都市木造は なぜ作れるようになったのか
『都市木造の世界 ~ビルディングランドスケープのみる中大規模木造建築の最先端~』Vo.2
ビルディングランドスケープでは、自分たちで中大規模木造建築を設計する傍ら、様々な団体や法人から依頼を受け、中大規模木造建築についてのビデオを企画、撮影、編集してきました。
中大規模木造建築を実現するには、まずは木造建築に利用可能な木質建材を理解することと、構造上の工夫(特に地震にどう備えるか)、そして多数の人々が利用する建築に重要な防耐火性の持たせ方を理解することが大切です。
これまで制作してきた中から、5つのビデオを選び、基礎知識について、ご紹介したいと思います。
中大規模木造建築に使える木質材料
現在も戸建住宅の多くは木造で建設されています。それに用いられるのは製材(一般流通材と呼ばれるものも。丸太から適当なサイズに切り出された木材)、小断面集成材(製材に近い小断面の集成材)、合板、あるいはツーバオフォー工法(枠組み壁工法)で用いられる小断面の枠材や合板でつくられるパネルなどです。
3階建を超えるような建築やスパンの大きな建築などを建築する際には、これら在来木造用の「一般流通材」やツーバイフォー工法を組み合わせて作る方法のほかに、大断面の集成材やLVL(単板積層材)、あるいは中大規模木造建築で象徴的に用いられるCLT(直交集成板)など、小規模な木造建築ではあまり用いられない新しい木質材料が用いられます。
一般的には柱や梁といった「線材」(細長い材料)として利用されてきた木材ですが、薄い合板だけでなくCLTやB種LVLあるいは超厚物合板といった厚く建築の主要構造部材として利用できる「面材」が手に入るのは現代のまったく新しい状況です。
言い換えれば、こういった新しいエンジニアリングウッドが利用しやすくなったことで、中大規模木造建築の建設が可能になったと言えるでしょう。
大きくて厚い木質材料「CLT」とは何か、どんなことが可能になるのか
CLT(Cross Laminated Timber、直交集成板)は1990年代にスイスやオーストリアで開発された新しい木質材料です。CLTが開発されたことでコンクリートの壁式構造で作られてきたような建築が木造に置き換え可能ではないかということで、環境意識の高まりやESG投資の流れなどもあり、中大規模木造建築を建設する機運が高まりました。
CLTは幅3mや3.5m、長さ12m、厚さ300mm程の板が製造可能なため、横長に使えば建物の1階分の壁や開口がCLTの板とその開口で建築可能であるというのが大きなメリットです。
日本ではCLTほとんどの場合に道路輸送の都合で2m幅から2.4m幅で利用されるため、その良さが十分発揮できないという制約があります。
しかし、そのような制約の中でも、様々な建築への利用が試みられています。
ビデオの中にはCLTの製造のプロセスも含まれていますので、ご覧ください。
もうひとつの木質材料「LVL」とはどんな材料か
CLTは中大規模木造建築を語る際に象徴的に取り上げられる材料ですが、LVL(Lminated Veneer Lumber、単板積層材)もそれと対になる重要な材料です。CLTが丸太から3cmほどの挽き板を直行させながら積層させるのに対して、LVLは3mmほどの薄さに桂剥きした単板を「同じ方向に」積層したものがLVLです(直交させながら貼り合わせると合板)。
柱や梁のような線材として使用するのが一般的ですが、単板を一部直行させることで面材としての安定性を増したB種LVLという材料もあり、幅は1.2mほど、
長さは6mほどとCLTに比べれば大きくありませんが、強度のある壁柱や梁などを効率的に構成できます。
CLTとLVL、そして大断面集成材をうまく組み合わせる構法を確立することが求められています。
火災に強い中大規模木造建築を実現するには
関東大震災や東京大空襲、あるいは伊勢湾台風などに代表される大規模な災害を経験してきた日本は、戦後中大規模の建築において「木造禁止」の政策をとってきました。大規模災害後に多地点で同時に発生する地震火災を想定した日本の防耐火基準は、世界でももっとも厳しい基準と言えるでしょう。
「耐火構造」は、地震火災の際のように消火活動が行えないような場合でも、建築が倒壊することで火災をさらに拡げたり、道路を塞いでしまったりすることがないよう、消火活動がなくとも自立し続けられるような厳しい基準が定められています。
なお、他国の基準は日本で言う「準耐火構造」のように消火活動が行われることを前提にしており、避難行動などが終わった後は倒壊することもありえるという基準です。内装制限に当たる規制はありますが、構造の耐火設計については燃え代を持たせた上でスプリンクラーで消火するという対応でクリアできるという規制が多いように思います。
日本では昨今、防耐火の基準が頻繁に改正されており、追いつくのが難しいくらいです。これはこれまで大まかに設定されていた基準の中から、条件を設定した上で耐火性能を「合理化」することで、準耐火構造のような木を自然に表すことが可能で、環境負荷も下げることを狙ったものです。
まずは、ビデオで紹介されている、防耐火設計の基礎を理解しましょう。
これまでビルディングランドスケープが制作してきた中大規模木造建築に関するビデオはYouTubeの再生リスト「都市木造の世界 ~ビルディングランドスケープのみる中大規模木造建築の最先端~」にまとめてあります。
ぜひご覧ください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?