「封印された校舎 ―― 旧白銀学園の呪い」⑧
第8話「時を超えた邂逅」
まばゆい光に包まれた後、琴音と健太の目の前に広がったのは、見覚えのない白銀学園の姿だった。木々は若々しく、建物は真新しい。そして、生徒たちの制服も古めかしいデザインになっている。
「うわぁ...」琴音が息を呑む。
「これが50年前か...」健太も驚きの表情を浮かべる。
二人が校舎を見上げていると、突然背後から声がかかった。
「おや、君たち。その制服は?」
振り返ると、若い男性教師が立っていた。琴音と健太は思わず顔を見合わせる。その顔は...
「吉田先生...ですか?」琴音が恐る恐る尋ねる。
若い吉田は首をかしげた。「ええ、そうだけど...君たち、僕を知っているのかい?」
健太が機転を利かせる。「あ、いえ...噂で聞いたことがあって」
吉田は納得したように頷いた。「そうか。でも、その制服はどこの学校だい?見たことがないんだが...」
琴音と健太は焦った。このままでは正体がばれてしまう。その時、校舎の方から声が聞こえてきた。
「吉田先生、会議の時間ですよ」
「ああ、そうだった」若い吉田は二人に向き直り、にっこり笑った。「じゃあ、また後でね」
吉田が去った後、琴音と健太はほっと胸をなでおろした。
「危なかったね」健太が言う。
「うん...でも、私たち、どうやってここに来たの?」琴音が周りを見回す。
その時、二人の耳に不思議な声が聞こえてきた。
「来てくれたのね、未来の子供たち」
声の主を探すと、校舎の壁から、かすかに人の形をした影が現れた。
「あなたは...」琴音が尋ねる。
「私は、この学校そのものよ」影が答えた。「あなたたちの時代で、私が目覚めてしまったのね」
健太が驚いて声を上げる。「じゃあ、僕たちが見ているこの光景は...」
「そう、私の記憶よ」影が言った。「あなたたちの力を借りて、私は過去を見せることができるの」
琴音は勇気を出して一歩前に出た。「私たちは、あなたを止めに来ました。現在の世界で、あなたが暴走して...」
影は悲しそうに揺れた。「分かっているわ。でも、それが私の使命なの。才能ある生徒たちを見出し、導くこと...」
「でも、そんなの間違ってる!」健太が叫ぶ。「人は自由に成長すべきだ。誰かに操られるんじゃなくて」
影が静かに言った。「でも、それでは才能が埋もれてしまう。私は、全ての可能性を引き出したいの」
琴音は深く考え込んだ。そして、ゆっくりと口を開いた。
「でも、それは本当の成長じゃないと思います。失敗も、回り道も、全部含めて成長なんです」
健太も頷いて続けた。「そうだよ。僕たちだって、いろんな経験を積んで今の力を得たんだ」
影は黙って二人の言葉を聞いていた。そして、少しずつ形を変え始めた。
「あなたたちの言葉...心に響くわ」影が言った。「でも、私にはもう後戻りできない。このまま消えてしまえば、大切な記憶も全て失われてしまう...」
琴音と健太は顔を見合わせた。二人の目に、同じ思いが宿る。
「じゃあ、私たちが引き継ぎます」琴音が言った。
「そうだね。この学校の記憶を、僕たちが守っていこう」健太も頷く。
影はゆっくりと明るくなっていった。「本当に...いいの?」
「はい」二人は同時に答えた。
その瞬間、まばゆい光が二人を包み込んだ。
気がつくと、琴音と健太は現在の旧校舎の前に立っていた。建物はもう揺れておらず、静かに佇んでいる。
「戻ってこれたんだね...」健太がほっとした様子で言う。
「うん...」琴音も安堵の表情を浮かべる。
しかし、二人の頭の中には、50年分の白銀学園の記憶が残されていた。
そこへ、駆けつけてきた千代子と現在の吉田が近づいてきた。
「二人とも!無事だったのね」千代子が安堵の表情で言う。
吉田は複雑な表情を浮かべていた。「君たち...一体何が...」
琴音と健太は顔を見合わせ、静かに微笑んだ。
「長い話になりそうです」琴音が言った。
「でも、きっと聞く価値はありますよ」健太が続けた。
二人は、これから始まる新たな物語に胸を躍らせていた。しかし、その瞬間...
「琴音!健太!」
振り返ると、慌てた様子で駆けてくる美咲の姿があった。彼女の表情には、ありえない恐怖の色が浮かんでいる。
「大変なの!新校舎が...」
(第8話 終)
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