「封印された校舎 ―― 旧白銀学園の呪い」⑭
第14話:「未来への架け橋」
爽やかな秋風が白銀学園のキャンパスを吹き抜けていた。あの日から3ヶ月が経ち、学園は少しずつ日常を取り戻しつつあった。
琴音は中庭のベンチに座り、空を見上げていた。
「琴音、待たせたね」
振り返ると、健太が笑顔で近づいてきた。
「ううん、今来たところ」琴音も笑顔で答える。
二人は並んで座り、しばらく穏やかな空気を楽しんでいた。
「今日の放課後の特別授業、緊張するね」健太が呟いた。
琴音は頷いた。「うん。でも、みんなのためになるはず」
彼らが言及していたのは、特殊能力を持つ生徒たちのための特別プログラムだった。政府と学園の協力の下、琴音と健太を中心として、能力のコントロールや適切な使用法を学ぶ授業が始まったのだ。
「琴音、健太!」
呼びかける声に振り返ると、美咲が駆けてきた。
「どうしたの、美咲?」琴音が尋ねる。
美咲は少し息を整えてから答えた。「ね、ね、聞いた?新しい転校生が来るんだって!」
「へぇ、そうなんだ」健太が興味深そうに言う。
美咲は目を輝かせながら続けた。「しかも、その子も特殊能力者なんだって!」
琴音と健太は顔を見合わせた。新たな仲間の到来を予感させる報せだった。
「どんな子なんだろう」琴音が呟く。
「楽しみだね」健太も頷いた。
その時、校内放送が鳴り響いた。
「琴音さん、健太君、至急校長室までお越しください」
二人は顔を見合わせ、急いで立ち上がった。
「行ってくる」琴音が美咲に声をかける。
「うん、またね」美咲が手を振った。
校長室に到着すると、そこには校長、千代子、そして見知らぬ少女がいた。
「あ、来てくれたか」校長が二人を迎える。
琴音と健太は部屋に入り、恭しく挨拶をした。
「こちらが、今日から本校に転入する佐藤美香さんです」校長が少女を紹介した。
美香は深々と頭を下げた。「佐藤美香です。よろしくお願いします」
琴音と健太も丁寧に挨拶を返した。
千代子が説明を始めた。「美香さんも特殊能力を持っているの。テレパシーと、限定的な未来予知ができるそうよ」
「はい」美香が小さく頷いた。「でも、まだうまくコントロールできなくて...」
琴音は優しく微笑んだ。「大丈夫。私たちも最初は戸惑ったけど、少しずつ慣れていけるわ」
健太も同意した。「そうだね。一緒に頑張ろう」
美香の表情が少し和らいだ。
校長が咳払いをして言った。「それで、お二人にお願いがあります。美香さんのサポートを、特にお願いできますか?」
琴音と健太は顔を見合わせ、笑顔で頷いた。
「はい、喜んで」琴音が答えた。
「任せてください」健太も力強く言った。
美香は感激した様子で二人を見つめた。「ありがとうございます」
その後、琴音と健太は美香を案内しながら、学校の様子や特別プログラムについて説明した。
教室に戻ると、クラスメイトたちが興味津々で美香を迎えた。以前なら、特殊能力者の転入に戸惑いや不安があったかもしれない。しかし今は、好奇心と温かさで満ちていた。
放課後、特別授業が始まった。琴音と健太を中心に、数名の特殊能力を持つ生徒たちが集まっていた。
「では、今日は能力のコントロール方法について話し合いましょう」琴音が口を開いた。
健太が続けた。「みんな、どんな時に能力がコントロールしづらいか教えてくれる?」
生徒たちは少しずつ、自分の経験や悩みを話し始めた。美香も、おずおずと手を挙げた。
「私は...強い感情が湧き上がった時に、突然他人の思考が聞こえてしまって...」
琴音は優しく頷いた。「そうね。感情のコントロールは大切だわ。私たちも学んできたけど、瞑想や呼吸法が役立つわ」
健太も加えた。「それに、仲間の存在も大切だよ。一人で抱え込まないこと」
授業は和やかな雰囲気で進んでいった。生徒たちは少しずつ打ち解け、互いの悩みや経験を共有し始めた。
授業が終わり、琴音と健太が片付けをしていると、美香が近づいてきた。
「あの...ありがとうございました」美香が深々と頭を下げる。
琴音は優しく微笑んだ。「気にしないで。私たちも最初は戸惑ったから、気持ちはよく分かるわ」
健太も頷いた。「そうだよ。これからも一緒に頑張ろう」
美香の目に涙が光った。「はい...!」
その時、教室のドアがノックされた。
「はい、どうぞ」琴音が声をかける。
ドアが開き、佐藤大臣が姿を現した。
「お疲れ様です」佐藤大臣が穏やかに言った。
三人は驚いて挨拶をした。
佐藤大臣は教室を見回して言った。「素晴らしい取り組みですね。報告は受けていましたが、実際に見ると感動します」
琴音が丁寧に答えた。「ありがとうございます。まだ試行錯誤の段階ですが...」
「いえいえ」佐藤大臣が手を振った。「むしろ、予想以上の成果です。実は、重要な話があってきました」
三人は真剣な表情で耳を傾けた。
佐藤大臣は続けた。「国連から、この取り組みに注目が集まっています。世界中で同様の問題が起きているからです」
「世界中で...」健太が呟いた。
佐藤大臣は頷いた。「はい。そして、国連特使として、お二人に世界各地のプログラムを視察し、アドバイスしてほしいという要請が来ています」
琴音と健太は驚きの表情を見せた。
「私たちが...?」琴音が戸惑いの声を上げる。
「世界中を...?」健太も信じられない様子だ。
佐藤大臣は優しく微笑んだ。「もちろん、強制ではありません。学業への影響も最小限に抑えます。でも、お二人の経験は世界中の若者たちの希望になるはずです」
琴音と健太は顔を見合わせた。そこには戸惑いと共に、新たな使命感が芽生えていた。
「時間をかけて考えてください」佐藤大臣が言った。「家族とも相談してみてください」
二人は深く頷いた。
その夜、琴音は自室のベッドに横たわり、天井を見つめていた。スマートフォンが鳴り、健太からのメッセージだった。
「考えた?」
琴音は小さく微笑み、返信した。
「うん。私は行きたいと思う。世界中の仲間たちの力になれるなら」
すぐに返事が来た。
「僕も同じ気持ちだ。一緒に行こう」
琴音は安堵の息をついた。二人で一緒なら、どんな困難も乗り越えられる気がした。
翌日、二人は校長室で決意を伝えた。
「分かりました」校長が頷いた。「貴重な経験になるでしょう。しっかりサポートしますから」
千代子も励ましの言葉をかけた。「世界中で、あなたたちの様な若者たちが悩んでいるの。その子たちの希望になってあげてね」
放課後、琴音と健太は屋上に立ち、夕陽を眺めていた。
「不安はある?」健太が尋ねた。
琴音は首を振った。「ううん。だって...」彼女は健太の手を握った。「一緒だもの」
健太も琴音の手を強く握り返した。「ああ、一緒だ」
二人の前には、想像もしていなかった未来が広がっている。しかし、互いの絆があれば、どんな試練も乗り越えられるはずだ。
そして、白銀学園を見下ろしながら、琴音と健太は新たな冒険への第一歩を踏み出そうとしていた。
世界中の特殊能力を持つ若者たちのために。そして、すべての人々が共生できる未来のために。
夕陽が地平線に沈もうとする中、二人の決意は固く、そして暖かいものだった。
(第14話 終)
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