EUツアーを終えて episode7-KEEP CALM JACK-
今回のフランス・ブルターニュ地方のフェスティバルROUE WAROCHへの出演は、ギャランティーの他、顎足枕(あごあしまくら)も付けて貰う内容での契約となった。
※顎足枕=ツアーミュージシャンなどが日常的によく使う言葉。
顎=食事、足=移動、枕=宿泊、これら3つにかかる費用のこと。
ROUE WAROCHは、地元の音楽愛好家達による有志の集まりで執り行われているローカルフェスティバルとの事もあって、そもそも潤沢な予算がある訳ではない。
そんな中、僕たちを遠く離れた日本から呼んでくださるのだから、これ以上ありがたいことはない。
そんな事もあって、フランス行きのフライトチケットはあまりに悪条件なチケットでない限り(乗り換え15時間とか、出発時間早朝5時とか)、なるべく低コストのチケットを運営側に用意してもらう事で話がまとまった。
比較サイト、スカイスキャナーなどで国際便の価格帯をチェックしたことのある方なら大まかに想像がつくかと思うのだが、ヨーロッパ行きの格安航空券と言えば、おおむね中国経由のチケットがお決まりのそれとなる。
1月半ばの事だっただろうか。
我々も例に漏れず、中国経由のチケットがe-ticketとして手配された。
東京(NRT)✈︎上海(PVG)✈︎パリ(CDG)
波乱の始まり
1月と言えばWHOによるCovid-19に関する記事や発表が目立ち始めクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号に乗っていた80代の邦人男性の感染がニュースになっていた頃だ。
THE SYAMISENISTの関係者たちも本当にJACKとYUJIとKYOHEIはヨーロッパに行けるのか?と心配の声が上がってくる。
そしていよいよ、日本時間1月31日未明、WHOより新型コロナウイルスの中国を中心とした感染拡大の状況が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に当たるとする、と宣言が出された。
欠航
2月10日、出発の前日。
恐れていた自体が最悪のタイミングでやってきた。
スタジオにこもり、現地に持って行く機材の最終チェックをしていたところ、フェスの担当者から次のようなメッセージが届いた。
「航空会社から君たちのチケットがキャンセルされたと連絡が来た。
おかしいな、なんでだろう?とりあえず他のチケットを見てみたけどどれも予算オーバーの価格でとても買えない。どう思う?」
どう思う?じゃないよ(笑)
なんでだろう?ってそりゃ明らかに新型コロナウイルスの影響だよね。。
俺は再三、Covid-19によるフェスティバルへの影響を懸念して、彼に様子を伺うメッセージを送り続けていた。
しかし、運営側は「問題ない」の一点張りだった。
そう、この頃、"Covid-19は対岸の火事"といったような雰囲気がヨーロッパ全体を覆っていて、どちらかと言うとアジア人に対しての差別が一部で話題になっていた位の段階の時期であった。
何はともあれ、目の前に厳しい現実を突きつけられた形となってしまった。
それは明日フランスに向けて出発なのに、僕らの手元にはなんのチケットもないと言う現実だ。
とにかく我々には時間が無い。
彼とのなかなか噛み合わないやり取りを一瞬で打開したいと思い、僕はスタジオを飛び出して、急いで彼の元に電話をかけた。
しかし、何度かけても彼が電話に出ることはなかった。
ようやく返信が来たかと思えば、
「英語での会話が苦手だからメッセージにしてくれ」との返答。
「そんな事言ってる場合ちゃうがな!」
この緊急事態を一体何だと思っているのか、、、抑えきれない俺の感情はピークに達しようとしていた。
そんな時、グループメッセンジャーでの担当者と俺のやり取りを見かねてか、アメリカ人マネージャーのジャスティンから「Keep calm Jack」(平静を保とう、ジャック)とメッセージが来た。
いやいやジャスティン。
あなたマネージャーならこう言う時こそ助け舟だしてよ!(苦笑)
、、、って喉まで出かかったが、彼の言う通り一旦落ち着いて、今何ができるか考え直してみることにした。
そうだ、ここで慌てたってしょうがない。まずはフランスに無事に辿り着くことが先決で、ここで誰かと口論している暇は無いはずだ。
「KEEP CALM JACK」
episode8へと続く
#収束後のより良い世界を願って 寂空-JACK-