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61歳の食卓(5)寒い朝、鮭おにぎりを焼く

最近、七輪で暖をとっている。

長年使い続けた店舗を改装するため、市場の奥まった場所に仮店舗を設けたところ、一日中陽が当たらず体が芯から冷えて、凍りつきそうになった。まるで冬の山小屋で遭難しかけているみたいで、見かねて近所の魚政の政が、七輪を貸してくれたのだ。

60歳を越えて、生まれてはじめて七輪を使うことになった。炭は普通の木炭と備長炭の2種類売っていて、備長炭は硬くて重く高価だ。普通の木炭は軽く安価ではあるが、すぐに燃え尽きそうに思えた。七輪に3〜4片を空気の通りが良いように縦に組んで、その真中に着火剤を置き、点火する。すぐにメラメラと炎が上がり、黒煙が立ち上る。急ぎ、ウチワで扇いで煙を屋外に流す。市場の店はシャッターを開ければ内通路に向いた開放型であり、突き当りは窓なので、空気は自然に流れる。

amazonで買った着火剤は白いラードのような固形燃料で、10分も経てば燃え尽き、煙も収まるが、その頃には木炭に火が移り始めている。すかさず扇いで空気孔から酸素を送り、木炭に十分火が回るまでさらに10分くらいそよそよと風を送り続ける。

七輪の上部に煙突状の通気筒を置けば、上昇気流で燃えやすくなるとか、消えそうになったら割り箸を折ってくべて火を熾すことができるとか、いやいや紙や木は煙が出るから絶対に燃やしてはならぬとか、皆、いろいろな助言をしてくれる。それでも結局、そよそよとウチワで風を送り続けて、2週間たったら、随分、火熾しも上手になってきた。

炭に火が回って上に置いた薬缶が熱くなる頃に、一人分のコーヒーをたてて、ソロキャンプさながらボソボソと独りごちている。

昼は、家で握ってきた鮭おにぎりを焼く。これは、青森のはるえさんのマネだ。新幹線の青森駅に近い小路に小さな店があり、はるえさんという妙齢の女性が七輪でおにぎりを焼いている。私が訪ねた日は店が休みで食べることは叶わず、またの機会にと思っている。友人がねぶた祭の頃に行き、食べたおにぎりの写真を送ってくれた。鮭を混ぜた丸いおにぎりの表面に黒ゴマがまぶしてあり、炭火で炙るにつれ、パチパチと跳ねるのだろうか。きっと香りが良いだろうと想像しながら、自分で焼いたおにぎりに醤油を垂らし、これもまた良い香りだと思う。醤油の雫が火に垂れてジュッと弾けるのを見ている。

今年の2月は、そんな日々を過ごしている。

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