目を閉じて
目を閉じて、盲目的に生きる。
勉強をしなさい、素直にいなさい、人に逆らわず笑っていなさい、いい大学に行っていい会社に就職しなさい、やりたいことは老後にやりなさい。
盲目的に生きる。
目を閉じて、今はもういなくなってしまった人のことを思う。あの人の作るおはぎが美味しくて、編み物が上手で、木漏れ日に抜ける風のような人で、どこか憎めない恩着せがましい説教を垂れてきて、そんな人だった。
癌だってわかった時、僕はどうしたらいいかわからなかったよ。
お菓子が食べたいって言ったとき、食べちゃいなよって言いたかったよ。もうどうせ死んじゃうんだし。死にたいって言ったとき、じゃあもう死んじゃいなよって言いたかったよ。でも言えなかったから。
ごめんなさい
ひいおばあちゃん。
あなたが目を閉じたとき、泣けなかったよ。あなたの葬式で眠りかけてしまったよ。あなたの火葬の時、まだあなたのおはぎが食べられるものだと思ってたよ。
まだ、あのおはぎ食べたかったなあ。あなたの編んだ手袋つけたかったなぁ。昔のやつはもう小さすぎて親指が破れて見えてきちゃうから。あなたがそんなに苦しんでしまうなら、癌も肩代わりしたかったなぁ。もっと色んなこと話しておけばよかったなぁ。
僕はあなたに話していないことだらけだよ。
目を閉じる、息を吸い込むとたしかに同じ時間を過ごした頃を思い出してしまった。僕ももう時期行きます。きっと。今じゃないけど。
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