幼児がお金を稼ぐことに挑戦した日。【前編】
※※こちらの記事は2020年8月からキタハラの過去のホームページに掲載していたものの転載です。これが子どものはたらく研究につながったのか。ゼロワンネタが懐かしすぎる…。
幼児がお金を稼ごうとした、その理由は…
「しょうがくせいになったら、おねえちゃんがおかねかせいで、かめんライダーのベルトかってあげるからな?」
という、弟にかけた彼女の言葉が全てのはじまりでした。
そう、悲しいことに我が家には仮面ライダーゼロワンのベルトを買ってやるようなお金の余裕はないのです。
父である僕も同番組にどっぷりハマっていますから、正直サウザンドライバーや、サウザンドジャッカーが喉から手が出るほど欲しい。
父だって本気で欲しがっている。でも買えない。
だって…これを買ったらスラッシュライザーやアタッシュアローやアークドライバーー、僕らの物欲に歯止めが効かなくなってしまうから…。
CMでサウンザンドジャッカーが画面に映るたびに、父は爪が手のひらにめり込むほど強く拳を握りしめ、歯を食いしばってこらえていたのです。
そんな父の姿を見て、残念ながら我が子たちは完璧に理解してしまっていました。
いくら買って欲しいとわめいたところで、決してその要求が通ることはないということを。
だからもう、弟はベルトを欲しいとは口にしなくなりました。
でも、、それでも弟の心は、強くベルトを求めることをやめられないでいたようです。
「シャキーン!」と叫びながら空想のベルトを想像し、下腹部に手を当てる。
お友達の家に遊びに行った時には、ライダーベルト常着している。
CMで流れるベルトを虚ろな顔で見ている。
そんな憧れと諦めの境にある彼のベルトへの思いを、一番近くで感じ取っていたのは娘でした。
「わたしがかせいで、ライダーベルトを買ってあげる」
なんという愛!
「すごいな」
と、僕は素直に思いました。
自分の娘だけど、自分が同じ立場でも絶対にこう思わなかっただろうと思います。
(だって、僕は今でも自分のためにサウンザンドライバーが欲しいと心のどこかで思ってしまうような男ですから…。)
幼児がお金を稼ぐことへの不安
自分で何か作って、それを売って、得たお金を自分の思うように使いたい。
そういう欲求は誰の心にもあって、それが自然なことで、たとえ幼児や小学生であっても
それができる社会や地域づくりができたらいいなと僕は思っています。
でも、子どもにお金を触れさせることへの「不安」も親である僕の中にありました。
「自分で稼いだお金じゃないでしょう?だったら文句言わないの!」
これは、親だったら大体一回は使ったことがあるんじゃないかなーというロジックです。
「お前飯作ってねーだろ、文句言わずに食え!」
と双璧を為す、有無を言わさないパーフェクトコンクルージョン。
が、しかし!
このロジックには裏があり「自分で稼いだお金」を子どもたちが手に入れた暁には、全くこの技は通用しなくなる。
むしろ「自分で稼いだお金」であれば、口出しできなくなってしまうことになるんですよね。
もし、その万が一結構稼ぐようになってしまったとしたら、
「毎日アイスベロベロ舐め回してしまうのでは…」
「毎日チョコづけになってしまうのでは…」
「彼女らの歯がボロボロになってしまうのではないか…」
と、しょーもないことにまで妄想してしまうわけですよ。
要は、子どもにお金を手にさせて、「望ましいお金の使い方」が果たしてできるのか?という不安があったんです。
だから、子どもに稼がせることには二の足を踏んでいました。
でも、冒頭の娘の言葉がその不安を打ち消してくれました。
自分のためだけでなく、誰かのためにもお金を稼ぎ、使おうとする回路があることがわかったからです。
そんなわけで、
「ちょっとサポートしようか!」
と、夫婦で娘の「おかねをかせぎたい!」という欲求の実現に向け力を貸してみることになりました。
幼児のお店屋さんの考え方は、「私の好きなものはみんな好き。」
どんな物を作って売って稼ぎたいの?とアイディア出しをしたところ、
「かわいいアクセサリーが売ってたら、みんな嬉しくて買うと思う!」
と申すわけですよ。
全人類が娘のようなプリンセス愛好家なわけはないのですが、
自分の「好き」という感覚を、微塵も疑うことなく万人の「好き」に広げてしまえるところが幼児の素晴らしいところですね。
記念すべき最初のお店は、「ビーズのアクセサリー屋さん」に即日決定いたしました。
娘の初めて出すお店。
娘の娘による娘のためのお店であるべきで、それでこそ学びがあるものと僕は信じていました。
そして、「娘のお店」であることを守ろうと、純な心で極力口出しを控えるようにしていました。
幼児と小学生ではお店のレベルが違った。
迎えた「こどもふろしきいち」当日。
商品は計8つのみ。ブレスレット2つに指輪が6つ。
右後ろに見えるセロハンテープが貼ってあるものは、商品を渡す時に使う手作り紙袋。
そして、お金を持っていない幼児向けに葉っぱなどと物々交換できる塗り絵達。
看板なし。値札なし。辛うじて値段付けはノートにしてきていたので、ノートを見ながら対応。
お店のレイアウト・装飾までは気も手も回りません。我が家の年中児独力の限界がコレでした。
はた目に見てちょっと寂しい。
それでも頑張っていたのです。会場に到着するなり父なしでせっせと準備をし、緊張しながらも売る気マンマンでした。
しかし…小学生達の店が出揃うと…
気勢を完全に削がれる幼児(と、その父)。
正直、小学生をなめてました。
小学生女子達のカワイイアクセサリーとレイアウト。
しっかりと値札がつけられ、看板やチラシがあり、きちんとお店としての体裁が整っていました。
全然レベルが違うよコレ。
さらに彼らもまた出店に慣れているわけでなく、余裕はなく緊張しているため、開店前に他の店を見て回るその眼光は鋭い。
ライバルの商品を値踏みするように回っていきます。
独特の緊張感が漂う中、娘のお店を何人も眺めては通り過ぎていく。
ほとんど誰も何も言わない。
正直、僕も娘も冷や汗がダラダラ流れてました。
だって、年中児ですよ!?親のサポート最小限でよくやってるって!
絶対みんな「うわー!これ作ったの?素敵ッッ!!」ってチヤホヤされると思ってた。
「よく自分なりに考えたねッッ!」ってほめてくれると思ってた。
ごめん、お父さんうっかりしてた。
ここも立派な戦場でした。
「やべーーーーー。値札はどうとか、お店のレイアウトがどうとか、商品の数がどうだとか、うるさくいっときゃよかったーーーーーーー!!マジでごめんよーーーーーーーーーーーーーーー!!」
と、心の中で娘に詫びることしかできず。
とはいえ、もはや戦場でオタオタ出しゃばって路線変更するのも、状況を悪化させるのみ。
娘がこの持ち札でどこまで踏ん張れるか、任せるしかないと覚悟を決めていました。
出店中の幼児を救ってくれたのは、やっぱりようちえんのお友達。
小学生とのクオリティー差に愕然とする娘。
そして、「なぜもうちょっと事前に手出ししておかなかった…」と後悔モードに入る父。
二人して青い顔して突っ立っている、そんな状況を救ってくれたのは…同じ園に所属するみんなでした。
そう、今回の「こどもふろしきいち」は園のすぐ横で行われていたため、園の子たちが遊びにくることになっていたのです。
本当に救われました。
「これ何ー?」
「これいくらなのー?」
「かわいいー!」
「これもらえるのー?」
次々に園児たちが話しかけてくれ、
「これはね、100円だよ!」
「これは持っていってもいいぬり絵だよ。」
「これは葉っぱと交換できるよ。」
と、わちゃわちゃ対応することで、娘の心のギアが二段階ぐらいあがったのが見てとれました。
実は今回の「こどもふろしきいち」は面白い決まりが出店者側に課されていて、それは「物々交換品を用意すること」でした。
お金を持っていない幼児や幼稚園児の来場者でも楽しめるように、会場付近であつめた木の実や葉っぱなどで集めたものを持って、お店の人と交渉して何かを手に入れられるというシステム。
画期的ですよ。
これが大きかった…!
きっとお金で買えるものしか売ってないのであれば、園のお友達たちはちょっと見てすぐ帰ってしまっただろうし、全体のお客さんの量やコミュニケーションの量も増えなかったと思います。
自分がイベント出店していた時にも感じたことだったんですが…
やっぱり心も体も冷えて縮こまっていってしまうんですよね、お客さんとのやりとりがないと。
たくさんの人が見に来てくれて、なおかつたくさんコミュニケーションが生まれることで、出店者もお客さんも楽しむことができて、さらにそれが会場全体の熱が上げていき、「元気な市」ができあがる。市ってそういうものなんだなーって、気付かされました。
この物々交換システムを使いこなす、いろんな強者がいましたよ。
お店のおねぇちゃんに欲しいことを伝え、
数十枚の葉っぱを集めてきて熱意を伝える
とかね。
もうすごい楽しい。
幼児が一人でお店をこなすのは容易じゃない。
そうこうしているうちにスタッフの方々やお友達のお母様が来店してくれるようになりました。
いつも知っている顔見知りの方々が訪れ、
「これかわいいね!おいくらですか〜?」
と、聞いてくださり、少しずつ売れていく。
慣れない手つきで手作り紙バックに指輪を入れ、商品の値段をノートのメモで調べ
「100えんです」
と伝え、100円硬貨を受け取り、商品を手渡す。
もう一つ一つの動作が必死すぎて、買った人に「ありがとうございました!」と言うことすら忘れてしまう娘。
「買ってくれた人にちゃんとごあいさつだよ」
と少し促しながら、お店は続く。
数回売るやりとりをしても、毎回が全力でいっぱいいっぱい。
「売れて嬉しい!」とか、
「喜んでくれた!」とか、
「お金をもらえた!」とか、
そんなことを考える余裕なんてあるはずもなくて。
ただひたすらに目の前のお客様に反応し、値段を確かめ、話し、お金を授受し、商品をなんとか手渡す。
年中児のキャパシティを超えた作業を必死でこなす。
でも、商品が減っていくたびに、彼女の肩から荷が降りていく。
そんな様子のふろしきいち当日前半でした。
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