「封印された校舎 ―― 旧白銀学園の呪い」⑬
第13話:「新たな始まり」
白銀学園の校長室は、緊張感と安堵感が入り混じった空気に包まれていた。突如として現れた琴音、健太、そして高橋博士。その姿に、部屋にいた全員が言葉を失っていた。
校長が重い沈黙を破った。「高橋博士...一体何が...?」
高橋博士は深く頭を下げたまま、静かに口を開いた。「全てをお話しします。私が犯した過ち、そしてこの二人が成し遂げた偉業を」
琴音と健太は互いに顔を見合わせた。彼らの経験は、とても信じがたいものだった。しかし、それは確かに起こったのだ。
「座りなさい」千代子が琴音と健太に椅子を勧めた。「さぞ疲れているでしょう」
二人は感謝の笑みを浮かべて座った。その表情には、大きな安堵感と共に、何か得も言われぬ深い思いが宿っていた。
高橋博士は詳細に語り始めた。オメガ計画の真の目的、50年前から続いていた実験のこと、そして琴音と健太がその集大成として生まれたこと。さらに、特殊な空間での出来事、若き日の自分との対決。全てを包み隠さず話した。
語り終えた高橋博士の表情には、深い後悔と共に、どこか晴れやかさも見られた。
「...以上が、全ての真相です」高橋博士が締めくくった。
部屋は再び沈黙に包まれた。皆、今聞いた話の重大さを噛みしめているようだった。
校長が重々しく言った。「これは...まさに歴史を揺るがす大事件ですね」
「そうですね」吉田副学長が頷いた。「しかし、どのように対処すべきか...」
琴音が静かに、しかし力強く言った。「この真実を、全て明かすべきだと思います」
健太も同意した。「ああ。隠し立てしても仕方ない。それに、僕たちのような...特殊な力を持つ人たちが、他にもいるかもしれない」
千代子が心配そうに言う。「でも、そんなことをしたら、あなたたち二人の生活が...」
琴音は微笑んだ。「大丈夫です。もう、自分の力を恐れたりしません。それに...」彼女は健太を見た。「一人じゃないから」
健太も頷いた。「そうだね。僕たちには仲間がいる。それに、この力を正しく使う責任がある」
高橋博士が感動的な表情で二人を見つめた。「君たちは...本当に素晴らしい。私の犯した過ちを、こんなにも立派に乗り越えてくれた」
校長が決意を込めて言った。「分かりました。真実を公表しましょう。ただし、慎重に進める必要があります」
「その通りです」吉田副学長が同意した。「まずは文部科学省や関係機関との調整が必要でしょう」
その時、校長室のドアがノックされた。
「はい、どうぞ」校長が声をかける。
ドアが開き、そこには...
「お邪魔します」
紺のスーツを着た中年の男性が現れた。その背後には数人の人影が見える。
「あなたは...」校長が驚いた表情を浮かべる。
男性は丁寧にお辞儀をした。「失礼いたします。内閣府特命担当大臣の佐藤と申します」
部屋にいた全員が驚きの表情を浮かべた。
佐藤大臣は続けた。「実は、我々も状況を把握しておりました。オメガ計画の存在、そして...」彼は琴音と健太を見た。「お二人の特殊な能力についても」
「え...」琴音が息を呑む。
「どういうことですか?」健太が問いかける。
佐藤大臣は穏やかな表情で説明を始めた。「50年前から、政府内でもこの計画を極秘に監視していました。しかし、介入のタイミングを見計らっていたのです」
高橋博士が驚いた様子で言う。「そんな...私は気づきませんでした」
「当然です」佐藤大臣が頷く。「しかし、我々の予想を遥かに超える展開がありました」彼は琴音と健太を見つめた。「お二人の驚異的な成長と、そして...今回の出来事です」
校長が恐る恐る尋ねた。「それで...政府としては?」
佐藤大臣は真剣な表情で答えた。「全面的に協力させていただきます。真実の公表、そしてその後のフォローアップも含めて」
琴音と健太は驚きの表情を見せた。彼らの行動が、既に政府レベルで認識されていたとは。
佐藤大臣は続けた。「しかし、ここで重要なのは...」彼は琴音と健太を見つめた。「お二人の意思です。どうされたいですか?」
部屋の視線が、一斉に琴音と健太に向けられた。
琴音は深呼吸をして言った。「私たちは...この力を正しく使いたいです。誰かを傷つけるためでも、支配するためでもなく、世界をより良くするために」
健太も頷いた。「そうです。でも、それは特別扱いされるということではありません。普通の高校生として、普通に生活しながら...必要な時に力を使う。そんな風にしたいんです」
佐藤大臣は満足げに微笑んだ。「素晴らしい。その言葉を聞けて本当に良かった」
高橋博士が前に出た。「私は...全ての責任を取る覚悟です。法的な処分も含めて」
佐藤大臣は高橋博士を見つめ、静かに言った。「博士の行為は確かに重大です。しかし、最後に正しい選択をしたことも事実。我々としては、むしろ博士の知識と経験を活かす道を考えています」
「それは...」高橋博士が驚いた表情を浮かべる。
「もちろん、適切な監督の下でです」佐藤大臣が付け加えた。
校長が咳払いをして言った。「では、具体的にどのように進めていけば...」
佐藤大臣は頷いた。「まずは、関係者全員で詳細な打ち合わせをしましょう。その後、段階的に情報を公開していく。もちろん、琴音さんと健太君の学校生活に支障が出ないよう、細心の注意を払います」
琴音と健太は安堵の表情を浮かべた。彼らの望む「普通の生活」が守られることに、大きな安心感を覚えた。
千代子が二人に近づき、優しく肩に手を置いた。「大丈夫。私たちが全力でサポートするわ」
美咲も元気よく言った。「そうだよ!私たち、親友だもん!」
琴音と健太は感謝の笑みを浮かべた。周りの支えがあってこそ、彼らは前に進めるのだ。
その時、佐藤大臣が言った。「それと...もう一つ重要な話があります」
全員が耳を傾ける。
「実は...」佐藤大臣が真剣な表情で続けた。「世界各地で、お二人のような特殊能力を持つ若者たちが確認されています」
「え...」琴音が驚いて声を上げる。
「そんな...」健太も唖然とする。
佐藤大臣は説明を続けた。「その多くが、オメガ計画とは直接関係ありません。しかし、似たような能力を持っている。我々は、そういった若者たちのためのプログラムを準備しています」
「プログラムとは?」校長が尋ねる。
「能力を適切にコントロールし、社会に貢献できるようサポートするものです」佐藤大臣が答えた。「そして...できればお二人にも、そのプログラムに協力していただきたい」
琴音と健太は驚きの表情を見せたが、すぐに決意に満ちた顔になった。
「はい」琴音が力強く言った。「私たちにできることがあるなら」
「喜んで協力します」健太も頷いた。
佐藤大臣は満足げに微笑んだ。「ありがとうございます。お二人の経験は、他の若者たちにとって大きな励みになるはずです」
校長が立ち上がった。「では、具体的な進め方について話し合いましょう」
部屋の空気が、新たな決意と希望に満ちていく。
琴音と健太は顔を見合わせ、小さく頷き合った。彼らの前には、想像もしていなかった未来が広がっている。しかし、二人で一緒に歩んでいけば、きっと乗り越えられる。
そして、白銀学園を中心に、世界は新たな時代へと踏み出そうとしていた。特殊能力を持つ若者たちと、一般の人々が共存する社会。その先駆けとして、琴音と健太の物語は続いていく。
校長室の窓から差し込む陽光が、希望に満ちた未来を予感させるかのように、全員を優しく包み込んでいた。
(第13話 終)
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