シドニーからニューカッスルへの電車旅
先日、ニューカッスルという街に出かけてクラフトビールを飲みまくったという話を書いたけど、
実はニューカッスルに行くことを決めた目的の一つは、沿線の景色が素晴らしい、という点でもあった。
ニューカッスルというのはシドニーから電車で行くと3時間ほど。下に路線図を貼っておくが、基本海岸線(の近く)を北上している。
そして下の地図の辺り、CowanからWoy Woyに至る沿線が、この路線の絶景区間。高速道路だともっと直線ルートで森をぶち抜くルートだから、景色はちょっと変化に乏しいが、鉄道はそれよりずっと昔に作られたので、なるべく平地に沿って線路が敷かれている。なのでグネグネとしたルートで時間がかかるが、その分景色はいいというわけだ。
インターシティに乗る
まずはシドニー中央駅に行き、ニューカッスル行きの電車に乗る。
さすが中央駅とあって、時計塔のある格調高い駅舎だ。ここはもちろん通勤電車も通っているが、中長距離列車はこの駅が始発だ。
オーストラリアは車社会なので鉄道は日本ほど発達していないが、それでもシドニーからブルーマウンテン、ウーロンゴン、ニューカッスルといった別の町に行く電車はそれなりの頻度で出ていて、これをインターシティと呼んでいる。上の写真にあるような無骨なステンレスむき出しの車両で、座席は全自由席。小さな駅は通過するので、日本の列車種別に当てはめると快速列車といったところだ。この州でシドニーの次に大きな街であるニューカッスルへは、大体30分間隔で出発している。
平日の朝遅い電車に乗ったので、車内はガラガラ。もちろん景色の良い二階席の窓際の席を取る。座席は2列+2列のクロスシートで向かい合わせに変えることもできる。こちらの電車は標準軌なので、そうか、この座席配列は新幹線のグリーン車と同じではないか。もちろんシートはそこまで豪華ではないけれど、一応革張り(天然革ではないだろうな…さすがに)なのでかなりゆったりできる。
さて出発。始めの40分ほどはシドニーの近郊住宅地を走るので、まあどうということのない景色だ。それでも最後の方になるとアパートが姿を消していき、緑に囲まれた一軒家の住宅地が増えてくる。
最後のベッドタウン的な町を過ぎると、線路は国立公園に入っていき、人家がほぼ無くなる。車窓からはオーストラリアらしい広大なブッシュランドがしばらく延々と続き、見渡す限りユーカリのくすんだ緑色だ。
この辺りはちょっとした高台になっているのだが、徐々に線路は高度を下げていく。低い山を縫って走るので、線路はぐねぐねとカーブし、オーストラリアの鉄道としては珍しくトンネルも多い。
けっこう高度が下がってきたのかな…と思う頃になると、山間の景色が途切れ、眼下に水面がチラチラと見えてくる。ちょっと唐突にかなり大きな入り江というか、海というかが見えるのでびっくりする。
この辺りは、ホークスベリー・リバー(Hawkesbury River) といい、川ということになっているが、海にかなり近いので水自体は汽水なんだろう。
地図で見ると分かるが、この辺りは入り江が複雑に入り組んでいて、線路はその水際に沿って敷かれている。
ブルックリンという小さな駅を通過する。ここはこの辺りでは大きな集落で、ヨットや漁船がたくさん停泊している。
そう、このあたりの海では牡蠣の養殖が盛んなのだ。シドニーのレストランにも、ここで取れた牡蠣が出されることがある。車窓からも、養殖に使われているとおぼしき杭が海面から出ている。そういえば最近、牡蠣食べてないなあ…なんてことを思い起こしてしまった。
それにしても、こんな海の近く、しかも高台でもない場所に線路を敷いて、冠水したりすることはないのだろうか?と心配になるが、内湾だし地震もないオーストラリアのことだからまあ大丈夫なんだろう。
Google Mapを見ると、この辺りの湾形はとても複雑で、線路を敷くのも大変だっただろう。
そんな線形なので、電車はごくゆっくりと水辺を走っていく。景色を眺めるこちらもゆったりとした気分で、海と、対岸の山(というか丘だけど)、移りゆく雲と空を眺める。このまま果てしなくこんな景色が続けばいいのに。
もちろんそんな訳もなく、沿線には徐々に人家が増えてきて、ウォイウォイ(Woy Woy)という町に電車は到着。夢から覚めたかのように、それなりに多くの客が乗り降りをする。
このあと車窓の景色は森の中を走るのでやや単調になり、ニューカッスル駅に着いた。
ニューカッスル・ライトレール
ニューカッスルにはライトレールが走っている。もともと鉄道はもう少し先まで伸びていたのだが、こちらの電車はとにかくヘヴィなので、市内はもっと利便性が良くて小回りの効くライトレールに変更したのだろう。
アレ、こんなのあったかな?となったので今調べてみたら、開業は2019年2月ということだ。そうか、まだ出来たてのほやほやなんだ。
この車輌はスペインのCAFという会社が作っていて、シドニー、キャンベラのライトレールと同型のようだ。
鉄道駅のすぐ横にライトレールの電停があるので、乗り換えはとてもスムーズだ。
路線は今のところ、電車の終着駅でもあるインターチェンジ駅から、ニューカッスルビーチまでのたった2.7キロだが、街の要所を通っているので便利そうだ。その日の宿に行くためとりあえず乗ってみたが、終点近くに何やら面白い建物があった。
古めかしい長い建物に、The Station という看板が出ているが、線路はない。
なるほど、ここが昔のニューカッスル駅だったのか。レンガ造りの洒落た建物、以前線路が敷かれていた場所はそのままになっているので、昔は駅だったんだなあというのがすぐ分かる。今では駅舎に店舗が入っていたり、オープンスペースではイベントなども開かれているようだ。あいにく冷たい風が吹きすさぶ日だったので、広場はがらんとしていたけど。
ニューカッスルは今も昔も忙しい港町なので、トラック輸送などない昔はこの駅も貨物で賑わっていたんだろうなあ。
それに比べ、ライトレールの終点駅はとてもコンパクト。
よく見てみると、このライトレール、架線がないくせにパンタグラフはある。あれ?どうやって電気を取っているのかな?と思っていたら、終点駅でパンタグラフがにゅっと持ち上がり、ぽつんと立っている架線柱に触れた。
なるほど、終着駅で充電をして、沿線を走行中はその電力を消費して走行するんだな、と思い至った。これくらいの短い距離なら充電池でまかなうことができるのだろう。路面電車の欠点は、架線が町の景観を乱すというところだと思うので(あれもいいけどね)、これはなかなか良く考えられたシステムだと思う。
…いや、こんなことをつらつらと考えるのは鉄ちゃんならでは、だなあ。
ニューカッスル・ビーチという名に恥じず、この電停から歩いてすぐに、ビーチに突き当たる。
この写真には入っていないが、ビーチのそばにはアパートやホテルが並んでいて、ちょっとシドニーのボンダイビーチみたいだな、と思った。
私が行ったのは冬のさなかだったし、天気もそれほどでもなかったので人は少なかったが、夏はさぞかし賑わうのだろう。シドニーも街とビーチがとても近いけど、ニューカッスルはそれに輪をかけて近い。海や自然が好きな人にとっては応えられないロケーションだ。
翌日午後の電車でシドニーに帰ったが、その日は途中から雨が降り出し、始終薄暗いどんよりとした空模様だったので写真を撮ることはできなかった。
それでもぼーっと外の景色を見ていたら、自分がシドニーから遠く離れたどこかとてつもなく遠い田舎を電車に乗って走っているような気がして、なんだかふわふわとした気分になった。
また今度電車に乗って、どこかの町に行ってみようかな。