②ケイツーシロップの必要性(長め)

新生児には、出生時・5日目にビタミンKシロップ(ケイツーシロップ)を内服させます。
それ以降は「1か月検診時に」という3回法が過去には主流でしたが、現在は「週に1回のペースで3ヶ月まで」という施設が多くなってきています。

みんな、そこまでは知ってても
「どうして必要なのか」
ってのを、ちゃんとした原理としては知らんのよね。
というわけで解説。
中学高校の内容を超えます。
『血液凝固系』 の話です。

まず。 ホメオパシーによる
『山口新生児ビタミンK欠乏性出血症死亡事故』
を紹介。
看護学校向けのスライドから引用します。
※読者には興味持ってる人がいるかもしれませんが、俺にとってホメオパシーは『科学の敵』『詐欺師集団』でしかないです。

※自作スライドより

では、ビタミンK欠乏によってどうして出血傾向になるか。
これには『止血』の知識が要ります。

血液凝固には3段階あり
①一次止血:血小板が集まる
②二次止血:フィブリン繊維により血餅を作る これで傷をふさぎ…
③線溶:①②による血の血栓を、用が済んだら撤去
というプロセスをふみます。
どれが欠けても止血に支障をきたしますが、今回は①と②が関与します。


意外かもしれませんが…血小板だけでは止血できません。
いわば 血小板は『事務の小さいシール』(カラーラベル)です。
もし紙にあいたデカい穴を塞ぎたいとして…シールをたくさん重ねて貼っても
『そんなん、ちょっと触ったらポロポロ剝がれるわ』
となるのは自明。そりゃそーです。小学生だってもっと工夫します。

『はたらく細胞』 ©清水茜/講談社

ということで生命は工夫しました。
『カラーラベルだけでダメなら、液体のりぶっかけてガッチガチにしたらよくね?!』
…おお、うん。合ってる。合ってるよ生命。
これでカラーラベルを紙もろともべったり糊付けしてガッチガチにします。

勿論これはカラーラベルがあってこそのカタマリなので、この液体のりだけでは当然ふさがりません。
ということで、止血するには
『カラーラベルと液体のりの合わせ技』
という方式が採用されているわけです。

血小板と
液体のりによるコラボ!

さて。 この液体のりは『フィブリン』と呼ばれています。
『フィブリノゲン』 にスイッチが入って
『フィブリン』 になり、そこではじめて粘性をもちます。

でもこれ、全身あちこちで勝手にスイッチ入ると血栓だらけでエラいことになります。脳梗塞や肺塞栓、心筋梗塞だらけになる。冗談じゃない。
(DIC…播種性血管内凝固症候群はそれに近い病態です。凝固系が暴走します)

ということで、必要な時、必要な場所、必要に応じてスイッチが入ります。
液体のりをネバネバさせるために、赤く囲った物質が関わっていますが…これにビタミンKが必要になります。
これ、ビタミンKがないと、全部ゴミです。

赤囲いにビタミンKが関与。

人間の毛細血管は常にあちこち破れては迅速に止血され…を繰り返しています。新生児の血管なんてよわよわです。
仮に脳で出血が起こり、でもビタミンKがなくて凝固因子が作動しないと…
液体のりが使えず『血小板だけで止血』の無理ゲーになります。
当然うまくいかず、後遺症が残ったり死亡したりします。

消化管で出血したら、血便や吐血が起きます。
『新生児メレナ』 と呼ばれます。
大量の赤黒い便、ブルーベリーのような色の便が出ます。
みるみるうちに貧血になります。ほぼ輸血コースですね。
画像参照:https://medick.biz/category/select/pid/93225

新生児メレナの便


では、どうしてビタミンK欠乏が起こるのか。

母乳は新生児にとって良い栄養です。
が、残念ながら、成分的には
「万能とは程遠い」
のが現実です。ビタミンKはかなり少ないです。
というか仮にある程度母乳にビタミンKがあったとして…
まだ母乳分泌もアクセルかかってないし、赤んぼ自身も上手に飲めません。

母乳にビタミンKを期待してはいけない

という事で、ビタミンKのシロップを ・生後すぐ ・生後5日目 に飲ませます。
冒頭に書いた通り、昔はこの後に1か月検診で飲ませて終わりでしたが…
『それだとまだ一部の児でビタミンK欠乏の出血起きるわ…』
となり…今では 『大事な赤ちゃんだし安全運転しようぜ』と、3ヶ月法をとる施設が多くなっています。
画像:産婦人科学会 https://www.jaog.or.jp/wp/wp-content/uploads/2021/03/5559054e3614ae4ff296b224fa7510d1.pdf

3回法→3ヶ月法へ

以上、ビタミンKについての解説でした。

つまり、何が言いたいかというと…
定期的に湧くケイツー否定論者は、単なる反出生主義で絶滅主義ってことです。相手しないのが吉。

ちなみに
『ビジネス自然派、反ワクチンをはじめとした界隈』
の人と接する機会があって、こんなやりとりをしました。
鮭釣りやボージョレ・ヌーボーのような解禁日や取り決めがホントにあるかどうか知りませんが、あのあたりの人は
『わかったうえで恐怖を煽って、それによる死亡や障害の責任は取らない』
のだというのを念頭において、大事な我が子を守りましょう。

どこまでホントかわかりませんが…

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