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【アルバム紹介-5】【LAGOONからみるはっぴいえんど】鈴木茂/LAGOON
今回紹介するのは76年にリリースされた鈴木茂の2ndスタジオアルバムLAGOONです。
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鈴木茂
「はっぴいえんど」「ティン・パン・アレー」という名だたるバンドでギターを担当した日本を代表するギタリストである鈴木茂が75年に渡米し、サンフランシスコとハリウッドで制作した1stアルバム「BAND WAGON」に続き、本作は東京から細野晴臣、林立夫らを引き連れハワイのホノルルで収録されました。そのためジャケットのイメージにある通り、アルバム全体にまったりとしたホノルルの空気感が漂っています。名曲「砂の女」を収録した1stの「BAND WAGON」も外せない名盤となっています。
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鈴木茂
収録したホノルルの空気感もあってか、前作「BAND WAGON」に比べ本作はかなりリラックス志向に洗練されました。ほぼ全曲で細野晴臣、林立夫らティン・パン組が参加しています。インストゥルメンタルを除く全ての曲の作詞を松本隆が手がけています。松本隆は「はっぴいえんど」時代では移りゆく東京の街やその対照的に田舎をテーマにした詩が多かったように思えますが、今作ではそういったある種“バンドとして「はっぴいえんど」が持っていた思慮”を含まず、松本隆の目線での、穏やかで生活的な、個人に寄り添った歌詞を描いていると感じます。鍵盤を担当したマーク・レヴィンは、ピアノとエレクトリックピアノを使い分ける事で大人っぽいムードに一役を買っています。メロウさを漂わせつつリゾートでラテンな雰囲気を持つこのアルバムは、鈴木茂の涼し気な声ととてもマッチしています。一応「風街ろまん」の画像を入れておきます(入れたいだけ)。
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はっぴいえんど
【アルバム内容】
1曲目「LADY PINK PANTHER」
Lady Pink Panther
壁の貼絵(ポスター)
早くその絵を出ておいで
部屋に飾ったお気に入りのポスターに喋りかける。そんな生活の一部を切り取ったこの名曲はこのアルバムの中で1番のお気に入りです。難しい事は考えない、ただ落ち着きがありどこか可愛らしいこの曲は至高のAORで、是非聞いていただきたいです。
3曲目「BRANDY WINE 」5曲目「HAWAIIAN」8曲目「ALMERIA」はインストゥルメンタルで、どれもこのアルバムの雰囲気を全面に醸し出す素敵な曲です。
4曲目「TOKYO・ハーバー・ライン」は東京で働くオフィスレディーをドライブに連れ出す曲で、歌詞とは裏腹に暖かみのあるメロディの曲です。
君は5時までオフィス・レディー
月曜からは憂鬱色(グレイ)の日々
みんなTOKYOを逃げていくんだ
6曲目「走れラビット」はボサノヴァとリゾートな雰囲気を感じられる曲で、ファンキーな曲調となっています。
最後の9曲目「8分音符の詩」はアルバムラストを締めくくるに相応しく、楽しかった時間が終わっていくかのような寂しげな曲です。
1人ずつ遠去かる
旧い友だちに手を振ろうか
手作りの楽器で
集まった夜が懐かしいね
歌詞にも別れの様子が描かれており、アルバム通しで聞くとより切なさを感じられます。
【まとめ】
このアルバムについて聞きこんだり調べたりしたことで、「はっぴいえんど」時代との松本隆の歌詞の違いに気づけました。
細野晴臣、鈴木茂、松本隆とはっぴいえんどメンバーの4人のうち3名が制作に携わってる中で、本作は切り取られた日常を優雅に描いているというものであるのに対し、「はっぴいえんど」では切り取る対象が街であったりと、広く大きいです。つまり、彼らは「はっぴいえんど」で個人の生活の様子に寄り添っただけではなく、日本という国の在り方に対し非常に雄弁に語りかけていたのです。僕は「はっぴいえんど」で行われた彼らの主張が非常に挑戦的であったことに、この「LAGOON」を聞き対比できたからこそ気づけたのだと思います。
そして、僕は20代ですので彼らが育ち愛した(1964年東京オリンピックで都市開発が進んでしまう前の)東京を知りませんが、当時の雰囲気を彼らの曲や詩から「風街」を共通のイデアとして共有でき、僕はそこに魅了されたのだと改めて理解出来たのでした。
拙い文章をここまで読んでくださった方、ありがとうございました。