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今日のお酒「アードベッグ」
1週間お疲れ様です
金曜日。それは社会人や学生の安息の日。翌日に休日が控えている日の夕暮れというものは、ともすれば土日そのものよりも幸せな気分なりうる日でもあります。学生は学校帰りに遊びに行ったり、ゆっくり休んだり。では社会人は?もちろん、飲みに行きますよね。1週間の積もった疲れやストレスをぶちまけるように飲み、幸せな気分に浸ります。
アルコールは、報酬系と呼ばれる神経を作用させる、ドーパミンを活発に分泌させるといった働きがあり、幸せな気分になれるといいます。日頃の疲れは酒と共に忘れてしまいましょう。
ということで毎週金曜日は、お酒に関するエッセイを投稿したいと思います。
記念すべき第1回は、アードベッグです。
概要
アードベッグは、アイラのシングルモルトウイスキーです。初っ端から横文字だらけの変な単語が多く出てきましたね。1個ずつ解説していきます。
アイラとは、スコットランドのアイラ島で作られたウイスキーを指します。スコットランドのインナーヘブリディーズ諸島に位置する、日本の淡路島よりやや大きい約600km²の面積の島です。
この島は「スコッチの聖地」と呼ばれ、こんな小さな島の中に、なんと9つものウイスキーの蒸留所があります!しかもこれらの蒸留所はウイスキー界に燦然と輝くビッグネームばかり!それだけウイスキー作りに向いている土地だという訳ですね。
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アードベッグは、アードベッグ蒸留所からリリースされるウイスキーで、その蒸留所は南部に位置します。南部に位置する蒸留所のウイスキーは、癖が強いのが特徴です。
概要はこんなところですが、ではウイスキーって何ですか?というところからもう少し詳しく説明したいと思います。少々長くなりますが、お付き合い下さい。もう知ってるよって人は、次の小見出しは飛ばして大丈夫です。
ウイスキーとは?
ウイスキーとは、麦やトウモロコシといった穀物を糖化させた後発酵、蒸留し作った飲み物になります。分類上は蒸留酒です。元々ラテン語で「命の水」を意味する「アクア・ヴィテ」と呼ばれた、修道院で作られていた蒸留アルコール。その製造の技術がスコットランドやアイルランドに伝来した際、アクア・ヴィテがそれぞれの言語に派生し、同じ意味である「ウシュケ・ボー」となります。そのウシュケの部分が訛って、現在の「ウイスキー」になったそうです。
糖化とは何でしょう?糖化とは、酵素の力を借りてデンプンを糖分に変える工程のことを指します。ビールが生まれた時の逸話はご存知でしょうか?時は古来メソポタミア、農耕生活をしていた彼らは、たまたま瓶に放置し日を浴び続けた麦の粥が、くたくたの汁になっていることを発見しました。飲んでみるとなんとまぁ美味しい!これがビールの元祖だとされます。
このように、温かい水の中に、発芽した穀物を漬けると、穀物についた酵素が働き、デンプンが糖分に変換されます。この過程を踏んで出来るのが「麦汁」です。麦汁にこだわった、などビールなどの売り文句にも使われるのを見ますね。
なんとこの状態の麦汁は、糖度が20%もあるそうです。蒸留所見学に行った時に糖化した麦汁を見せてもらいましたが、きわめて甘い素敵な香りが漂っていたのを覚えています。
なんでこの過程を踏まないといけないか?それは、デンプンがデンプンのままだと、発酵させることが出来ないからです。発酵させるために投入される酵母は、糖分を分解しアルコールと炭酸に変えます。デンプンと糖分では、組成が違うために分解できないんですね。
こうして麦汁に酵母をぶち込んで発酵させた、アルコールを含んだ液体(もろみと言います)を、さらにスチルと呼ばれる蒸留装置にて蒸留させます。蒸留とは、水分とアルコールの沸騰温度が違うところを活かし水分とアルコールを分離させる作業を指します。ちなみにビールは、このもろみをそのまま貯蔵して出来ます。
蒸留の方法は2種類あり、ポットスチルを使う「単式蒸留」とコーフィースチルを使う「複式蒸留」です。
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こうして抽出された高濃度のアルコールは、ウイスキーの原型となります。「ニューポット」と呼ばれ、無色透明です。ここから我々が知る茶色のウイスキーになるには、ニューポットを樽に詰めて貯蔵する工程が必要となります。
ミズナラ樽、シェリー樽、バーボン樽など様々な種類の樽に詰めて年単位に渡る長い期間貯蔵すると、その樽の風味がニューポットに付き、色や香りがついたウイスキーとなるのです。今回私が紹介するアードベッグも、この様な工程を経て作られているわけですね。
こうして作られたウイスキーは、「原酒」と呼ばれます。同じ蒸留所でも、様々な条件で寝かせた原酒が存在し、それらと水を「ブレンダー」と呼ばれる人間が完璧な比率で混ぜ合わせることで、私たちが普段飲むウイスキーが出来るわけです。
ウイスキーは人と時、そして場所が作り上げる芸術品と言えるでしょう。
シングルモルトとは
前述した通り、アードベッグは「アイラのシングルモルトウイスキー」です。シングルモルトとは何でしょうか?
シングルモルトとは、シングル(単一の)モルト(大麦麦芽)で作られたウイスキーです。ウイスキーの原料は穀物と言いましたが、とりわけ大麦麦芽を使って単式蒸留で作られたウイスキーを「モルトウイスキー」と言います。そしてその中でも同一の蒸留所で作られたモルト原酒のみを使って作られるウイスキーを「シングルモルトウイスキー」と呼んでいるのです。アードベッグ蒸留所が出す「アードベッグ」、山崎蒸留所が出す「山崎」などが該当します。
ちなみに、原酒を混ぜ合わせず、単一の樽から作られたウイスキーを「シングルカスク」と言います。ブレンドの作業には、樽ごとの個性を均一化するという意味合いもあります。それをしないため、樽ごとの個性を楽しめます。
中には、蒸留所から原酒を買いつけ、ブレンドしたものを売る会社も存在します。そのように、複数の蒸留所の原酒を混ぜ合わせて作るウイスキーを「ブレンデッドウイスキー」と言います。ジョージ・バランタイン&サン社が出す「バランタイン」には「アードベッグ」ほか6つの蒸留所のウイスキーが使われています。
複式蒸留器を使って作られるウイスキーのことを「グレーンウイスキー」と言います。グレーンウイスキーは穀物であれば原料を問いません。麦芽より安価で作りやすいので、ブレンデッドウイスキーに使われます。バランタインもグレーンウイスキーを用いています。また、単一の蒸留所のグレーン原酒のみを使って作られるウイスキーを「シングルグレーン」と言います。知多蒸留所の「知多」などが該当します。
しかしながら、グレーンウイスキーを使わないブレンデッドウイスキーが存在し、そちらは「ブレンデッドモルト」と言います。ダグラスレイン社のビッグピートなどです。
シングルモルトのいい所は、蒸留所の個性が出る。それに限ります。ブレンデッドウイスキーは、良くも悪くも混ぜ合わせて平均的な味になることが多いですが、その蒸留所だけの原酒で作られるウイスキーはモロにその蒸留所の味が出ます。その風土や作り方に由来した、個性を楽しめるのです。
アードベッグいただきます
では、このような知識を元にアードベッグを頂きましょう。アードベッグにはリリースされているボトルが何本かあります。ひとつひとつ見ていきましょう。
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この店は(他のお客様の迷惑にならない限りで)写真取り放題、
バーテンは自ら「私は動くフリー素材」と仰っていました笑
まずはスタンダードボトルである「アードベッグ10年」。10年とは、10年以上寝かせた原酒のみを使用しているという意味です。
まず飲もうとして驚くのがその匂い。正露丸とも磯の匂いとも形容される強烈な薬品臭がします。ヨード臭と呼ばれるこの薬品臭がアイラウイスキーの大きな特徴の1つです。
麦を発芽されたものが麦芽ですが、麦を発芽させるまでの工程は基本的に蒸留所内で行います。そして、発芽したら火を焚いて乾燥させ、発芽を止めるのです。この工程をモルティングと言います。
火を焚くときに使うのが泥炭(ピート)と呼ばれるものですが、アイラ島に遍在する泥炭には、海藻の死骸が多分に含まれています。それを使って焚くことによって、磯の匂いにも似たヨード香が麦芽に染み付き、そんな匂いのウイスキーとなるのです。
ウイスキー初心者が飲んだら絶対にウイスキーを嫌いになるとされるほど癖が強く猛々しいウイスキー、それがアードベッグです笑
しかしながら、飲んでみるとその風味の複雑さにびっくりします。フルーティーな口当たりにバニラのようなほのかな甘さが口を支配します。10年も寝かせているだけあってアルコールの角は柔らかく、ふくよかでまろい味わいを楽しめます。
ウイスキー評論家のジム・マレー氏の評価によって、アードベッグ蒸留所は「世界で最も偉大な蒸留所」とされるだけあって、リリースされるこれらは素晴らしいウイスキーです。
おすすめの飲み方は、ストレート、ハイボールです。水割りも悪くないですが、ロックはおすすめしません。
ストレートにするとその際立つ甘さを直に楽しめ、ハイボールはその癖が希釈され飲みやすく、さっぱりと楽しめる味わいになります。夏とかに最高の1杯です。
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21歳の誕生日に竹鶴21年を飲む、そんな贅沢がありますか?笑
ちなみに、味は複雑怪奇すぎて分からなかったです🥲
続いて、「アードベッグ5年 ウィービースティー」です。
ウィービースティーとは「手の付けられないモンスター」の意味があります。寝かせる期間も5年と短くアルコールのトゲも目立つ、本当に荒々しい味がします。
匂いは強烈な松脂や胡椒を燻した匂い、と言うべき強烈な煙たさが襲ってきます。これこそアイラ!というべきスモーキーさです。
口に含むと、チョコレートの甘さの他に、私的にはパッションフルーツや煎ったナッツ、あとは磯の味がどかんと襲ってきます。すごいウイスキーです。
おすすめは水割りです。ストレートやロックもいいでしょう。水割りにすると、強烈な味の主張が整合性の取れたまとまりのある味に落ち着きます。非常にバランスの良い味になるので、ぜひ水割りで飲んでみてください。
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続いて上位モデルである「アードベッグ ウーダガール」です。ウーダガールとは、アードベッグ蒸留所が製造に使う水の採水地である、ウーダガール湖のことを指しています。
このウーダガールは、シェリー樽を用いた原酒を用いています。シェリー樽とは、シェリー酒というワインを作ったあとの樽のことです。この樽で作ったウイスキーは、非常にねっとりとした舌あたりで、余韻が長く続くようになるという特徴があります。
これで作ったアードベッグは、非常に豊かな味わいになります。洋ナシ、レーズンなどを蜂蜜でコーティングしたみたいな上品で素晴らしい味わいがします。
香りはクルミ、レーズンといった甘さの中に、潮の匂いや檜といった自然の香りが広がり、なんとも言えない多幸感に包まれます。
おすすめの飲み方は、ストレート一択。シェリー樽で作ったウイスキーは、基本的にストレート以外で飲むことをおすすめしません。というのも、シェリーカスク特有のねっとりとした舌あたりや、余韻が他の存在によってかき消されてしまうからです。ほかの飲み方を望む場合は、他のラインナップから選びましょう。
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最後は現行品最上位ボトル、「アードベッグ コリーヴレッカン」です。コリーヴレッカンとは、アイラ島とジュラ島の間に存在する海域で発生する渦潮のことだそうですね。
特筆すべきはそのアルコール度数。57.1度もあります。ここまで高いシングルモルトウイスキーは、アードベッグ系列には他に存在せず。全体で見てもそこまで多くはないでしょう。
非常に濃密なピート臭。しかしそんな炭の中にも甘ーいカシスや黒糖の香りも感じられます。
飲んでみるとその力強さに圧倒されます。1口含んだ瞬間、BBQ会場にテレポートしたかのような錯覚を覚えます。中に含む塩気がまるでベーコンのよう。胡椒のような刺激的な口当たりから、チョコレートのような甘味の余韻を残してフィニッシュ。起承転結が感じられる素晴らしいウイスキーでした。
おすすめは…ぶっちゃけどんな飲み方でも美味いでしょう!これだけ度数が高ければ、どんな飲み方をしてもその味わいが崩れることはありません。ロックとかでゆっくり味わうのもよし、ハイボールで気前よく行くのもありです!
うまい
アードベッグは、まさに週末を心待ちにしている社会人が如く、跳ね回るような味の躍動が素敵なウイスキーです。これで興味を引かれたらぜひ飲んでみてね。