秘して漏らさず、ということがある。
いつになく寒い日には
思い出すことはいつも青い日のこと
赤い日もあるが黄色い日もあるしかし思い出すのは青い日のこと
半蔵門線を しばらく行くと やがて半蔵門駅に着いた。
5番出口から 表に出るとそこは 十字路で 直進すると 大妻女子大学へ至る道であった 。
右手に 交番を見て すぐ左へ曲がると そこは 文人通りであった。
昔 与謝野晶子と鉄幹夫婦が住んでいた通りだ。泉鏡花が暮らしてもいた。有島武郎の旧家跡もある。今は其処までまだ遠い。右手に鬱蒼とした高木の群れが高い石塀の上に突き出ているのは、ヴァチカン市国ローマ法王庁大使館が辺りを睥睨しているのであった。静かに。黒い色をして。
「また明日ね」
と言ったまま口ごもり、うつむいたまま押し黙り、私もまた言葉がでない。
紅を染めることもない薄い栗色をした小さい、ほんとうに小さい唇を噛みしめていた。
別れると交わしあったすぐそのあとに、
「また明日ね」と言って口ごもる。