【ワーホリ】小さな出会いが生む大きな気づき
「これはニセコで描いた絵なんだよ。」
笑顔を浮かべたおじさんが、ふいに話しかけてきたのは、シドニー行きの飛行機の中だった。私はこれから一人でワーキングホリデーに向かうところ。不安はない、と言いたいけれど、正直なところ胸の奥に小さな重りのようなものがあった。表情に出ていたのかもしれない。
おじさんはスマホを取り出して、画面を見せながら話し始めた。そこに映っていたのは、彼が描いたという絵。鉛筆で描かれたその絵は、とても細かくてやさしいタッチだった。山や木、雪景色がまるでそこにあるかのように伝わってきた。
じっとその絵を見ていると、不思議と私の胸の中の重りが少しずつ軽くなるのを感じた。
「実はね…」
なぜか自然と、自分の話をしていた。一人で行くことが不安なこと。現地に知り合いがいないこと。そして、期待よりも不安が大きいこと。
おじさんは私の話をじっと聞いてから、にこっと笑った。
「すごいじゃないか!一人で行くなんて、それだけでも立派だよ。全部うまくいく、大丈夫。」
その言葉を聞いた瞬間、胸がふわっと温かくなった。おじさんの言葉は、私が自分自身に言いたくても言えなかった言葉だったのだと思う。
友達もいないし、頼れる人もいない。「しっかりしなきゃ」「一人で頑張らなきゃ」と自分に言い聞かせて、いつの間にか心が硬くなっていた。でも、おじさんとの会話は、まるでホットミルクを飲んだときのように私の心を溶かしてくれた。
ニセコの山々を描いたその絵も、どこかやさしくてあたたかい。それを見ているうちに、ただ「頑張らなきゃ」と自分にプレッシャーをかけるのではなく「自分のペースでやればいい」と思えるようになった。
飛行機が着陸し、おじさんとはお別れをしたけれど、その言葉と絵はずっと私の心の中に残っている。
「きっと大丈夫。」その言葉が、これからの私を支えてくれるような気がした。
そして思った。旅は目的地に着くことが全てじゃない。こうした一期一会の出会いが、旅をもっと素敵なものにしてくれるんだ、と。
ニセコで描かれたその絵は、今でも私の心に残っている。旅の不安や孤独を癒してくれたその絵とおじさんの言葉は、私にとって忘れられない「旅のスタート地点」だ。
この出来事は、私に「人とのつながりの温かさ」を教えてくれた。そして、どんなに不安なときでも、ほんの少しのやさしさで人は元気を取り戻せるのだと実感した。
これから先、また不安に押しつぶされそうになったとき、あの言葉と絵を思い出そう。そして、私も誰かにそんな温かさを届けられるような人になりたい。
旅の中で出会った絵とおじさんの笑顔は、私の「これから」をそっと後押ししてくれたのだ。
どんな旅でも、予期しない出会いがある。それは、観光地の美しさよりも心に深く残るものかもしれない。このエピソードを通して、あなたも「一期一会」の大切さを感じてもらえたら嬉しい。
きっと、次の旅でもあなたにとって特別な出会いが待っているはず。