見出し画像

悪臭を嗅ぐために、90分並んだお話:Meet Putricia

ニュースサイトを見ていると、「ものすごく臭い花がもうじき開花!」みたいな見出しが出ていた。

なんじゃそれ?と思って記事を読むと、シドニーの植物園にある希少種の花がここ数日中に開花するそうで、その花の匂いがなかなか凄まじいということだ。

その花は、和名だと「ショクダイオオコンニャク」というそうだが(コンニャク?)、英語の俗名は、Corpse Flowerだそう。屍体の花、というまあなんともはや、というダイレクトな命名。

ざっと解説すると、インドネシア原産の植物で、最低でも2年に1度しか開花せず、その匂いは、腐った肉、生乾きの衣類…と言われている。そして、絶滅危惧種だそうだ。

そんな希少な植物が地元の植物園にあり、数日中に開花する、これを逃したらあと何年かは見られない…しないとなれば、これは行ってみたい!しかも、植物園は自宅からそれほど離れておらず、僕のランニングルートでもある。

さっそくジョギングがてら見に行ったが、その日はまだ咲いていなかった。まあ、混んでいない時に咲く前の状態をじっくり見ることができたので良しとしよう。

写真のように、すっくと黄緑色の茎?が直立し、下の方は花びらがカーテンのように覆われている。なんとも珍妙な外観だ。
まだ開花していないので、もちろん匂いはしない。

その後は、植物園のウェブサイトでライブストリームをしていたので、仕事中にチラチラ見ていたが、その日は変化なし。
だが、その2日後にライブストリームを見ていると、おお、咲いているではないか!

咲いた場合、植物園は夜中の零時まで開園するという。
ちょうどその日の勤務シフトは23時までだったから、仕事の後に見に行けるじゃん!と思ったが、そんなに世の中は甘くない。

暇人…もとい、興味しんしんの人が植物園に押し寄せ、なんと待ち時間が3.5時間となったらしく、早々に「もうこれ以上の行列は受け入れません」という告知が出た。

む、これは困った。なぜかというと、この花、開花したら24時間ほどしか咲かず、すぐしおれてしまうらしい。これを見逃したら、次回の開花は…うーん、まだ生きているとは思うけど、どうなるか分からないもんな…。

と、そんな気持ちで就寝したら、そりゃあ寝付きはよろしくなく、6時過ぎには目が覚めてしまった。

この日は植物園の開園は8時で、幸い仕事は休み。どうせもう行列はできているだろうけど、行ってみるか!と家を出る。

植物園の門に行くと、行列はこんな感じ。正直、それほどでもない。
平日の朝っぱらなのに、みんな暇人だなあ~(人のことは言えないが)、と苦笑しつつ、列の最後尾につく。

開園まであと1時間あるので、最低でも1時間待ち。家から持ってきていた本を読みつつ時間をつぶす。

8時になり、やっと門が開いたが、中でもウネウネと列を作って拝観(というか)の順番を待つ。
待っている間に、係員の人がクレジットカードの端末を持ち歩き、寄付を募っていた。珍しいものを見させてもらうんだからと、僕も募金をしたし、周りの人もほとんど寄付をしていた。この辺は、オージーさすがだなあ、と思う。我々の募金が、植物園の発展に役立ちますように!

さて、列はけっこう速く進み、ついに建物の前まで来た。入口には看板が出ていて、どうやらこのシドニーの花は、Putriciaという愛称が付けられたようだ。女性の名前のパトリシア(Patricia)と、めっちゃ臭い、という意味のPutridをかけ合わせたわけですね。こういうダジャレ、オージーは好きなんだよねえ…。

さて、係員にうながされ、建物の中に入る。ついにご対面!

なんという存在感

ライブストリームで見ていたので想像はついていたが、実物を見るとやはり圧倒される。

開花すると、てっぺんの辺りがくしゃっと垂れてしまうんだなあ。

そして、この花びらの色!赤紫のカーテンというか、まるで美術品のような繊細さだ。

そして、肝心の匂いだが…

あれ?いうほど強烈じゃないぞ?

確かに、すえた匂いというか、湿った衣類をほったらかしにしたら出るような匂いというか…はするが、鼻が曲がるという程でもなかった。

でも、何とも形容できない、という点ではとても貴重な匂いの体験だった。

後で、植物園の職員さんに聞いてみたところ、開花した昨晩はもっと匂いが強かったという。要は、この匂いに引き寄せられる昆虫(主に甲虫)を介して受粉をさせるということだ。

甘い匂いに引き寄せられる虫もいるし、こんなへんてこな匂いに引き寄せられる虫もいる。蓼食う虫も好き好き、とはよく言ったものよ。

わりあいあっという間に見終えてしまったが、貴重なものを見ることができて良かったし、生き物というか、植物の多様性、奥深さを改めて感じることができた体験だった。