、琴を弾くことで即興で和歌を読み歌える、それまで人前で活動をしてこなかったゆえに虚飾することがないということで、選ばれたそうです。
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その際に、加藤おりはさんは、
天河辨財天社様の御神宝・五十鈴による鈴振り御神事を舞踏として確立された、五十鈴たたら舞を、リズム波動奏者の丸山太郎さんと共に、初めてお披露目なさいました。
それまで天河での鈴振り神事をなさっていたかた直々のお墨付きにより具現化した、
これぞ天之鈿女命の舞です。
ただみごとに美しいだけでなく、長年フラメンコをはじめ世界の舞踊を極めて鍛え抜かれた肢体により、足拍子(たたら)を踏みつつ、振るのではなく体幹で五十鈴を鳴り響せる、
このような鈴の響きはかつて聴いたことがない。
優美でありながら躍動感にあふれた神魂一体の舞は、ブレも淀みも一切なく、まるで神により造形された天地の柱の如き安定感の中、音と響きを一体で顕す、繊細な所作のすべてが素晴らしくて。
人による心身魂の舞が、これほどに素晴らしいと感じたのは、生涯で初めてでした。
私はお役目の神歌おろしの前に、おりはさんの五十鈴たたら舞をまのあたりにしたのですが、
私の中の岩戸開きがなされた心持ちになり、
私の出番の際には、舞の熱気がおさまる静寂と、芸能の神の感極まる吐息のような、天河の川音と御神気のみに包まれ、
夢うつつともなく、浮かびいづる和歌を、歌い綴った感覚が、今も深く心身に留まっています。
(おろした和歌は、歌ったあとは覚えていません。記録も残されておりません)
この時から、おりはさんの舞に、琴と歌を重ねたいと望む想いがずっとありました。
私は常は独りの境地で、爪弾く琴の響きに心を澄ませ、ほぼ内観で和歌をおろし歌っていたけれど、
躍動する舞のリズムや織りなす所作と、一体になって歌ってみたいと初めて望み、おりはさんにもその話はして、折に触れ構想していました。
が、何しろ世界を飛びまわりご多忙極まるプロ活動をなさるおりはさんには、会う機会を得るだけでも難しくて。
不幸中の幸いにも、世界中が活動停止している、2020年からのほぼ四年の間に、
ようやく希望が叶って実現したのでした。
当時私がご縁をいただいていた、東京と神奈川の神社様へのご奉納にいらしていただけて。
簡易機器の映像では、音も響きも、所作の輝くような素晴らしさも、伝わりきれないのが残念。
天河のお披露目のあと、
五十鈴たたら舞は、愛知を中心に教室が開かれ、舞人を育てながら、各地に拡がりつつあり、
今は、お弟子さんたちによる、群舞の活動も行われております。
機会に恵まれると、私も招いていただき、
さまざまな場にご一緒させていただきました。
おりはさんとは立場の違いもあり、私には望んでも叶わぬ場も多いし、
常は別々の離れたところにいて、常時ご活動を拝見できないのは、寂しい限りですが、
有名無名やプロアマの立場、公私の場に関わらず、
私はただ個人として、
舞が、天に描く旋回文様の所作と、足踏みのリズムにのせて、琴を奏で和歌を歌う、
即興共奏が、幸せでならない。それ限り。
たたら舞の栄えに便乗して売名したいわけでも、誇りたいのでもない。
一度、おりはさんとふたりで、プライベートで旅しながら、いにしへの都の故地にて、心惹かれる場所場所において即興した日がありました。
至福極まりない思い出です。
舞、歌、共に心は、あまりの心地よさに、
大和の原初に立ち返る思いに満たされました。
次第に場を拡げ、さらに有名になっていく、五十鈴たたら舞と、おりはさんとは、
次にいつ…もしかしたらもう次はないかも…と、
ひとつの機会ごとに、渾身の想いで臨み、
叶うならまた共にと願い、
いつも心にあの波動を描きつつ、
今はひとり、志だけを糧に、歌い奏で続けております。
ご縁ができるなら、新たなさまざまな音奏者や舞人と出会いたい希望も、胸に抱きつつ。