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「きらめく青春のかけらたち」2


⇧の続きです。

文化祭1日目。

自作映画の会場は広い生物室だった。映写機にフィルムをセットして、自前のラジカセを音楽室かどこかから借りたアンプとスピーカーに繋げて、
これでバッチリのはずだったが、そうはいかなかった。声がくぐもって聞き取りづらいし、音が割れる。

映像と音声も、映写機とラジカセを同時に再生し始めればピッタリと合うように必死に編集した(つもりだった)けれども、そこが甘かった。考えてみればわかるもんだけど、ピッチが合わない。完成した時は3人とも舞い上がっていて、微妙にズレていくことに気づかなかった。

それでも一生懸命作った作品には手前味噌なひいき目があり「まあ何とかなる」と上映を開始した。


Uさんが放課後の教室でひとり静かにフォークギターで「スモーク・オン・ザ・ウォ―ター」を練習してるシーンから始まる。

それまで文化祭で自作映画と言えば、顔なじみの先生や先輩が映っているだけでもう大ウケで大好評だったから、今年もそんな楽しい作品を期待してか?下級生もたくさん見に来ていた。

上映中、お客さん達の微妙な反応をよそに、3人でハラハラしながらひたすら映像と音声のズレにのみ神経を注いでいた。
それでもズレる。当然のようにズレまくる。これはまずい。

私は咄嗟に、映写機のピッチを調節するツマミを微妙に動かして、聴こえて来る音声に合わせて調整するという暴挙に出た。

「げっ、手動!!?」

Kさんがひきつった声で小さく叫んだ。毎回綱渡りみたいな上映だった。

そのうえにスピーカーの音がビリビリ言う。

見に来ていた生物の先生(団塊の世代30代)から
「これ、スピーカーに毛布とか巻いて固定させると違うよ。」
と、ビリビリについての助言がある。


文化祭2日目。

早朝、Kさんが、家にたくさんあるからと毛布4、5枚を風呂敷でかついで学校にやって来た。バスと電車通学で。ありがたい。

スピーカーに毛布を巻いて紐でしばり急場をしのぐ2日目の上映。

だましだまし使っていた映写機が、ついには怒り出して、上映中に何の前ぶれもなく突然フィルムが止まり、カタカタとレンズに張り付いてふにゃぁとふやけるという、もっと怖い事態になった。

そうなるたびに映写機をストップして、Mさんがふやけた部分のフィルムひとコマを素早くカットしてつめて繋いで、また上映再開する。

2日間で合計9回上映したけれど、途中で止まらなかった回は一体何回あったかも意識にないくらい、最後の方はもうメタメタだった。

とにかく全て終わってお客さんが捌けたあと、グゥの音も出ない3人であったが、
たまたま最後に見に来てた政経の先生(団塊の世代30代)が、私達に声をかけて下すった。

「映像と音はちょっと残念だったけど、音楽はよかったよ。」

沈んでた私達は一瞬パァーッと明るくなった。地獄に仏(学校はミッション系だけど)のようなお言葉を残し、「じゃ…」と言って先生は去って行った。

クレジット上の音楽担当は適当に私の名前になっていたので、実際はKさん渾身の選曲だったことを先生に説明しなくちゃと思ったけど、なんかもうみんな疲れていてどうでもよかった。もう終わったから。音楽を褒めてもらったのがせめてもの救いだった。


後夜祭の前に体育館に全校生徒が集まり、実行委員会からの各部門賞と大賞(どちらも生徒による投票)の発表があった。

私達はくたびれ果てて1番後ろの壁にもたれて適当に聞いていたら、研究発表部門賞の発表で、いきなり呼ばれた。
「高3D、自作映画。」

は?
えっ?
えぇーっ?!
Kさんと私は「ウソだ〜!!(語尾は上にあがる)」と顔を見合わせ、少し離れた所でMさんが大きな瞳で頷いてる。

なんか周りが(早く行けと)ざわつき出したので、私があわててステージまで走った。何がなんやらで信じられないけど、走ってるうちに貰う気満々になってきた。

でも、2年生の実行委員長から賞状を受け取り、戻って来てからもまだ3人とも実感が湧かない。私は、
「ああ、なんで3人で貰いに行かなかったんだろう…」と後悔した。この日、1番の後悔だった。
自作映画にしては異例の空き方だったし、途中で何人もお客さんが出て行ったし、上映は散々だったし、あの作品の入賞はどう考えても謎の謎なんだけど、、
みんな頑張ったあの必死の制作過程を思うと、3人で堂々と(笑)貰えば良かった、なんて。

ちなみにこの年の大賞は、Uさん達のバンドが教室を超満員にした「LIVE STUDIO」だった。


帰りがけ、自分ところの写真部が忙しくて映画を見に来れなかった物理の先生(これまた団塊の世代30代)から、
「おい、今度ちゃんと見せてくれよな!」
と声をかけられたけど、
「えー、でもフィルムがもう悲惨なことになってるので、多分もう見れません! ねぇ?ハハ…」
と顔を見合わせ苦笑いした3人も、それ以来1度も見ていない。


数十年たって、Mさんにふと「あのフィルムまだある?」と聞いたことがあったけど、
「うん、あるけど多分、、保存状態が…」と。
「そうだよねぇ。」

やっぱりあれはもう幻の大作…(笑)ということにしとこう。


自作映画
「きらめく青春のかけらたち」

Kさんが作ったポスターには、私が強引につけたこのベタなタイトルの下に、彼女の好きな永島慎二さんの漫画にあった詩が書いてあった。

真に幸福であること
それは私たちがいかに
終わるかではなく
いかに始めるかの問題であり
また私たちが何を所有する
ではなくて何を欲するかの
問題である

ロバート・ルイス・スティーブンス「若い人々のために」

永島慎二「漫画家残酷物語」より

それから、映画に使った曲は、
「CARRY ME」クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングと、
「あなたがここにいてほしい」ピンクフロイド。

私はずっと忘れてたんだけど、数年前Kさんに「あの時の曲、何だっけ?」と聞いてみたら、覚えていた。おお。

幻じゃないものがあったから、幻を思い出せた。