化学を通して見るニュース ベネチア運河が緑色になった件
意味の分からんニュースを目にした。
ベネチア運河が緑色に イタリア、染料原因か https://www.sankei.com/article/20230529-UINVCJBMHZKOXKZKLT5VYMKLB4/
運河が丸っと緑色になっている。
元が何色なのか知らないため深く言及することは避けるが、
発色剤について興味がわいてきた。
そういえば最近、光と化学の関係がよく分からないと相談を受けた。
良い機会であるので、光と科学の関係について、科学を避けてきた人にも分かるよう簡単にまとめてみた。
尚、この記事は最後まで無料で読めるようにしてある。
少しでも科学に親しんでもらうため、少々ざっくりと説明しすぎた箇所がある。
科学に詳しい方には、ご理解いただきたい。
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高校で化学基礎を習ったことのある人だと理解しやすいと思うが、そうでない興味のある人にも是非知ってもらいたいため、化学の基本から話を進めていこうと思う。
読み終わった時には、色や光についての見え方が180°変わるものと考えている。
読者一人一人の、新たな人生のレンズとして活用いただければ幸いである。
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最初に、化学の基本をおさらいする。
原子
原子とは、物質を構成する基本的な粒子である。身の回りにはたくさんの原子が存在しており、私たちの生活や環境を形作っている。
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空気中には酸素や窒素といった原子がある。
これらの原子は非常に小さく、目には見えないが確かに存在している。
また、身の回りの物体にも原子がある。
例えば、机や携帯電話など、日常的に使っている物体は、原子が組み合わさってできている。
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そんな原子は、中心にある原子核と外側を回る電子から構成されている。
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緑が電子、黄色と赤が原子核である。
原子の電子は、電子殻と呼ばれる場所に住んでいる。
上のイラストの線の部分がそれに当たる。
エネルギーとは
ここで、発光のもととなるエネルギーについてもおさらいしておく。
身の回りにはさまざまな形のエネルギーが存在する。
運動エネルギーや熱エネルギー、電気エネルギーなどは聞いたことがある人もいるかもしれない。
光は波である
その中で、ここでは光エネルギーについて深堀りする。
まず理解して欲しいのが、光は波であるということである。
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波なので、大きな波であったり、小さな波であったりする。
後々説明を加えるが、この大小が色の違いを生み出している。
原子とエネルギー
では、原子とエネルギーがどう関係するのか。
原子は、中心にある原子核とその周りを回る電子から構成されており、電子は電子殻に配置されていると説明した。
電子は、外部からエネルギーを受け取ることで励起状態(要するに元気になる)になることがある。
つまり、励起された電子は外からエネルギーを吸収し元気になったわけだ。
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電子が励起されるとき、外部から与えられたエネルギーは電子に吸収され、電子に蓄えられている。
見えるとは。色とは。
紫外線、可視光線、赤外線
これらは別々のものとして考えられがちであるが、実は全て友達同士だ。
紫外線はご存知の通り、見えない。
太陽光の中に含まれ、肌に当たると日焼けの原因になる。
可視光線は、目で見ることができる光だ。
可視光線はさまざまな波長(波の大きさ)を持ち、それぞれの波長に応じて異なる色が感じられる。
例えば、波長が長いと赤、短いと青に感じる。
赤外線も見ることができない。光というよりは熱である。
たまにサウナに遠赤外線が~と書いてある。あれである。
それぞれの違いは波長の長さだ。
波長が短いと紫外線、長いと赤外線、間の長さを可視光線と呼んでいる。
下の図で言えば、小さな上が紫外線、真ん中が可視光線、下が赤外線だ。
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そもそも色とは?服の色とかは何?
物質は、光が当たったときにその光の一部を吸収して残りを反射するという性質を持っている。
例えば、赤いリンゴは、表面に当たった光のうち青や緑などの赤以外の色の光は吸収され、吸収されなかった赤色は反射される。
そして目にリンゴが反射した赤い光が入ってきて「ああ赤いりんごがあるなあ」となるわけだ。
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・視神経と光
そもそも光は波であり、波には色はついていない。
ニュートンも光に色はないとの言葉を残している。
しかし実際、光は青色だったり赤色だったりする。これはどう説明したら良いのか。
人間の目の中には、光を感知するための細胞がある。
これらの細胞によって人間は色を感じ取ることができる。
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例えば青い色を見ると、目の中の細胞が反応し、青い色を感じることができる。
同様に赤い色を見ると、目の中の細胞が反応し、赤い色を感じることができる。
波長が異なる光が目に入ると、それに応じて異なる細胞が反応するため、人間はさまざまな色を感じ取ることができる。
このように、光の波長と人間の目の中の細胞の反応が組み合わさることで、人間は周囲の色を知覚することができる。
最後に発光の仕組みについておさらいする。
発光原理
花火をイメージしてもらえると良いかと思う。
花火では炎色反応と呼ばれる、金属を燃やすと出る色を使用している。
リアカーなきK村、、、なんて言ってあれかぁ!となる人もいるかもしれない。
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炎色反応は、物質を燃やすときに発生する色の変化のことを指す。
例えば、10円玉にも使われている銅を燃やすと、青緑色の炎が見られる。
炎によって銅が加熱されると、銅原子の電子はエネルギーを吸収し、励起状態(元気)になる。
励起された電子は、元に戻る際に、余分なエネルギーを光として放出する。
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この放出される光は、私たちの目には青緑色に見える。
何色に見えるかは金属によって決まっている。
有機化学物と発光
最後に今回の主題でもある有機化合物に対する励起と発光についてだ。
有機化合物は、炭素を主成分とする化合物であり、ざっくりに言えば金属じゃないやつだ。
蛍光
これらの化合物は、特定の波長の光を吸収して励起されることがある。
有機化合物が光を吸収すると、分子内の電子が励起される。
炎色反応と同じように、励起された電子は元のエネルギー状態に戻る際に、余分なエネルギーを光として放出する。
この放出される光のことを蛍光と呼ぶ。
つまり、目に入ってくる光には種類がある。
一つ目が反射して見えている光、もう一つが吸収された後放出された光だ。
ちなみに、吸収された後放出された光はそれぞれ色が異なる。
ベネチアの運河が真緑になった件について
さて、やっとニュースの発色物質について戻ってきた。
特徴から考えて、この事件で使われたのはフルオレセインと呼ばれる化合物だと考えられる。
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フルオレセインは、有機化合物の一種だ。
鮮やかな黄色から緑色をしている。
この色は、フルオレセインが光を吸収し反射する際に生じるものだ。
意外と優秀なフルオレセイン
今回問題となっているフルオレセイン、実はかなり優秀な化合物である。
眼科で診断や検査や血管の観察に使える。
説明を加えると、血管を可視化することで、血管の形や流れについて知ることが出来る。
これができると、血管がボロボロになっていたり、うまく流れていない場所を見つけて治療に繋げることができる。
運河が黄緑になったのはトレーサーとして利用した場合だ。
例えば、水の流れの研究で、フルオレセインナトリウムを添加することで追跡が可能になる。
これにより、流体の動きや拡散の挙動を観察し、研究や実験の結果を得ることができる。
まとめ
以上で化学というレンズを通して見たニュースは終了となる。
視神経についてやフルオレセインの定量法など、少し専門的な内容についても触れた。
難しい箇所もあったであろうが、ぜひ科学と触れ合う時間を楽しんでいただきたい限りである。
この記事にて、光とエネルギーについての関係や色と発光についてなど、読者の知見が広がれば幸いである。
記事はここで終わりであるが、もし役に立った等あればいくらかいただけると今後のモチベーションにつながる。
本当に気持ち程度であるが、オマケとして、フルオレセインを含んだ水が飲めるか否かとその基準、およびその測定法について記載した。
オマケ
この化合物、飲んでも良いのか?
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