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61歳の食卓(2)痛む日の夕食
奥歯を抜いた。
暮れの繁忙期に奥歯がシクシク傷んで歯科に行った。ひと通り診察した医師が「残念ながら…」と暗いトーンで話し始めた瞬間、「抜くんだわ…」と、敗北感で胸が蓋がれた。
抜歯は初めてではないが、回を重ねる度に慣れるどころか恐怖が増すのはなぜだろう。人間だからこそ入れ歯で欠損を補うことも可能だが、他の動物にとって歯の衰えは死に直結する。こんなにも気持ちがダウンするのは、老いを自覚するからだろう。師走のさなかに抜歯して万が一体調を崩したら、生業の鮭売りに支障をきたすので、年始に延ばした。今回は、抜歯前後の苦しい食生活の話である。
仕事柄、朝は午前3時起床で、お粥か雑煮、または牛乳で先にふやかしてから卵を纏わせたピカタ風フレンチトーストを少量お腹に入れる。
営業中の食事は、テイクアウトのおにぎりやファストフードのカレーで、暖かければ、なんとか飲み込む。こればかりは皆と一緒なので仕方がない。
そんな食生活なので、消化不良の夕はすでに食欲も湧かないが、タンパク質補給を目的に食事を作る。フードカッターに肉・香味野菜・調味料等を混入してスイッチオン。その間に、土鍋に張った出汁を沸騰させ、手で丸めた肉団子をそっと投入していく。歯痛から開放されるまでは、毎日がこのスタイルだ。
肉は鶏肉が多いが、豚肉、牛肉、魚なら甘塩鮭、海老、帆立など。鶏肉はフードカッターに皮が絡むのが難点だが、煮てしまえば問題ない。長時間回すと水っぽくなると、近所のシュウマイ屋さんに忠告され、以来、ざっくり混ざる程度に留めている。フードカッターの良い面は、肉が塊だろうが薄切りだろうが、一瞬にしてひき肉にできるところだ。
加える野菜は、まず生姜、ネギ類、キノコ類、大葉など香味野菜も合う。調味料はごま油 or オリーブオイル、胡椒、七味、塩、醤油、砂糖など。
重要なのはつなぎで、生卵、パン粉、豆腐、山芋、片栗粉など、様々試してみたが、すりおろしレンコンをつなぎにすると、香りが良い。レンコンは皮を剥いて手ですりおろしてから混ぜる。肉の倍量ほどのレンコンをたっぷり加え、片栗粉も加えれば緩やかにまとまる。沸いた出汁にスプーンで掬ってポトポトと落としていくと、崩れそうになりながらも数分で火が通り、そっと椀に盛り付け、熱いうちに箸で崩しながらいただく。焼き餅を加えれば、なお温まり、寝付きが良くなる。
昔は食感を楽しめる漬物やナッツ類が好きだった。レンコンもシャキシャキした歯ごたえがたまらなかったが、今はすりおろしの旨さを知り、60代もまた悪くないと独りごちている。