続続・オーストラリアにみる都市木造の可能性(2024、と一部2023)
本来は2024年2月17日の19時過ぎ成田発でメルボルンへフライトの予定でしたが、機材到着遅れで21:30発、22:30発と2回遅れの連絡。嫌な予感はしたのですが、3回目で明日17時発に延期とのダメ押しの連絡、、。成田空港は23時にはクローズだからもう一回遅れたらやばいと思っていましたが、、。
気を取り直して18日日曜日の17:00成田発で出発。19日月曜日メルボルン空港に朝5:25に着陸。シティバスで市内に出て7:30に予約しているレンタカーをピックアップ。メルボルンから車で2時間半ほどの集成材工場へ直行する羽目になりました、、。
1日目:メルボルン
メルボルン市内に到着。そのままレンタカー屋さんに向かいます。
機内でうまく寝れなかったので、途中で何度か休憩したり仮眠しながら4時間ほどかけて工場へ到着。
午後一はメルボルンから車で2時間半くらいのところにあるASH社(Australian Sustainable Hardwoods)に訪問。2023年の日本建築センターの豪州ツアーの際に、いくつかのプロジェクトの説明に共通して出てきた会社で、「ビクトリアン アッシュやオークなどのハードウッド(広葉樹)で集成材をつくっている」ということに興味を惹かれて、今回見学させていただいた。
もともとはビクトリアン・アッシュやオーク材で仕上げ材などをつくっていたが、近年(2019年頃から)MASSLAMと名付けて広葉樹による集成材を生産しているとのこと。あとでご紹介するシドニー郊外のマッコーリー大学のイノベーションセンターの外部の柱や、メルボルン近郊のジーロングのコミュニティセンター、そしてメルボルン市内のT3コリングウッドなどの広葉樹集成材を手がけています。
堅木である分、丈夫で部材断面が絞れることや、耐久性も高いこと、耐火性も高いのが特徴。さらにはジョイント部が頑丈に作りやすいので、ソフトウッドに比べると金物を小さくできたりネジやピンが減らせるとのこと。
写真は長さ5m、厚さ5cmほどに引いた広葉樹の板を自然乾燥しているところ。12ヶ月から15ヶ月ほどかけて乾燥させるとのこと。表面はすっかり真っ黒になっている。削るとすぐに綺麗な木肌が出てくる。
メルボルンの電柱は木製。
2日目:メルボルン
2日目はメルボルンのドックランド地区の図書館「Library at the dock」から。Clare社の設計で2014年に竣工。湾の既存木製杭の上に建設するため軽量化の意図もあって、3階建ての木造建築でできている。
フィンランドのStora Enso社のソフトウッド・スプルースの柱と梁で構成されているが、床はCLTを用いている。3階の半屋外の空間は柱梁がアイアンウッドでつくられている。海中からサルベージしたアイアンウッドを再生利用しているそうだ。
柱とダブルの梁は集成材。梁と梁の間は設備スペースとして隙間が開けられている。CLTスラブの下面は吸音のための有孔板で仕上げられている。
階段はCLTをたっぷりと使ったデザイン。
3階はメイカースペースに改修されていた。
3階の一部はルーバー屋根をもったテラスとなっている。雨がかりとなるため、ここは同じような構造形式をもちながらハードウッドを採用している。古材のリユース。
そして、ドックランド地区の都市木造といえば、初期のCLT高層集合住宅として日本でも多く紹介された、メルボルンに2014年に竣工したCLT集合住宅「Forte Living」。日本のCLT告示が2016年。その頃の資料で、CLTで10階建ての集合住宅がつくれる、という資料写真として目にした方も多いかもしれない。
オーストラリアを代表するデベロッパーであり、設計、施工も行うLendlease社の開発設計施工。オーストラリア初のCLT建築であり、当時最高の建築。CLT はオーストリアのKLH社製。
1階はRC造で、上階9層はエレベーターコアを含めてCLTパネルで床壁がつくられている。外装は金属パネルで覆われているが、軒天にCLTが見える。
サザンクロス駅を出たところにあるメルボルン・クオーター・タワーの足元の工事現場。いくつかの高層ビルをつなげる軌道上。鉄骨造のデッキの上に木材の姿が、、。
よく見ると軽量鉄骨の両側を木でサンドイッチしたような構造で、木構造という訳ではなさそう。
午後は「エアビーの部屋に入れない事件」が発生して途方に暮れましたが、3時間後くらいにアプリで連絡がついて、オーナーの娘さんが来てくれて対応してくれました。なぜかパスワードがうまく働かず、オンラインでお父さんが遠隔で再設定。やれやれでした。
部屋にも入れるようになったので(当たり前ですが、、)、夕ご飯はヤラ川沿いに出てみました。
特に観光客向けでもなさそうな日本レストランの店頭で。デラックス・ロブスター・ラーメンが5000円弱。生牡蠣と鉄板焼きセットで8000円くらい。日常のちょっとした贅沢がこのくらいなら、せっかく来たならもっと高くても美味しい和食食べたいよね。
3日目:メルボルン
到着3日目は「T3/36 Collingwood 」プロジェクトの見学から。一年前には上部の木造階の最初の建て方の様子を拝見した。T3はHains社の木造ビルのブランドでTimber、Transit、Technologyをあらわしているとのこと。
下層の6階はRC造。上層の9階は木造という混構造オフィス。延床面積29,296m2。本体着工から14ヶ月ほどで竣工。2023年の2月に木造部の建て方の開始の頃を見せていただいたが、そこから7ヶ月ほどで竣工というスピード。
開発はHaines、NTT都市開発、住友林業。施工は鹿島建設系のICON社。メルボルンでは現在最大規模の中大規模木造建築。
当初はヨーロッパからの輸入のスプルースでの設計だったが、コロナ禍のウッドショックの中、調達、納期、運賃などの問題が生じ、ASH社のオーストラリア産の広葉樹集成材を採用することとなった。柱梁の断面は3割程度絞れたそうだ。
耐震はコアのRCでとってるので、柱梁の接合部もスッキリ。羨ましい。
その後は教えていただいたメルボルン大学の施設 「Melbourne Connect」へ。円形の中庭を囲む一棟が不造でつくられている。レンドリースが手がけたもので、木造6階建。コアはRC。
内装の天井はフエルト。吸音のためか。
その後はメルボルン中心部、サザンクロス駅から電車で1時間ほど行ったところにあるジーロング市に。ここの駅近くの「Wurriki Nyal Civic Precinct」を訪問。
1階がRC造、2階のブレースは鉄骨造で、3階床以上の3層が木造、その上が確か鉄骨造という混構造。2023年の視察では見れなかったので。
ノーアポで突撃しましたが、見たかった木造階は執務用空間ということで見れず。
でもグラウンドフロアのロビーからでも3階床に伸びる柱や、梁の様子は見えて中満足。
メルボルン訪問は7度目くらいだと思うけど、ジーロング市には初めて降り立ちました。オーストラリアのビクトリア州の最大の都市はメルボルンで人口523万人ほどで一都市で州の人口の8割を占める。最近シドニーを抜いてオーストラリア最大の都市になったそうです。
そんな中、ジーロング市はビクトリア州で2番目の都市だけど人口20万人。落差が激しい、、。この辺に住んで、用事がある時はメルボルン中心部に通うというような暮らしも良いかも。
メルボルンはコロナ禍で始まったリモートワークが定着してしまい、オフィス市場は厳しいそうだ。その分オフィスの魅力を上げて社員にどうやって会社まで来てもらうか、それぞれの企業はいろいろな工夫をしているらしい
3日目水曜日の夜は木下斉さんの投稿にあったクイーン・ビクトリア・マーケットのナイトマーケットに来てみました。
普段はものが陳列されているところが片付けられて、臨時のお店やステージが設られている。
この規模のナイトマーケットを毎週水曜夜にやっているというのは驚異的。
今回のメルボルン滞在は、スワンストン通り沿いのエアビーで見つけたユニット。
周囲に上部に「scape」というサインがついた高層ビルがたくさんあるな、と思って調べたら、学生向けの高層アパートだった。週350ドルくらいから、月だと14万円くらいか。ラウンジやジムもついているらしい。
10数階建てから30階建を超えそうなものも。これが一階から全て学生のための空間。ネットで調べるとメルボルンだけでも12棟あるそうだ。
メルボルン大学とRMITの間の立地だけあって、今回滞在しているエリアに集中している。
ここまでの規模の学生向けのビジネスは日本では見かけないな。
2023年のメルボルン訪問から
ここで2024年は訪問できなかったプロジェクトを紹介。
メルボルン「55 Southbank」プロジェクトとして知られる「Adina Apartment Hotel Melbourne Southbank」。
2017年に家族旅行でオーストラリアに来た際に、建築学科の同級生の梅原さんからプロジェクトの概要とパースを見せてもらい「既存RC造オフィスの上に、CLT造でホテルを増築!!??」と仰天して、2019年、2020年と2回現場を訪れました。
2023年に来た際に初めて宿泊できました。
写真は2019年にみた施工中の様子。都心の立地のため、荷捌きスペースはなし。道路の一部を封鎖したところでCLTだけでなく全ての資材を取り扱う。
CLTパネルはオーストリアのスプルースのKLH製が9割、1割ほどは最近生産が始まったオーストラリアのラジアタパインのものを採用。オーストラリア産のラジアタパインはニュージーランド産のラジアタパインより強度があるが、ヨーロッパのスプルースには劣るそうだ。輸入コストを加えたKLHのCLTと、新しく生産が始まったところのオーストラリア国産CLTは現在はコスト的には同じとのこと。本来はもっと安く、生産や輸送にかかる時間は短縮できるはずだとのこと。
4日目:メルボルンからシドニーへ
4日目は朝からクイーンビクトリアマーケットへ。精肉店や鮮魚店、八百屋さんなどを冷やかし、加工食品のコーナーへ。コーヒーを飲みながら原稿のチェックバック。このあとメルボルンからシドニーへ移動します。
メルボルンからは飛行機で1時間半ほどでシドニーに到着。
今回のお宿は今回はおしゃれな住宅地パディントンの2階建ての一棟貸し。12月の段階で予約できた手頃なところ、、。でも高い、、。
チェックイン早々に日本と繋いでビデオブレスト会議。
そしてシドニーに来たら何はともあれ「Sydney Opera House」へ。
何度来ても感動できる建築。今回は中に入る時間がなかったので2023年の写真を。
5日目:シドニー
5日目はパディントンのテラスハウスから歩いて2分の「Paddington Reservoir Gardens」からスタート。
丘陵の頂上にあたるところに建設された地下貯水場を公園にコンバージョンしたもの。一部は地面の床を開いて、サンクンガーデンに。
床は浅いアーチ状のスラブで、アーチのレンガ構造のほか、ハードウッドの細い柱で支えられている。
「The Mint」へ。築200年ほどの、シドニーに現存する最古の公共施設。ここは素通りはできない。
造幣局の部分は1853年に建設され使用されている。クリスタルパレス(1851年)の部材に転用、あるいは同じ鋳型を利用したと言われる錬鉄の構造の見える部分が熱い。
写真は2023年にランチをいただいた「Sydney Tower Eye」からドメイン、その先の「ニュー・サウス・ウェールズ・アート・ギャラリー」、SANAAの新館、その向こうのウールームールーの「Ovoloホテル」などを見晴らす。
「サウスウェールズ アート ギャラリー」。入場無料が嬉しい。
そして、SANNAの新館。それほど大きくないが、小ぶりの展示ボリュームが斜面地にばら撒かれ、その間を上下しながら体験する建築。SANAAといえば、モノトーンのイメージがあったが、シドニーのライムストーン質をつかった版築だそうだ。色味のあるインテリアが印象的。
この豊かな空間が無料で入れて毎日でも使えるというのは、シドニーの人々が羨ましい。
サウスウェールズ アートギャラリーの丘を下ったところにある、Woolloomoolooの旧Wホテル、現「Ovoloホテル」。1911-15年に建設された、全長350mほどの当時世界最大の埠頭の建屋を改修したホテルと高級集合住宅。
初めて訪問したのは2006年。初めてオーストラリア、そしてシドニーに来た年。最初は大型のリノベーションの事例として、そして大型木造の事例として毎回訪問している。
今はCOXシドニーに勤務するSean Lacyさんとランチ。Walsh Bayの埠頭上の大型木造建屋のリノベーションは素晴らしい事例だが、このレストランは「WHARF 3/4」シドニー ダンスカンパニーの入っている建物の中にある。
シドニー湾を見晴らす素晴らしい立地。ショーンさんありがとう!
Walsh Bayの倉庫リノベーション。20世紀初頭、ペストを経験したシドニーが都市機能を整備する中でつくられた建屋倉庫。木杭の上に建てられた大きな木構造群。プレキャストコンクリートを使った護岸(ネズミを寄せ付けない)や、初期の荷役の機械化などが取り入れられている。「Walsh Bay WHARF 2/3」、「Walsh Bay WHARF 4/5」は音楽、ダンスなどのスタジオなどになっているアートゾーン。木杭で水上に建っているのがわかると思います。
「Walsh Bay WHARF 6/7」。7層の集合住宅として改修されている。
「Walsh Bay WHARF 8/9」。オフィスなどとして改修されているゾーン。赤い部材は現在の構造補強。
「Macquarie University Incubation center」。2017年竣工の平屋のインキュベーションオフィス。大学のためのプロジェクトで、敷地が決まっていないなどの状態からプロジェクトがスタートし、一年後には竣工しなければいけないという条件。ボリュームをふたつに分割して繋いである構成は敷地の高低差や形状に適応しやすいもの。
基礎は鉄骨、柱梁は集成材、屋根にCLT。オーストリアのBinder Holt社のもの。外周のV字型の柱はASH社製のヴィクトリアン・アッシュの集成材。木造であるのは短工期で制作施工可能なこと、移築再組立可能なことに適応している。
テンポラリーな施設と聞いていたが、7年目に入るそうだ。
そして、今回のシドニーのハイライト。マッコーリー大学法学部の建物「Michael Kirby Building」。地上4階建。既存RC造建物の2階床までを残して減築。その後1階の足りない部分やコアはRCで増築した上で、2階柱から上を木造で増築したというプロジェクト。
一年前の2月に来た時は、ちょうど既存のRC躯体を2階床まで残し、その上に木造躯体の建て方を始めたところだったが、一年後に来てみたら、すっかり落ち着いた感じで使われていた。
450mm角ほどのスプルースの柱と、450X550ほどの梁、 240mm厚ほどのCLTで構成されている。吹き抜けを渡る梁のせいは1500mmほどか。
外観は木質感ゼロ、かつ凡庸なのはなぜ?
マッコーリー大学医学部の臨床医学棟「Macquarie University Ainsworth Building」。Architectusの設計で2020年に竣工。
4階建の木造で柱梁はオーストリアBinder Holt社のスプルス集成材。床やコアの壁はCLT。アイコニックなエントランスのW型の柱はASH社製のビクトリアン・アッシュ広葉樹の集成材。
15mスパンの門型の集成材フレームが12.8mピッチで並ぶ構成。既存建物の隙間の変形敷地に建っているのでくの字に曲がりながら続く。
最上階の内装がまだ仕上げ前で、内部がよく見えた。ラッキー。
2020年に見学した際の写真を見返す。ピロティ部の大梁が明らかに合板で包まれたように仕上げられていたので不思議に感じたが、2020年の写真を見返してみると大梁が鉄骨で出来ていることがわかる。柱脚もスチール。
地震力を考えなくて良い木造と、耐震がキモの日本との違いを考えてしまいます。
いま長ビスを使った耐震構造金物に取り組んでいますが、それは2023年のツアーの際に考えていたことがきっかけになっています。木と金属の役割分担について。考えを巡らす。
6日目:シドニー
6日目、土曜日の朝ということでパディントン マーケットに来てみました。
シドニーで最も歴史のある1973年に始まったマルシェイベントだそうです。
生鮮食品や食べ物もありますが、アーティストやデザイナーが手作りした品々を売っているのが魅力。
今日は曇り模様のシドニー。シドニー セントラル ステーションに隣接する「Atlassian Central Structure」の工事現場。Builtと大林組のJVによる施工で、ここに39階建のハイブリッド木造オフィスが建設中。
現在はまだ地下躯体の工事中のようでした。
セントラル ステーションから、UTS(シドニー工科大学)本部棟「UTS Tower」とジャン ヌーヴェルの「One Central Park」。
本来日差しが差し込まなくなる二つのタワーの間のアトリウムに、上に張り出した鏡で光を届けるという、冗談のようなデザインが実現。パトリック・ブランの緑化デザイン。
UTSとは大連理工大学の客員教授として共同のワークショップを運営したこともあり土地勘があるのでうろうろしてみる。UTSの建築学科の建物に行ってみるが、土曜日ということでIDがないと中には入れない。残念。
中庭にデジタルデザインとファブの成果品が展示されている。
UTSのイノベーションスタジオU LABがあったところに行ってみると、「AFRL」(Advanced Fabrication Research Laboratory)という場所に変わっていた。
KUKAのロボットアームの工作機械やニットマシンなどもあるらしい。
芝浦もさっさとShopBotの大きなのを導入して、その先に行って欲しい。
「UTS business school」。フランクO ゲイリー設計。外壁は32万個の特注レンガ。
グラウンドレベルには謎のマッシブホルツ講義室が。
バランガルーの「International House Sydney」と「Daramu House」へ。Lend lease社が開発設計施工を行なった双子の中大規模木造オフィス。地上7階建て、下層2層はRC造、その上5層が木造のオフィス。一棟はアクセンチュア、もう一棟はWeWorkが一棟借りしている。今回はノーアポで来たので、外から拝む。
2023年の写真ではエントランスにはCLTにシドニー・バランガルーの港湾の地形などを掘り込んだレリーフが。
柱梁は集成材で、床がCLT。オーストリアのEtra Enso社のものを使用しているとのこと。
画面手前から奥へ伸びる9mスパンの大梁はダクトを含む設備貫通ゾーン。梁成は900程度で幅は600ほど。梁底でわかるように、集成材+LVL+集成材+LVL+集成材の5層サンドイッチになっていて、ダクトを含む大型の設備貫通穴をあけても構造上問題ないように工夫されている。 シュトゥットガルト大学で実験を行ったそうです。
それに直行する床スラブは3mx12m、120mm厚のCLTパネルの両端に500x400ほどの梁を工場で取り付けた大型パネルを載せている。都合、見上げると梁幅が800くらいあるように見える。これがコンクリートだと鬱陶しく見えるかもしれないが、木だと気にならないところが不思議。このプレファブ化でInternational House Sydneyに比べて床の施工スピードは2倍になったとのこと。
階高は3700に抑えられているが、天井を貼らず、梁下で2700の高さをキープしている。
写真は2023年のもの。日本では耐火構造の関係で耐火被覆をしたりでややこしいが、準耐火構造の適応できる範囲を徐々に拡げていって、こういう建築をどんどん作れるようにしたい。
湾岸の再開発エリアの一部ではあるが、水面には面しておらず、向かい側は崖やほかのビルで日当たりも悪い悪条件。普通にやると良いテナントもつきにくく、家賃も低く設定する必要がある。
そこに木造ビルという付加価値をつけ、アクセンチュアのような環境意識の高い良質なテナントをつけた。そこが肝とのこと。
いわゆる「デザイナーズマンション」が必ずしも立地の良くない敷地にデザインという付加価値を持ち込むことで新しいカテゴリーを作っていったように、必ずしもコンディションの良くない条件の中で木造化という付加価値をビルに与える。
International House SudneyやDaramu Houseのあるバランガルー エリアを歩く。左からWilkinson Eyre Architects設計のカジノの「Crown Hotel」、2棟のレンゾピアノ設計の高層住宅「。そしてその右後ろに低め(と言っても20階くらいはありますが)の高層住宅はエッセンシャルワーカーのための住宅だそう。そして右側はRichard Rogers and Ivan Harbour設計の、「International Tower Sydney」。
日本の住宅開発ではいまだに資本の論理一辺倒だが、低所得者向けとか、エッセンシャルワーカー向けとかの付置義務をつける規制をするという動きはないのだろうか。
まもなくマルディグラパレードのあるシドニーのオックスフォード通りあたりは、レインボーカラーに溢れている。
カメラを向けるのは遠慮したが、それらしいファッションの方々がワイワイと。
2023年のシドニー訪問から
今年2024年は見学できなかったけれど、2023年は見学できたところを紹介。
「Gunyama Park Aquatic and Recreation Centre」。2021年竣工。Andrew Burges Architectsの設計。ARUPのエンジニアリング。工業地帯であったエリアを住宅開発していくにあたって整備された公共施設のひとつ。
25mプール、50mプールを含めて大小5つのプールからなる。シー・プールにインスピレーションを受けた自由なプールの輪郭が親しみやすい。
プールの長手は鉄骨造で50mのスパンを飛ばし、その間を31mスパンの木造梁で繋いでいる。梁は両面を集成材、上部をCLTで組み合わせたU字型の構造。下面は吸音用の有孔版で塞がれているが、中に空気を吹き込むことで、吸音版の両側の隙間から空調空気を吹き出している。
木製ボックス梁の間はETFE幕の屋根となっていて、透明感のある屋根となっている。
「Carriageworks Arts Center」。1888年に竣工した客車工場を、2006年にアートセンターにコンバージョン。鋳鉄の柱、短梁、鋳鉄の柱、錬鉄のトラス梁。それまでも何回か見学していたけど、こういうところにはちゃんと目がいっていなかった。
7日目:シドニー
7日目、日曜日の朝。パディントンのテラスハウスをチェックアウト。
セントラルステーションに荷物をあずけて、サーキュラキーへ。中央がAMP超高層ビルを「アップサイクル」し、構造体やコアの設備を活かしながら、外周に新たな構造体を付与したりカーテンウォールを刷新したりしてできた「Quay Quarter Tower」。カスタム・ハウスの後ろに勇姿を見せていました。手前にもう一組、AMP系の超高層に足場がかかっています。どんなリノベーションがされるのだろうか。
ツアーを終えて
2023年のツアーは2月18日夜出発、本日26日朝帰着で「豪州マッシブホルツを訪ねる視察ツアー」日本建築センターの主催、深尾精一先生が団長、山代は副団長兼コーディネーター、16の企業から参加いただいて総勢25名のツアーでした。
2024年は本来2月17日夜出発のはずが、飛行機の遅延で2023年と全く同じ2月18日夜出発、本日26日朝帰着となりました。
オーストラリアには2006年に初めて行き、都市再生の興味で通うようになりました。そのうち、自分が設計実務の分野で取り組んでいる中大規模木造の分野でもオーストラリアが熱心に取り組んでいることに気づき、意識的に見て歩くようになりました。
前回今回と訪問した場所の多くはすでに一度は見たことがある建築でしたが、専門家である同行者に説明するとなると、意識も覚醒されて、改めて多くの気づきがありました。
オーストラリアの都市建設の歴史に意識的になったのもそのひとつです。1788年から欧米人による入植が始まり、1830年代には監獄などの基礎的な施設が整備され、1850年代のゴールドラッシュを迎えて人口が急拡大して港湾施設、大学、図書館などが整備されて、1900年のペスト流行をきっかけに港湾が近代化機械化、1920年代は戦争に向けて造船業が拡大、戦後は1960年代からのコンテナリゼーション、1970年代になると開発とそのアンチとの葛藤、2000年のオリンピックとその後のコンテナ港の移動に伴って生まれた港湾地区の再開発、、など。
地下資源が豊富で基本的な輸出産業のベースがあること、その分製造業は壊滅的で輸入に頼っていること、移民国家であること、教育や観光が重要な産業として位置付けられていることなど、日本との差異も大きいのですが、日本の明治維新の少し前にゴールドラッシュがあり、そこから国がその体裁を整えていったタイミングなど、国家が成長し建設されていくプロセスにはパラレルなものも感じました。
素晴らしい旅行でした。