サッカーボール飛び出し事件判決(最高裁平成27年4月9日判決)を分かりやすく説明すると・・・
(2015年4月10日)
判決原文:
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/032/085032_hanrei.pdf
事案の概要:
2004年2月、当時85歳の被害者がオートバイを運転して小学校の校庭横の道路を進行していたところ,その校庭から転がり出てきたサッカーボールを避けようとして転倒して負傷し,その後死亡した。遺族の妻子が、サッカーボールを蹴った当時11歳の子供とその両親に対して総額5000万円の損害賠償を請求した事件。地裁は約1500万円認容(2011年)。高裁は約1200万円認容(2012年)。最高裁は請求棄却(2015年)。
1.基本ルール
まず、大前提となる民法のルールを要約でご紹介します。(要約なので例外的ケースを除外し言葉も平素化しています。)
① 親は、未成年者を監督する義務を負う。
② 自分のしたことの責任をきちんと認識できない程度の未成年者が他人に損害を加えた場合、その未成年者は責任を負わないが、その未成年者を監督する義務を負う者、つまり親が代わりに責任を負う。
③ ②の場合も、親が未成年者を監督する義務を怠っていなかった、又は義務を果たしても損害が発生したという場合は、親は責任を負わない。
まとめると、親は、監督義務を怠っていなかった等といえる場合を除いて、幼い子供が他人に加えた損害の責任を負うことになります。
サッカーボールを蹴り出した当時の子供は11歳11ヶ月でした。言葉の印象はともかく、法律上は、11歳11ヶ月というのは一般的に自分のしたことの責任をまだきちんと認識できない程度の未成年者と考えられています。なので、上記②に従って、両親は原則として子供の代わりに責任を負うことになりますが、③の例外的な場合には、責任を負わないということになります。
2.今回の判決
今回の最高裁判決は、この③のうち、「義務を怠っていなかった」といえる場合はどのような場合かについての判断でした。要約すると、以下のように解釈しました。
- (直接的な監視下にない)未成年者が通常人身に危険が及ぶとはみられない行為によってたまたま他人に損害を生じさせた場合は、その行為が具体的に予想できた等の特別の事情が認められない限り、親が監督義務を怠ったとはいえない。 -
そして、上記解釈に基づいて事実関係を以下のように当てはめました。
(1) 今回の具体的事実関係の下でのフリーキック練習は、「通常人身に危険が及ぶとはみられない行為」である。
(2) 今回のフリーキック練習について、両親が具体的に予想できた等の特別な事情は見当たらない。
(3) したがって、今回の事実関係の下では、親が監督義務を怠ったとはいえない。
上記当てはめの結果、両親は基本ルールの③に基づいて例外的に責任を負わないと判断したのが今回の最高裁判決です。
3.コメント
以上の通り、今回の判決はあくまで事例判断です。ですので、具体的な事実関係次第では、校庭から飛び出したボールによって生じた損害の責任を負うことは十分あり得ます。それでも、今回の判決が校庭や公園での遊戯の扱いに対して与え得る影響を考えると、今回の最高裁判決の社会的意義は決して小さくないと感じます。
法律家の視点からは、当てはめの(1)「通常人身に危険が及ぶとはみられない行為」と判断するために考慮された具体的な事実関係が一番重要です。判決の中では、例えば、放課後に児童に開放されていた校庭で起きた事件であること、校庭に設置されたサッカーゴールに向けたフリーキック練習が原因だったこと、ゴールネットやネットフェンスがあったこと、学校の敷地と道路の間には幅1.8mの側溝があったこと等、様々な具体的事実が認定されています。今回の判決の印象だって、以下のリンク先にある現場写真を見たら人によっては大きく変わるかもしれません。2015年4月現在、報道や世論は子供側に味方している印象ですが、判決が割れるくらいだから、実際には判断の難しい微妙な事実関係だったのだと思います。
http://www.yomiuri.co.jp/national/20150405-OYT1T50041.html