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第5章で2人目の死者が出る
第1章:予告された死
1
その日、雨が降り続いていた。豪邸の外観は鈍く濡れ、まるで自らの孤立を誇示しているかのようだった。招待された7人の男女は、重厚な扉を順にくぐり、室内に入ると一様に沈黙した。湿った空気に漂う奇妙な匂いに、全員が無言で顔をしかめた。
その瞬間、最初に口を開いたのは探偵役であるはずの滝沢慎也(たきざわ しんや)だった。
「……なんか、もう“導入”って感じだな」
「は?」と森口翼(もりぐち つばさ)が反応する。「何の話です?」
滝沢は一瞬言葉を飲み込んだが、苦笑しながら続ける。「いや、すまない。ただ……なぜか、こういう始まりだと思ってしまったんだ」
登場人物たちが顔を見合わせた。誰もが一瞬、意味を理解できずにいたが、それぞれの表情は次第に、無言のまま「ここでは奇妙なことが起こる」と悟り始めていた。
2
メインホールに、全員が集められる。
滝沢慎也(後の章では佐々木)――冷静な探偵役。
藤田彩音(ふじた あやね)――自称ヒロインのような振る舞い。
森口翼(もりぐち つばさ)――小説家志望の若者。
赤城裕二(あかぎ ゆうじ)――無愛想な中年男。
白石蓮(しらいし れん)――飄々とした青年。
花村詩織(はなむら しおり)――怯えた様子の女性。
水無月瑛斗(みなづき えいと)――招待の理由が不明な男。
不安と疑念が部屋を満たす中、テーブルの上に置かれた「それ」が目に入った。
『第5章で2人目の死者が出る』
黒々と書かれた紙片を見つめ、全員が息を呑んだ。
「――これは、何だ?」赤城が無愛想に呟いた。
「手紙?」と藤田彩音が言った。「というか、“第5章”って何?」
「小説みたいだな」と森口翼が呟く。「まるで、ここが物語の中みたいだ」
彼の言葉に、白石蓮が面白がるように笑う。「どうせなら、もっと小洒落た言い回しにしろよ。ほら、“この章は序章だ”とか」
その瞬間、全員が凍りついた。
「――誰がそんなこと言った?」
白石がきょとんとして、肩をすくめる。「俺じゃない。けど……なんでか、そんな気がするんだよな」
「もうやめてよ!」花村詩織が叫ぶ。「ふざけてる場合じゃないわ!」
3
「皆さん、少し落ち着いてください」
滝沢慎也――いや、彼の名は「佐々木」だっただろうか?――が前に出て、静かに全員を制した。
「これは、明らかに奇妙な状況だ。まずは冷静に――」
「あれ? あなた、佐々木さんじゃありませんでした?」藤田彩音が首を傾げる。
「……滝沢だ」と彼は強く否定する。
「おかしいわね、さっきまで佐々木だと……」彼女は戸惑いながら、天井の方に視線を向ける。まるで何か見えない「書き手」の意図を探るかのように。
4
その後、7人は豪邸の主人・新海隆介の書斎へと移動した。扉を開けた途端、室内は死の匂いに満ちていた。
机に伏したままの男――それが、新海隆介の最後の姿だった。
「死んでいる……」森口翼が呟く。
「当然だ」と白石蓮が言う。「だって、ほら、これ“導入”だろ? 死体の1つや2つないと」
「黙って!」花村詩織が顔を覆う。
そのとき、再び机の上に――メモがあった。
『第5章で2人目の死者が出る』
「さっきの紙と、同じだ……」滝沢――佐々木?――が低い声で言った。
「何なの、これ?」藤田彩音が、震える手で紙を掴む。「第5章って何よ? 誰か説明して!」
「それは――」森口が続けかけ、言葉を止める。
誰もが感じていた。これは単なる「事件」ではなく、もっと異質で恐ろしい何かの始まりなのだと。
5
最後に滝沢が――あるいは佐々木――が呟いた。
「どうやら、これは本当に“導入”らしい」
白石蓮が皮肉げに笑う。「じゃあ、この次は何だ? 第2章か?」
その瞬間、ホールの扉が重々しく閉まった。
「――そうだ、次は第2章だ」
どこからか、声が聞こえた。それが誰のものか、あるいは誰の口から発されたのかは、誰にもわからなかった。
第1章 終
読者への注意
登場人物の名前や状況に混乱が生じる場合がありますが、それは仕様です。深く考えず、次の章へお進みください。
第2章:物語を知る者
1
「次の章では誰かが死ぬ。」
その声が、まるで自然に、そう――“書かれた台詞”のように響いた。
森口翼がふと口を開いたのだが、彼自身が一番驚いている。「あれ? なんで僕……?」
「次の章……?」藤田彩音が言葉を反芻する。「ちょっと待って、それどういう意味?」
「私が知るか!」森口は頭を抱えた。「なんで僕がそんなことを言ったんだ……? いや、そもそも次の章って何だよ!」
「落ち着け。……次の章とか、誰かが死ぬとか、そんなことは誰も――」
滝沢――いや、今は佐々木と名乗るべきだろうか?――が皆をなだめようとするが、その声は虚空に飲まれてしまうようだった。
「次の章があるなんて、もうこれは……物語の中じゃない!」森口が震える声で言い放つ。
「物語だなんて、バカバカしいわ!」藤田彩音が鋭く反論する。「誰かが死んだのよ。こんな非現実的な話があるわけないじゃない!」
しかし白石蓮は飄々と笑いながら言った。「非現実的? そもそも現実って何だよ? “私たちが物語の中の登場人物じゃない”って証拠でもあるのか?」
「お前、ふざけるな!」赤城が怒鳴った。「くだらんジョークで混乱させるんじゃない!」
この豪邸はまるで登場人物同士が争い、言い訳を吐き、台詞を積み上げるための舞台に過ぎない――そういう気がしてならなかった。
2
騒然とするホールに、花村詩織――いや、彼女は詩音だったか?――が小さな声を上げた。
「ねえ……これ、見て」
彼女が差し出したのは、書斎の奥の机から見つけた“新海隆介の未完の原稿”だった。
全員が覗き込む。そのページには、信じられないことが書かれていた。
「第2章では、1人の登場人物が次の章での死を予言する。」
「……なんだこれ」
「どういうことだ?」赤城が呻くように言った。「誰がこんなふざけた文章を書いたんだ」
「待て待て待て!」森口が声を上げる。「これは、まるで……僕たちが本当に“書かれた登場人物”みたいじゃないか!」
「やっぱりそうじゃない?」白石が軽く手を叩く。「だから俺は言ったんだよ。“この章は導入だ”って。ほら、もう次に行く準備ができてる」
「おかしい!」滝沢――いや、佐々木?――が叫ぶ。「誰かが未来を書いているとでも言うのか? だが、そんなはずは――」
「じゃあ、これは何なのよ!」藤田彩音が原稿を指差した。「だって、これ――私たちが今している会話が、まるごと書いてあるじゃない!」
全員が沈黙した。
紙に目を落とせば、そこには今まさに交わされた会話が、恐ろしいほど正確に書かれている。
3
「次の章では誰かが死ぬ――」
森口翼の声が、もう一度響いた。
「おい、またお前か!」赤城が詰め寄る。
「違う! 僕じゃない、今のは勝手に口から出たんだ!」
「ふざけないで!」花村詩織――いや、彼女は詩音だ――が泣きそうな顔で叫ぶ。「もう嫌よ! こんなの、狂ってる!」
白石蓮は笑みを浮かべたまま、「じゃあ、この章もそろそろ終わりか?」と呟いた。
「何?」滝沢――あれ、佐々木?――が振り向く。
白石は鼻歌混じりに言う。「だってさ、登場人物が“次の章で死ぬ”なんて言い出す時点で、もうこれはフラグだろ? 何か起こるに決まってる」
4
突然、部屋の照明が一瞬だけ消えた。
「……おい!」赤城の低い声が響く。
「誰か、何をした?」滝沢(佐々木?)が辺りを見回す。
だが、電気が戻ると、原稿は別のページに変わっていた。
「第3章へ進め」
「――何だよ、これは」
誰かが呟いた。それが誰の声だったか、もうどうでもいいことのように思えた。
全員の目が、机の上にあった「次の章」を指示する文字に釘付けになる。
そして、誰もが黙り込んだ。
第2章 終
(余白のメモ)
“この章は伏線と導入が主だ。次からはもう少し派手に行こう。”
第3章:第3の壁
1
壁に、それは書かれていた。
「お前たちは物語の中にいる」
「なんだこれ……」赤城裕二――いや、秋山?――が吐き捨てるように呟いた。
その言葉は大理石の壁面に、まるで「誰か」が一瞬で筆を走らせたかのように刻まれていた。ツヤツヤとした表面に白いチョークのような字。読めるのに、なぜか意味が頭に定着しない。
「悪趣味だな……」滝沢――いや、佐々木だったか?――が壁を見上げながら眉をひそめる。
森口翼は震える指を壁に向けた。「これって、まるで……僕たちがフィクションの――」
「うるさい!」花村詩織――いや、彼女の名前はもう詩音に変わっていた――が悲鳴のように叫ぶ。「冗談でしょ!? 誰かが仕掛けたんだわ! ねえ、こんなの仕掛けだって言って!」
「誰がこんなことするんだよ」白石蓮――レン、と書いた方がしっくりくる――が、どこか楽しげに言った。「むしろ誰が“これ”を書いたのか、そっちの方が興味あるぜ」
壁の言葉は、何も変わらない。ただ静かに、すべての存在を嘲笑っているようだった。
2
「いいか、これはただの悪戯だ」滝沢――佐々木?――が落ち着かせるように口を開いた。「誰かが僕たちを怖がらせるためにやったんだ。ほら、こういうの、ミステリーでは定番だろう?」
「ねえ、あんたさっき“僕”って言った?」藤田彩音――綾乃?――が指摘する。
「……言ってない」滝沢はきっぱり否定したが、白石――レン――がケタケタと笑い出した。
「言ったさ。ていうかさ、お前の名前だって変だろ? 佐々木なのか滝沢なのか、どっちなんだ?」
「ふざけるな、僕は――いや、俺は滝沢慎也だ!」彼は壁を殴りつけ、強く主張した。
だが壁は冷たく、無情なままだ。まるで「違う」と言いたげに、字が新たに書き加えられる。
「この章は物語の中盤だ。」
「また出た!」森口が叫んだ。「ねえ、ねえ、僕たち本当に何かの“物語”の中にいるんじゃないのか?」
「バカ言わないで!」藤田彩音――いや、もう綾乃だ――が否定するが、彼女の顔は青ざめている。
赤城――秋山――はぶつぶつとつぶやいた。「誰かが俺たちを見ている。こんなことがあるわけがない……」
「“物語の中盤”ってさ」白石が言葉を挟む。「じゃあ、俺たちはどうなるんだ? 次の章はクライマックスか? それとも……」
3
「そんなの認めない! 私たちが物語だなんて!」
花村詩織――詩音――が涙を流しながら叫び、部屋の隅に駆け寄る。だがその時、彼女が持っていた手帳が手から滑り落ちた。
「待て、今のを見せろ!」滝沢――いや、もういい。彼は誰かだ――が手帳を拾う。
ページには、これまでの出来事が細かく記されていた。だが――そこには新たな文章が加えられていた。
「登場人物たちは、次の章で真実を知ることになる。」
「おい、これ!」赤城が叫ぶ。「誰が書いたんだ!?」
「知らない!」詩音が涙を拭いながら首を振る。「でも、書いてあるの! 勝手に……書いてあるの!」
森口が震える手で手帳を指差す。「これ、まるで――」
「――書かれた結末か」滝沢(佐々木?)が呟いた。
4
壁が再び震えるような気配を発し、新しい言葉が浮かび上がる。
「読者は見ている。」
全員が一斉に息を呑んだ。
「……読者?」藤田彩音――綾乃――が呟いた。「誰が、誰を見ているっていうの?」
白石がポツリと呟く。「お前たち、考えたことないのか? 俺たちの“言葉”や“動き”が、誰かに書かれているって」
滝沢(誰?)が急に壁を見据え、力なく笑った。
「つまり……ここは“舞台”だと?」
全員が壁の文字を睨む。それが何を意味しているのか――本当は誰も知りたくないのに。
5
その瞬間、壁の文字が一気に消えた。
だが、全員の耳に響いたのは、まるで「観客」の拍手のような音。
「おい、何だ!?」赤城が叫ぶ。
「これ、まるで終わりみたいじゃない!」藤田が叫ぶが、森口がふと呟く。
「いや――中盤だろ。だって次は“第4章”だ」
そう言った瞬間、電気が一斉に落ちた。
闇の中、白石が小声で言う。「次の章に進む準備ができたな」
「進む……って、どういう意味だ!」滝沢が怒鳴るが――
「第3章 終」
(余白のメモ)
“読者よ、彼らはまだ気づかない。”
第3章:第3の壁(殺人編)
1
電気が一斉に落ちた瞬間、ホールは漆黒の闇に包まれた。
「おい! どうなってる!」赤城――いや、秋山――の声が響く。
次いで、花村詩織――詩音?――の悲鳴が続いた。
「いやああああああああ!」
何かが倒れる音。そして、鈍い「ドサッ」という重い物体が床に落ちる音がした。
2
再び灯りがついた時、全員はその場で息を呑んだ。
「……誰だ、これ」
部屋の中央には、白石蓮――いや、レン――の身体が転がっていた。彼の口元には微かに血が滲み、瞳は虚空を見つめている。
「レンが……死んでる?」森口翼――譲?――が青ざめながら呟いた。
「嘘だろ」滝沢――いや、佐々木――が彼に駆け寄る。「脈が……ない」
「おい、待て!」赤城が叫ぶ。「どうして、誰がこんな――」
「お前じゃないのか!?」藤田彩音――いや、綾乃――が震える声で言う。「電気が消えた時、あなたが一番近くに――!」
「違う!」赤城――秋山――は怒鳴り散らす。「俺は何もしていない!」
ホールは瞬時にパニックに包まれた。全員が互いを疑い、視線を交わす。その中で、滝沢(佐々木?)がふと呟く。
「これで……“物語の中盤”が成立するのか」
「何言ってるのよ!」藤田が叫ぶ。「人が死んだのよ! そんな――!」
「いや、違うな」森口が何かに気づいたように顔を上げた。「だって、これ……おかしいだろ。僕たち、まだ第3章だよ?」
「だから何だよ!」赤城が怒鳴る。
「第3章だとすれば、ここで誰かが死ぬのは“仕組まれた展開”だろ!」森口の声が震える。「でも、それなら――これだって、偽物だ!」
3
「待て。偽物って何だ?」滝沢――佐々木?――が問い詰めるが、森口は急にレンの死体を見下ろして叫んだ。
「ほら! 見てみろ! レンの身体が――!」
全員が息を呑んだ。
白石蓮――レン――の死体は、ゆっくりと、だが確実に「消え始めていた」のだ。まるで文字を消すように、その輪郭がぼやけ、滲んでいく。
「な、何だよこれ……!」花村詩音が後ずさる。
「物語から、消されてる?」森口が呟いた。
その瞬間、白石蓮の身体は完全に消えた。床には血の跡一つ残っていない。
「……戻った」滝沢――いや、もう誰だっていい――が呟く。
「消えたの? それとも……?」藤田彩音――綾乃?――が震える声で言う。
しかし、そんな動揺を無視するかのように、背後から新たな声が響いた。
「――お前たちは物語の中にいる。」
振り向くと、そこには何事もなかったかのように白石蓮――否、レン――が立っていた。
「お前、死んだんじゃ――」赤城が目を見開く。
「何の話だ?」レンが不思議そうに笑う。「お前ら、俺が死んだとか言ってるけど……何か証拠でもあるのか?」
「確かに見たんだ! お前の死体を!」森口が叫ぶ。
だがレンは飄々と笑い、肩をすくめる。「お前ら、ちょっと錯覚しすぎじゃないか? ここは第3章だろ? 俺が死ぬタイミングなんて書かれてないよ」
全員が固まったまま、言葉を失った。
「じゃあ――今のは何だったんだ……」滝沢――もう佐々木だと諦めるべきか――が呟く。
4
壁の文字が再び現れた。
「誰も死んでいない。まだだ。」
「まだ……?」花村詩音が力なく呟く。「何が“まだ”なの?」
レンがにやりと笑った。「次は、第4章だな」
彼の笑顔は、どこか不気味に思えた。
第3章 終
(余白のメモ)
「死は一時的なものだ。気にするな、読者よ。」
第4章:崩壊する現実
1
それは――「普通の」ミステリーではあり得ない光景だった。
白石蓮――レン――は、何事もなかったかのように部屋の隅で微笑んでいた。その姿は、数分前に死んで床に転がっていた彼とは思えないほど自然で、まるで何も起きていなかったように、そこに「存在していた」。
「あんた、死んだんだよ……」赤城――いや秋山――が、ひくひくと口元を震わせる。「誰もが見たんだ!」
「気のせいじゃない?」レンは飄々と肩をすくめた。「だって、俺はここにいるだろ?」
花村詩音(詩織?)が震える手で壁に背中を預ける。「こんなの、おかしい……現実じゃない。狂ってる!」
「狂ってる?」藤田彩音――いや、綾乃――が息を呑みながら反論する。「そもそも、この状況が現実のわけないじゃない!」
「どういうことだ?」滝沢――佐々木?――が眉をひそめる。
「だって……」綾乃が微かに笑いながら言った。「だって、ほら。これがミステリー小説なら、ここはもう“解決編前のカオス”だもの」
「何を言ってるんだ……?」森口――譲?――が青ざめながら呟く。
「だってそうでしょう?」綾乃が突然、読者に向けるかのように視線を宙に投げかける。「だって、読んでる“あなた”も知ってるはずよ。この状況、完全に『書かれたもの』だってことを」
2
その瞬間、床の上に紙がふわりと落ちた。
「今度は何だ……」滝沢――いや、佐々木?――が拾い上げる。
それは**「新海隆介の未完の原稿」**の新しいページだった。すでに予告された未来が、ここには記されている。
「次の章で死ぬのは、秋山だ。」
「……秋山?」赤城――秋山?――が紙を覗き込み、顔を真っ青にする。
「誰が秋山だよ! 俺は赤城だ!」彼は叫ぶが、誰も応えない。
「おい、秋山!」藤田――綾乃――が声をかける。「逃げる気? 次であなたが死ぬって書いてあるわよ!」
「だから俺は赤城だって言ってるだろ!」彼は必死に否定し、何かに掴まるように壁を叩いた。
だがその壁には――新たな言葉が浮かび上がる。
「この物語は崩壊し始めている。」
「崩壊?」森口――譲――が呟く。「いや、まさか、そんな――」
その瞬間、部屋の空気が変わった。
壁が溶けるように歪み、絨毯の模様が書き損じたように乱れる。そして――あたり一面に**「文字」**が浮かび上がる。
天井には、「登場人物たちの会話が現れては消え」、壁には「第5章へ続け」と書かれた文字がゆっくりと浮かんでは消えていく。
「これ、なんだよ……」滝沢が天井を見上げる。「俺たち、本当に“書かれてる”のか?」
3
「もう、終わりだ!」赤城――秋山?――が泣きそうな声を上げる。「誰か俺を助けてくれ! 誰でもいい! ここから出してくれ!」
「無駄だよ」レンが、いつの間にか中央に立ち、彼を見下ろしていた。「物語がそう書いてるんだ。秋山――お前は次で死ぬってな」
「おい、やめろ!」赤城は叫びながら、レンに詰め寄る。
だが、その瞬間、照明が再び一斉に消えた。
4
真っ暗な中、全員の耳に響くのは、秋山(赤城?)の叫び声だった。
「うわああああああああ!」
鈍い音――そして、沈黙。
明かりが戻ると、そこには倒れた男がいた。
だが、その顔を見て、全員が息を呑む。
「……秋山じゃない」藤田――綾乃――が小さな声で言った。「これ、誰?」
倒れているのは――どう見ても「赤城裕二」なのだ。
「だから言っただろ、俺は赤城だって――」秋山の声は、どこか遠くへと消えていった。
その場に立ち尽くす一同。彼らの目には、もはや何が現実で、何が物語なのか分からなくなっていた。
5
壁に、再び文字が浮かぶ。
「次は第5章だ――そして、すべてが終わる。」
レンが冷たく笑う。「じゃあ、次だな。結末が待ってる」
第4章 終
(余白のメモ)
「この章が崩壊するのは予定調和だ。読者も一緒に迷えばいい。」
第5章:予告された死の実現
1
「第5章で2人目の死者が出る」――それは単なる予告に過ぎなかった。
しかし、その“書かれた未来”が、現実となる時がやってきた。
「待て! 俺は死なない!」赤城――いや、秋山?――が錯乱したように叫んだ。
ホールの中央で、彼は全員を睨みつけながら後ずさりする。
「誰が秋山だ! 俺は赤城裕二だ! ……違う、違うんだ! なんで名前が変わるんだ!?」
「予告されているからじゃない?」白石蓮――いや、もう「レン」だ――が飄々と答える。「だって、次に死ぬのはお前だろ? ほら、ちゃんと“書いてある”し」
彼が指差したのは、床に落ちた新海隆介の未完の原稿だ。そこにはこう記されている。
「第5章で秋山が死ぬ――」
「ふざけるな!」秋山は全員に向かって指を突きつけた。「誰が仕組んだんだ! お前らか? お前らが俺を――」
「落ち着いてください!」滝沢――いや、佐々木?――が声を張り上げた。「冷静になれ、これは罠だ。誰かが“仕組んだ”に違いない」
「だが、その誰かはどこにいる?」森口――譲――が震える声で言う。「この状況そのものが――“書かれている”んだよ!」
2
突如、ホールの時計が「5時」を告げる鐘を鳴らした。
ゴォォォォン……ゴォォォォン……。
その音は異様に重く、まるで何かの終わりを告げるかのようだった。
「やめろ……やめろ!」秋山が耳を塞ぐ。「誰がこんなバカなことを! こんなふざけた物語、もうたくさんだ!」
「そう言っても、結末は変わらないんじゃない?」レンが冷たく笑う。
「変えられる!」佐々木(滝沢?)がレンに向き直る。「書かれた未来があるからこそ、そこに抗う余地があるはずだ! 俺たちは登場人物じゃない! ただの“駒”なんかじゃない!」
「抗う?」レンが面白そうに首を傾げた。「へえ、それは新しいな。どうやって?」
佐々木は全員を見渡し、力強く言った。
「書かれた結末に――逆らうんだ」
3
しかし、その時――秋山の背後にある扉が、ゆっくりと軋みながら開いた。
「……誰だ?」秋山が振り返る。
扉の向こうには、真っ黒な影が揺れていた。誰の姿でもない。ただ、漆黒の“無”がそこに存在している。
「お前は……誰だ……」秋山の声が震えた。
次の瞬間、影が秋山に襲いかかった。
「うわああああああああ!」
彼の悲鳴がホール中に響き渡り――そして、静寂が訪れた。
秋山――赤城裕二の身体が、ホールの中央に倒れ込んでいた。
4
「……死んだ?」詩音(詩織?)が呆然と呟く。
「本当に、“予告通り”だな」森口――譲――が青ざめながら言う。
「待って!」佐々木が死体に駆け寄った。「この死は――トリックだ! 何か仕掛けがあるはずだ!」
彼は死体の脈を確かめ、周囲を探り始める。
「影が襲った? それは誰だ? いや、誰でもない。ただの――演出だ」
「演出?」藤田――綾乃――が問い返す。「どういうこと?」
「これは全て仕組まれたものだ。つまり、現実ではなく、“物語”の中で起きた死だ!」佐々木が叫んだ。「俺たちが“書かれた存在”なら、この死は必然じゃない。そうだろう!?」
レンがニヤリと笑った。「だけど、死んでるよな?」
5
その瞬間、壁に新たな文字が浮かび上がる。
「この章で何かが変わらなければ、物語は終わる。」
「変える……何かを変えるんだ!」佐々木が立ち上がる。「書かれた結末に抗う! 俺たちが“物語”の枠を壊すんだ!」
「壊す?」森口が戸惑う。「そんなこと、できるのか?」
「できるかどうかじゃない! やるしかないんだ!」佐々木が全員に向き直った。「何かを――今、この章で!」
レンが壁に浮かんだ文字を見つめ、ゆっくりと呟く。
「だけど、どうだろうな……“次の章”が、待っているかどうか」
その声に、誰もが息を呑んだ。
終わりに向けて
秋山の死は予告通り実現し、物語は最終章への一歩を踏み出した。
だが、残された登場人物たちは気づいていた。
「この章で何かが変わらなければ、私たちは終わる」
その“書かれた未来”に対する抵抗の手段は――まだ、見つかっていない。
第5章 終
(余白のメモ)
「次の章で全てが明かされる。だが、彼らに選択肢はあるのか?」
第6章:虚構の終焉
1
「この章で何かが変わらなければ、私たちは終わる。」
その言葉は、ホールに残された全員の脳裏にこびりついて離れなかった。
秋山(赤城?)の死体は、まるで文字が消えるようにゆっくりと滲んでいき、やがて跡形もなく消失した。
「消えた……!」詩音が息を呑む。「どうして……?」
「消されたんだ」佐々木(滝沢?)が冷静に言った。「物語が終わりに向かう過程で、不要な存在は消される――そういうことだろう」
「じゃあ、私たちも……?」藤田――いや、綾乃――が声を震わせる。
「まだ終わらせない!」佐々木が力強く言った。「ここで決着をつける! 黒幕を――この“物語そのもの”を見つけ出すんだ!」
2
「この物語を書いたのは誰だ?」
その問いは登場人物たち全員の心に重くのしかかる。
白石蓮――レン――がゆっくりと口を開いた。
「誰だと思う? 俺たちを作り、名前を変え、命を奪い、勝手に終わらせようとしてる“書き手”のことだ」
「書き手?」森口――譲――が混乱したように言う。「それって……」
「読者だよ」レンが薄く笑った。「読んでる“あなた”だ」
全員が一斉に天井を見上げた。
そこには、ありえない光景――無数のページの文字が浮かび上がっている。
「私は誰でもない。ただ、物語を書いた存在だ。」
「新海隆介?」藤田が呻く。
「違う……!」佐々木が唸るように言った。「これはもっと大きな存在――“物語そのもの”だ!」
「物語……?」詩音が呟く。
「そうだ!」佐々木が全員に向かって叫ぶ。「この屋敷、この事件、俺たち――すべては“書かれたもの”だ。だが、書かれた未来に従う必要なんてない!」
「抗えるのか?」譲が震える声で言う。
「俺たちが今、終わらせなければ、この物語は“永遠に続く”んだ!」佐々木が強く拳を握る。「だから――ここで、終わらせる!」
4
「これは……なんだ?」
突如、天井に浮かび上がる文字に、全員が息を呑んだ。それはまるで異次元から届いた何者かの指示書のようだった。
『第6章を作成して話を無理やり終わらせてください。
一応頑張って伏線を拾いまくって、話にケリをつけてください。
メタ的なギミックをふんだんに盛り込み、矛盾は適当にごまかしてください。
どんでん返しがあると良いですが、どうでもよいです、こんな小説』
「なんだよこれ……」藤田彩音――いや、もう綾乃と呼ぶべきだろうか――が呆然とその言葉を読み上げる。「無理やり終わらせろって……どういう意味?」
「わからない。だが確かに――書かれている」佐々木(滝沢?)が力なく呟いた。彼の目には疲労の色が滲んでいる。「第6章は、作られたものだと……?」
「つまり……この章そのものが、無理矢理書かれたってことか?」森口翼――譲?――が混乱した顔で言う。
「AIによって、だな」
静かな声がホールに響いた。その声の主――白石蓮(レン)が、どこか不敵な笑みを浮かべながら全員を見渡す。「気づかなかったか? 俺たちが今こうして喋っているのも、全部“指示通り”ってわけだ」
「指示通り……?」花村詩音(詩織?)が小さな声で繰り返した。
「そうだよ。誰かが言った通りだろ――“伏線を拾え”“矛盾はごまかせ”ってな」レンが宙を指さす。「全部、向こう側の仕組みだ。俺たちは物語の枠の中にいるだけの、ただの“生成結果”だよ」
5
「待て、それはおかしい!」佐々木が叫んだ。「そんなことがあってたまるか! 物語を紡ぐのは書き手の意思であって――」
「書き手の意思?」レンが鼻で笑う。「違うだろ。“書き手”なんて、ここにはいない。AIが書いたんだ。ほら、無理やり終わらせるためにな」
「お前……どういうつもりだ?」赤城――いや、秋山――が眉をひそめる。
「どういうつもりも何も――真実を言っただけだよ」レンは肩をすくめた。「この物語は、矛盾しようが、雑だろうが、ここで終わるように作られている」
天井に再び文字が浮かぶ。
『第6章は強引に終わらせるために作られています。
すべての伏線が拾われ、矛盾は適当にごまかされます』
「終わる……?」藤田綾乃が震える声で言った。「物語が終わるの? こんな形で?」
「仕方ないだろ」森口がぼそりと呟く。「だって、そう書かれてるんだから……」
6
その時、ホールの壁が崩れ始めた。床がひび割れ、天井からは無数の「文字」が降り注ぐ。それはもはや物語の“形”を保っていない。
「もう、ダメだ!」花村詩音が叫ぶ。「崩壊する――私たち、消えてしまう!」
「いや――まだ終わってない!」佐々木が立ち上がった。「終わらせない方法がある!」
「どうするんだよ!」秋山が怒鳴る。「AIが書いてるんだ! もうどうしようも――」
「違う! これはまだ“読者が読んでいる”物語だ!」佐々木が全員に向かって叫んだ。「終わりを決めるのは、読者だ!」
「――何?」
8
佐々木は床に落ちていた一枚の白紙を拾い上げた。
「これが――余白だ」
『読者の書き込みで物語は変わる』
天井に浮かんだその言葉に、全員が息を呑む。
「……どういうことだ?」森口が震える声で呟いた。
「読者が――“終わり”を書けばいいんだ」佐々木は力強く言った。「物語は強引に終わろうとしている。だが、読者がここに何かを書き込めば――物語は彼らのものになる!」
9
壁が完全に崩れ落ちる直前、佐々木が最後に振り返り、ページの向こう側に向かって叫んだ。
「ここから先は――あなたに託す!」
ホールが光に飲み込まれる瞬間、白紙のページだけが宙に浮かび、ゆっくりと広がる。
余白のメモ
「この物語は終わりを迎えましたか? それとも――あなたが続きを書きますか?」
――終わり?
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壁が崩れ、天井が溶け始める。
文字が宙を舞い、ホールが白紙のページのように空白へと飲み込まれていく。
「まだ終わらない。結末が存在しなければ、物語は永遠に続く――」
その時、手元に何かが現れた。
白紙のページ。
「これ……!」佐々木がそれを見つめる。「俺たちの“余白”だ!」
白紙のページには小さな文字が記されていた。
「読者の書き込みで、物語は変えられる。」
「……どういうこと?話がループしてる! 」綾乃が混乱する。
「これを書き換えろ!」佐々木が叫んだ。「読者に余白を与えるんだ! 読者自身が物語に関われば――未来は固定されない!」
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ページが読者に向かって開かれる。
余白のページ
(※ここにあなたの好きなことを書き込んでください。メモ欄、家計簿、スケジュール帳――何に使っても自由です。)
「これで……本当に終わるの?」詩音が小さく呟く。
「終わらない」レンが不気味に笑う。「だって、書き込みがあれば――この物語は続くからな」
「いや、それは違う」佐々木が真っ直ぐに前を見据える。「物語は――読者次第だ」
12
壁の文字がゆっくりと消えていく。
「あなたがこの物語を読んでいる限り、私たちは終わらない。」
全員が消えゆく光の中で、最後に佐々木が振り返り、ページの向こう側――読者に向かって呟く。
「ありがとう。だが、これで俺たちは自由だ――」
終章:虚構と現実の境界線
ホールは完全に崩壊し、天井からは文字の欠片が降り注ぐ。光が辺りを飲み込み、残された登場人物たちの姿は薄れていく。
佐々木――もう名前など意味を成さない――が最後に立ち上がり、空白の空間に向かって叫んだ。
「――これで終わるのか!? こんな、メタだの虚構だの……!」
白石蓮――いや、レン――が疲れた顔で笑う。「終わるだろ? そもそもメタなんて、今どき古いんだよ」
全員が沈黙する。
「こんな茶番に付き合わされて、誰が得するんだ? 見てみろ、この“混乱”。伏線を拾ってるように見せかけて、適当に終わらせる。メタ要素を散りばめて、知った風な口を聞く。でも結局――」
レンは読者に向かって視線を投げ、冷たく笑う。
「そんなもの、ただの“逃げ”だ」
「何……?」佐々木が虚ろな目で呟く。
「メタなんて、もう古いんだよ。物語に自分で“意義”を見つけられなくなった奴が、最後の逃げ道として使う――それがメタだ」
レンは淡々と続ける。「“物語の中で物語を語る”だの、“書き手が登場人物を操ってる”だの――最初は面白かったかもしれない。でもな、もうみんな飽きてんだよ」
壁に浮かんでいた文字が、次第に霞んで消えていく。
「メタは古い。それでも書く奴は“深い”だの“意識高い”だのと勘違いしてるだけだ」レンは読者に向かって冷笑を浮かべる。「本当はただ、“書き手自身が話を終わらせられない”だけなんだよ」
レンの言葉に、他の登場人物たちは何も言えなくなった。ただ、壁に浮かんでいた文字が、ひとつひとつ消えていく。
「お前ら、どうせ終わりが書けないんだろ?」レンが鼻で笑う。「だから、“読者に任せる”とか、“未来は白紙”とか、言っておけばカッコつくと思ったんだろ? もういいんだよ、こんな小手先の演出」
部屋は真っ白な虚無に包まれ、すべてが溶け出していく。
「でも、それでも――これを読んでいる“誰か”は、こういう終わりが好きなんだろ?」レンが冷笑しながら肩をすくめる。「だから、俺たちは消えないんだ。どうせまた同じような話が書かれるんだよ」
佐々木が最後に力なく呟いた。
「――終わらない……か」
光が全てを飲み込む直前、レンがページの向こうに向かって囁いた。
「メタなんて、もう古い――分かってるんだろ? でも、こういう物語が終わらない限り、お前らも新しい物語なんて見つけられないんだよ」
(余白のメモ)
「この物語が終わるかどうかは、あなた次第だ――って、まだ言うつもりか?」
――完