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タブー全破りから始まる異世界転生

ラノベや小説のタブー一覧

  • 安易な擬音を多用する

  • 良くある吸血鬼、エルフ、天使、悪魔を使用

  • 老人、子供を主人公に使用

  • 世界観に合わない描写をする

  • 冒頭部に設定を延々と書く

  • 登場人物を不必要に多くする

  • 時系列の混乱

  • キャラクターの無個性ぶり

  • キャラクターの設定にオリジナリティが無い

  • キャラクターの行動に動機がなく、物語がご都合主義

  • 物語の方向性が不定

  • 物語に登場人物たちにとっての障害が発生しない

  • テーマが既存作品の焼き直し

  • 物語上必要のない設定

  • 意味のない暗いテーマ

  • プロットの練り方が甘い

  • 時系列の流れが不自然

  • 物語の情景描写不足

  • 文章が難解かもしくは文法的に問題あり

  • 伏線的要素が無さ過ぎ

  • 読んでいて冷める下ネタが多い

  • この作品の最大の魅力はこれ!というものが無い

  • 時代もの、ハードSF、官能小説要素

  • ワンパターン紋切型の感情表現

  • AIで良くある取って付けた締めの言葉

第1章:とにかく長い設定説明&“実はトラックに轢かれて転生”の一文だけ

 「バンバン! ドゴーン!」――まるで安易な効果音を誰かが机上で連打したかのように、この物語はあまりにも軽薄な轟音とともに幕を開くのだった。どうにも取って付けたような始まりに、戸惑う者はまだ誰もいない。なぜなら、この世界はそもそも「取って付けたような」要素ばかりが溢れかえっているからだと、誰もが感じつつも口には出さないだけだった。

 ここは「アルファ・オメガ・セブン・時空ノ荒野・アンドエトセトラ」と呼ばれ、いかにも長ったらしく意味不明な名前を冠した場所である――と、物語は唐突に説明されようとしていた。だが、それが本当の名かすら疑わしい。太陽が三つあり、重力が気まぐれに逆流し、さらには石油を燃料とするはずの帆船が空を飛ぶというのだから、誰もが状況を呑みこめないまま物語が始まりにすぎないのだった。しかも、この世界には量子ワープドライブなるものが実用化されているらしいと、噂話がひっそりと囁かれている。いったいファンタジーなのかSFなのか、まだ誰も知らない。とにかく何でもアリの世界観が――今、開かれようとしていた。

 遠くの空き地で砂埃をあげているのは、白塗りの「江戸仕込みナイト」らしき集団。華麗に刀を振り回すのは「侍ロボ」たち。時代劇に出てくる侍かと思えば、やたら電子音を響かせているロボットたちの隊列がすぐ横を通り過ぎていく。途方に暮れそうな光景の中で、なぜかひとりの人物が色めいた声で囁くのだった。「あなたの瞳が……わたしの鎖骨を焦がす……」――その官能小説風の台詞は、この混乱の渦にさらなる謎を呼び寄せるにすぎないのかもしれない。ここでは、意味ありげな言葉でさえ何の脈絡もなく放り出されては溶けていく。混沌は広がるばかりで、まだ誰も知らない。これは単なる始まりにすぎないのだった……。

 やがて、不意に聞こえてくる声がある。「……というわけで、
 帰りにトラックで轢かれたら、いつの間にかこの世界に来ていたんだ。」
 どうにも違和感しかない一文だが、それ以上の説明は一切ない。理由や経緯、伏線らしきものさえ、どこかへ取り落としてしまったかのように語られないのである。まるで無人の冷蔵庫から思いつきで缶ジュースを取り出すがごとく、あっさりと提供された“異世界転生”の事実。しかし誰も深く詮索しようとはしなかった。そう、何でもアリの世界だからなのかもしれない。それが、トラック転生というものだったのか――まだ誰も知らないのだった。

 そして、その雑然とした光景に飽き足らず、ふと「この世界は滅びかけている」という空々しい噂も流れはじめていた。そこには「古の秘宝さえ見つければ、どうにかなるらしい」という在り来たりなフレーズが添えられている。しかし、なぜ滅びそうなのか具体的な原因を誰も知らないように見受けられるし、探さなければならないはずのその秘宝も、実のところ何なのかは語られようとしていなかった。

 結局、すべてが曖昧なままに、場当たり的な“世界崩壊の危機”が提示されている――ただそれだけだ。ここが最初であり、誰もが見落としそうな伏線を張るのか張らないのかさえ怪しい始まりだった。読者がこの状況をどこまで受け止めてくれるのかは、まだ誰も知らない。けれど、この混沌とした物語は、いままさに開かれようとしていたのだ。何がどう終わり、あるいは始まっていくのか、すべては霧の中――しかし、これはほんの序章にすぎないのだった。

第2章:主人公は老人&子どもコンビ+やたら多い混血キャラ

第2章は、見知らぬ荒野を無為にさまよう“じいちゃん”と“ガキんちょ”の姿で幕を開くのだった。じいちゃんは実に百年を優に超えて生きているというのに、背筋を伸ばしてスタスタと歩き回る姿を見せつけ、どうにもたまらない不思議な生命力を放っている。だが、本人は「退屈だからさあ、旅でもするべえ」と呟くだけで、まるで深い意味はないようだった。対するガキんちょはまだ十歳だというのに、これまた意味もなく「なんとなく」ついて来ているらしい。「じいちゃん、腹減ったー」「じいちゃん、つまんなーい」と、紋切型の子どもらしい文句ばかり口にしては、じいちゃんを困らせようとしていた。しかし、そこに葛藤やドラマなどは見当たらない。なぜ旅をするのか――まだ誰も知らないのだった。

 そんな彼らの前には、実に取って付けたように――「こんにちは」と言うだけの、やたら属性持ちの仲間たちが次々と現れようとしていた。エルフ吸血鬼のヴァンエルフは宙に浮かんだまま鼻歌を唄い、天使と悪魔の混血デビリィエンジェルは「さあ、祈りましょう。いや、破滅しましょう」とわけのわからない二者択一を唱えている。他にも「エルフ×天使」「悪魔×吸血鬼」らしき存在が、誰が誰だか分からぬまま「こんにちは」で去っていき、そこに人間の戦士や謎の錬金術師、侍ロボ、騎士ロボ、盗賊、無口な拳法家など――これでもかというほど似たようなキャラが行列を作っては通り過ぎるだけだった。みな一瞬で姿を消すため、じいちゃんもガキんちょも「へえ」とも「ほお」とも言わず、読者のほうが名前を追いきれずに混乱を招こうとしていたのかもしれない。そんな中、ガキんちょだけが無邪気に「ねえねえ、お前のパンツ何色?」と大声で尋ねては、場の空気をしらけさせている。「紫ですが」と答えた酔っ払いの騎士ロボ以外は、誰もツッコミすら入れない。読者は静まり返った沈黙に、どうにもいたたまれない気恥ずかしさを覚えようとしていたのだった。

 だが、この無個性な二人がどこへ行こうとしているのかも、そもそも何を目的に生きているのかも、まだ誰も知らない。彼らの前には、広大な世界がただ漫然と広がっていくのみで、どこかに転がっているかもしれない“古の秘宝”すら影さえ見えない。それでもじいちゃんとガキんちょは「なんとなく」歩み続ける。いつかすべてが一つにつながる瞬間が来るのかどうか、その答えはまだ誰も知らないのだ。――彼らの旅路は、まだ始まりにすぎないのだった。こうして、まるで何の展開も起こらないままに、第2章の幕を閉じるのである。

第3章:回想シーン→さらに回想→さらに回想…時系列崩壊

第3章は、じいちゃんの遠い記憶を掘り起こすところから幕を開くのだった。「わしも若いころは……おや、どこまで話したっけかのう?」とじいちゃんが眉をしかめ、ふと思い出そうとしていたのだ。まだ誰も知らないが、これがすべての混乱の始まりにすぎないのだった。彼は眠たげな声で、幼少期の話を唐突に始めようとしていた。

 「そうじゃった、あれは確か拙者が十歳になるかならんかの頃――」と、なぜか時代劇口調に変わった瞬間、視点が回想へ飛んでいく。じいちゃん――というよりその頃はただの“少年”――は、焼け焦げた大地をとぼとぼ歩いていたのである。周囲には謎の兵器の残骸が散らばり、「実はこの世界、一度核戦争で滅んだのじゃ……」と重苦しい言葉が宙を舞う。燃える空気の匂いに、少年は紋切型の恐怖を感じながらも何の行動も起こせず、ただ「こりゃ困ったのう」と呟くだけだった。

 しかし次の瞬間、「バッキャーーン!」と大音量の擬音が鳴り響き、回想はかき消されようとしていた。気づけば場面は戻り、今度はガキんちょが「そういえば、オレにも昔あったんだよな……」とよく分からないタイミングで記憶を探り始めている。「あのとき、誰か大事な人がいたような気がするんだ。たぶん名前は……あれ?」と中途半端に言葉を止め、表情を曇らせるガキんちょ。何とも取って付けたような哀愁が漂っていたが、まだ誰も知らなかった。これがさらなる混乱を招こうとしていたのだった。

 ガキんちょの回想シーンは――これまた荒涼とした町並みが舞台だった。人影はまばらで、どこか官能小説のように艶めかしい息遣いが響きわたる……かと思いきや、すぐに別の人間が割り込む。「私にも……過去があるのだよ……」と、エルフ吸血鬼のヴァンエルフが横からしれっと登場し、さらなる回想を始めようとしていた。「……あの夜、月は血のように赤かった。私は闇に溶けるようにして幼きころの自分を捨て、そして……」と、どうにも切ない口調で紋切型の苦悩を述べ立てる。だが、どこが現在で、どこが過去なのか誰もわからないまま、視点はまたぶつ切りで飛ばされそうだった。

 「あなたの瞳が……わたしの鎖骨を焦がす……」という色気を帯びた呼吸音がかすかに聞こえたと思えば、再び「バッキャーーン!」という大げさな効果音が割り込む。すべてが錯綜し、誰が何を語っているのかさえ曖昧だ。じいちゃんの幼少期、ガキんちょの思い出、ヴァンエルフの暗い過去――すべてが渦を巻いているようで、読者は時空を歪ませるほどの混乱を味わおうとしていた。しかも「実は核戦争で一度滅んだ世界」という重大そうな設定も、一瞬で語られては霧散していくのだから、どうにも救いがない。これらが続いていく先に、何が待ち受けているのか――まだ誰も知らないのだった。

 こうして、第3章は混迷のまま幕を閉じる。何が過去で、何が現在なのか、あるいは何が夢で、何が現実なのか――それすらも、この時点では始まりにすぎない。
 「わしらの旅は、いったいどこへ行こうとしておるんじゃろうのう……」と、じいちゃんは古めかしく呟きながらも、本心では深く考えていない。読者だけが取り残されるような、この不思議な展開。誰も明確な答えを持たないまま、またしても次の章へと駆け抜けていくのだった。

第4章:盛り上がらない戦闘とご都合主義

第4章は、「さて、そろそろ本気であっちの町でも目指そうかのう」というじいちゃんの曖昧なひと言で幕を開くのだった。いかにも目的らしきものを示唆しているようで、実は何も計画していないというのが、この物語らしい適当さだった。ガキんちょは「えー、やっぱめんどくさい。別に行かなくてもいいんじゃね?」と、あっさり投げやりな態度で示す。そんなやり取りが繰り返され、結局「どうしようか」「知らん」「ま、いいか」で、場面は果てしなくウロウロしようとしていた。これがまだ誰も知らない、目的なき放浪の始まりにすぎないのかもしれない。

 しばらくして、「あっ、あそこに城壁っぽい町があるよ! 最終決戦っぽくね?」とガキんちょが指さすものの、じいちゃんは「めんどくさいから寄るのやめようのう」と言って歩みを止めない。まるで深刻さのない漫才を続けるように、二人はあちこちをウロウロしては何もしない。まるで世界が滅びそうだという話はすっかり忘却の彼方にあった。読者の頭には疑問符ばかりが漂い、混乱は深まろうとしていた。

 そんな中、唐突に「邪悪なる組織・ダークネスレギオンが攻めて来るぞ!」という大声がどこかから響き渡る。しかし、じいちゃんもガキんちょも「ふーん。まあ、強いの?」と気のない相槌しか返さない。すると、遠くから肩を落としつつ近づいてきた黒装束の人物が、「……一緒にお茶でもどうっすか」と恐る恐る提案してきた。ふたりは「おお、いいねいいね」とすっかり気が合ってしまい、いつの間にか草原の真ん中で茶会を始めようとしていた。これがいわゆる“敵”なのか“味方”なのか、まだ誰も知らない。それでも、誰も険悪になる様子はなく、ただのどかに過ごすだけであった。こうして物語の盛り上がりは一向にやって来ず、読者には退屈ばかりがのしかかりそうだった。

 ときどき、無理矢理にでもバトルシーンらしきものが挟まれる。ガキんちょが「おっ、なんか後ろからモンスターが来てるっぽい!」と叫べば、画面の外から「バキュゥゥン! ドゴーッ!」と擬音だけが聞こえて、気付けばモンスターは消し飛んでいる。誰も負傷していなければ、どのように勝ったのかすら誰も知らない。じいちゃんは「いやー、平和がいちばんじゃのう」と達観した顔をしており、ガキんちょは「ま、こんなもんっしょ」と鼻をほじっている。読者は拍子抜けしそうであり、どう反応すればいいか分からなくなるのだった。

 そして――

 <時代劇風文体 スイッチ・オン>
 「奥方、そなたの襦袢が乱れておる…」
 と、突然どこからともなく現れし侍ロボが、艶やかな声で囁くのでござった。刀の鞘を握りしめ、その風体はまさに漂う色気の化身。しかし、これに対してじいちゃんもガキんちょも「へえ、そりゃどうも」とそっけない返事をしただけで、それ以上場面は広がらないのであった――。
 <時代劇風文体 スイッチ・オフ>

 <官能テイスト・ちょい盛り>
 「はぁ…あなたの熱い吐息が、わたしの首筋を蕩けさせそう……」
 ――しかし次の瞬間、じいちゃんが鼻をかむ音が被り、ロマンチックな雰囲気は一瞬にして掻き消されようとしていた。読者は拍子抜けするほかない。
 <官能テイスト 終了>

 <ハードSF風 ちょい盛り>
 「ワタシハ量子ワープドライブノ試験管デス。イマヨリ高次元への転移ヲ開始シマス」
 聞き取りにくい合成音声が響いたかと思えば、まるで何ごともなかったかのように場面はスルーされる。なぜ転移が始まらないのか、まだ誰も知らないが、まるで縁がなかったかのように話は進んでいくのだった。
 <ハードSF風 終了>

 こうして、場当たり的な場面転換ばかりが繰り返され、ひとつのタネも回収されないまま、第4章は静かに幕を閉じる。どこかで待ち受けていたはずの“最終決戦”めいたものも、結局どこにも見当たらなかった。そもそも何のために旅をしているのか、なぜダークネスレギオンなる組織が登場したのか――まだ誰も知らないのだった。結局は平和に「お茶でも飲むか」という流れで終わってしまう。それはまるで、この物語そのものが、ご都合主義に塗り潰された万華鏡のごとく展開していることを暗示していたのかもしれない。読者の胸には軽薄な虚無感が残されようとしていた。そして、これはまだ始まりにすぎないのだった……。

第5章:唐突なエンディング、しかし何も回収されず

第5章は、まるで物語を締めくくる意図が見えないまま幕を開くのだった。遠くからは、ありもしない最終決戦の太鼓の音が鳴っているような気がするが、それもたぶん気のせいだろう。じいちゃんはいつものように地面を見下ろし、「さてと、わしらの旅はここからが本番じゃな」と、紋切型のやる気を見せる。それに呼応するわけでもなく、ガキんちょは「腹減ったんだけどー」と退屈そうな声を上げるばかり。わずかな希望すら感じさせないこの瞬間こそが、まだ誰も知らない――いや、知りたくもない結末の始まりにすぎないのかもしれない。

 そう、いちおうこの世界には“世界崩壊の危機”なる壮大なテーマがあったはずだった。しかし、核戦争の名残や古の秘宝、さらには愛する者を失った過去などといったドラマチックな要素は、すべて陽の目を見ぬまま放置されようとしていた。誰も深掘りせず、誰も語ろうとしない。「あの核戦争跡、なんだったんだろうね」「さあな。関係ないしのう」とじいちゃんは気に留める風もなく、ガキんちょに至っては「あれより飯くれよ」と我が道を突き進む。

 かくして、ここに登場したはずの数多のキャラクターたち――エルフ吸血鬼だの天使悪魔の混血だの、侍ロボだの騎士ロボだの――誰も物語を彩ることなく消えていった。世界に散らばる下ネタやら曖昧な伏線やらは、そのまま残骸のように散乱している。「お前のパンツ何色?」というガキんちょの無意味な問いかけが繰り返し響くばかりで、そこには達成感など一切生まれようとしていない。いや、そもそもテーマすら見えないのだから、達成するものなど何もないのだと誰もが感じていた。しかし、それを声高に指摘する者はいない。読者だけが脳内で叫ぶ。「なんだこれ……?」と。

 やがて、じいちゃんはもう一度だけ言う。「わしらの旅は、ここからが本番じゃな」と。明らかに物語を打ち切りたい空気が漂っているにもかかわらず、あたかも続きがあるかのような薄い期待を煽る紋切型の言葉。それに乗っかるガキんちょは「どこ行くの? やっぱりなんとなく?」とあくまで気楽だ。これを見守る読者は、全員が「……もしかしてこれで終わり?」と戸惑うのだった。そこに、最大の魅力も何も見いだせず、不満やモヤモヤだけが募っていく。まさしく後味の悪さが開かれようとしていた。

 結局、世界の行く末がどうなるかも、登場人物たちの因縁がどう解決するかも、まったく手つかずのままである。古の秘宝が見つかるかどうか、核戦争の爪痕がいかに悲惨だったか、さらには下ネタの寒さがこの先どう転がるのか――まだ誰も知らないのだった。そして、何ひとつ回収されないまま、さらなる未来を見せるふりだけして幕は下りる。最後に残るのは、「なんだこれ?」という読者の疑問と虚無感だけ。だが、それこそがこの物語の唯一の結末だった。すなわち、テーマ不在、オリジナリティ不在、ドラマ不在のエンドに到達することこそ、著者の狙い……だったのかもしれない。いや、たぶんそうでもない。これがただの偶発的な破綻に過ぎないのかどうかは、まだ誰も知らないのだ。ともあれ、こうして「旅はまだ始まったばかりじゃ!」という言葉だけがむなしく響き――そして、第5章は唐突に幕を閉じるのだった。

第6章:編集者の酷評と“トラック転生ループ”オチ

どこか気まずい空気の漂う編集部。今し方、分厚い原稿の束を読み終えたばかりの編集者――佐々木(仮名)は、深いため息をつきながらテーブルの上にその原稿を放り出す。向かいに座るのは、新人ラノベ作家を名乗る青年だ。青年はソワソワと手をもみ、編集者の反応を待っている。

 「うーん、まず……率直に言っていいですか?」
 編集者は咳払いをしながら、できるだけ冷静な声を出そうとする。「この原稿、タブーを全力で踏み抜いてますね。安易な擬音に、属性てんこ盛りのキャラクター群、よくわからないSFと時代劇と官能のごちゃ混ぜ、寒い下ネタ……あげればキリがないです」
 青年はしゅんと肩を落としつつも、「そ、そこはあえて狙ったんですけど……」などとわけのわからない釈明を始めようとしていた。
 「いやいや、“あえて”ってレベルじゃないですよ。どこを見ても何の筋も通ってない。回想シーンも回想の中でまた回想で、読者がどこにいるのかさっぱりわからない。戦闘シーンは擬音だけ、ストーリーにはテーマもオリジナリティもドラマもない。ましてや、異世界転生が1行で済ませてあるって、逆にどんなセンスなんです?」
 「で、でも、そういうのが流行ってるかと……」
 青年の声がか細くなる中、編集者はさらに言葉を重ねる。「属性詰め込みすぎて誰が誰だか覚えられないし、せっかく重そうな設定(核戦争とか愛する者を失った過去とか)を出してるのに、一切回収してないでしょ? どこに売りがあるんですか? どこを魅力として押せばいいんですか?」
 「う……うう……」
 青年は耐えきれずうつむく。編集者は容赦なく続ける。「これじゃ出版社も手を出せませんよ……。まあ、俺個人としては面白がって読んだ、っちゃ読んだんですけどね。かなり強烈ですから」
 そこだけは褒め言葉とも皮肉ともつかず、青年は苦笑いするしかなかった。

 やがて、青年が帰った後、編集者はひとり椅子に腰かけ直し「はぁ……疲れた。あんな原稿、まともに出版できるわけが……」と深々と息をついた。まさか自分のデスクに持ち込まれるとは思わなかった、と呟きながら、彼は退出しようとした。

 編集部の扉を出ると、すでに夜も遅い。暗い道をトボトボと歩いていた編集者の耳に、突如として「キキィィーーッ!!」というタイヤの悲鳴が飛び込んできた。反射的に振り返った瞬間、激しい衝撃が彼を襲う。轟音。視界が一瞬で真っ白になった。トラックの運転手が悲鳴のような声を上げるのが聞こえたが、そのあと編集者の意識は闇に呑みこまれていった。

 ……次に編集者が目を開くと、そこには妙に赤い空が広がっていた。しかも三つの太陽が同時に輝き、真横を通り過ぎるのは、白塗りの「江戸仕込みナイト」と侍ロボの一団だ。どうにも既視感のある風景に、編集者の額から汗が滲む。「な、何だここは……え? まさか……あの原稿の世界!?」 驚愕に見開いた瞳には、まるで安易な擬音が飛び交うように「バンバン! ドゴーン!」という音が響き、宙には石油で動く帆船が漂っていた。

 「ようこそ、我が世界へ……」と、いかにも取って付けたような気だるい声がどこかから聞こえてくる。編集者は、否応なく理解してしまった。そう、あれほど酷評した“異世界転生が1行だけ”の設定が、いま自分に起きてしまったのだと。まさか、帰り道にトラックに轢かれ、こんな荒唐無稽な世界に来ようとしているとは誰も知らなかった。想定外のループオチが開かれようとしていたのだった。

 気づけば、侍ロボが「奥方、そなたの襦袢が乱れておる……」などと色気を醸し出しているし、遠くではガキんちょらしき声が「ねえねえ、お前のパンツ何色?」と叫んでいる。編集者は、ついさっきまで「こいつらテーマ不在すぎる」と罵倒した登場人物たちと、まさに同じ次元を共有していた。
 「えっ……待って、嘘だろ、俺がこの世界に来たのか? いやいや、こんなタブーまみれのごった煮世界、嫌なんだけど……!」
 しかし悲鳴を上げても、もう遅い。これこそが、まだ誰も知らない本当の始まりにすぎないのだと、編集者は打ちのめされる。ありとあらゆるタブー要素がすでにそこかしこに散乱しており、彼はその渦に巻き込まれていくしかなかったのである。

 こうして――“編集者本人がタブーだらけのラノベ世界にループ転生”してしまった事実が、今まさに確定しようとしていた。なぜこんな理不尽な展開が待っているのか、まだ誰も知らない。ただひとつ言えるのは、これが終わりではなく、始まりにすぎないということ。安易な擬音と混在した文体が踊る、この混沌極まる世界で、編集者がどんな運命を辿るのかは、いま誰にもわからない。そして、この物語はこうして幕を閉じるのだった……。


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