![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/142516314/rectangle_large_type_2_3eafaa4f14ab604409edde29c2f1887f.jpeg?width=1200)
【三猫物語】<その23> ちょっと切ない、保護猫の依頼
ある日、保護猫会「ねこのしあわせ」ホームページに、こんな問い合せが入った。病気で入院が決まったので、同居する2頭の猫を引き取ってもらえないか?というものだった。
黒田さんに相談すると、「責任を持って飼うのが原則だから、そういう場合は自分で探すべきだ」という返事。まあ、この手のものに、いちいち対応しているとキリがないというのも、わからなくはない。
とはいえ、困っている様子なので、話だけでもきいてみることに。二人暮らしのご夫婦で、夫は難病による障がいがあり、だいぶ以前から自立的な生活ができず、妻が働きつつ介護してきたらしい。ところが、妻に癌が見つかり、しかも回復の見通しがない状態という。夫は施設に入所、妻が入院し、帰る可能性がないので住居は引き払う。問題は、いっしょに暮らす2頭の猫。そういう事情だった。
自分たちのことはともかくも、猫たちは幸せに暮らせるところへ引き取ってもらいたい。入院期日まで時間がないので、自力で探すのは難しいと。なんだか、切ない事情だった。
「わかりました。じゃあ、里親さんを探しますから、いったんこちらで引き取りましょう」ということになった。
1頭は、身体の大きい、キジ白の雄。もう1頭は、身体の小さい、キジトラの雌。車で引き取りに行くと、トイレや、フードや、猫砂や、食器など、いろいろと渡された。
猫たちは、ずいぶん大切にされていたのだろう。食器・トイレ・キャリーリュックなど、どれも猫壱などのブランド品が揃えられていた。(うちは百均の食器だけれど・・・)
しばらくは預かることになるので、まずは名付けから。キジ白は、大きくてどっしりしているから「やま」ちゃん 、一方のキジトラは、やわらかい感じなので「はる」ちゃんである。車での移動経験はあまりなかったのか、緊張のあまり「やま」ちゃんは失禁してしまった。
![](https://assets.st-note.com/img/1717166930482-Hxp4ZN1bWF.jpg?width=1200)
うちの三猫とは分離しないといけないので、彼らのために二階の部屋を用意した。「やま」ちゃんは、トイレの中や、わずかな物陰や、すぐに隠れてしまう。「そうか、不安なんだな」家具のない部屋だったので、段ボールを組み合わせたシェルターをつくった。すると「やま」ちゃんは、さっそく段ボールに潜り込んだ。
隠れているのはよいけれど、なかなかご飯を食べようとしないし、排泄もしている形跡がない。大きな身体で、脂肪の蓄積もありそうだから、しばらくは大丈夫かなとは思うが、食べないのが続くと、さすがに心配になる。
「やま」ちゃんが、はじめてチュールを舐めたのは、1週間を過ぎていた。よし!大丈夫・・・と思ったけれども、なかなかどうして、一筋縄ではいかない。それからも普通にご飯を食べるまでには、かなりの時間がかかった。
飼い主さんの言によると、「やま」ちゃんは人慣れしているが、「はる」ちゃんのほうが難しいだろうということだった。けれども、あにはからんや、「はる」ちゃんは、2~3日で自分から近づいてきて、こちらが手をだすとトンと飛び上がって頭突きするようになった。
![](https://assets.st-note.com/img/1717166994575-5dMfRT58SA.jpg?width=1200)
そうなったら、あとはわりとカンタンで、頭突きしに来たところを撫でると、いやがりもせずにまとわりついてくる。すこしすると、自分から、かまってほしいというサインを出すようになったし、ご飯もよく食べる。
それに比べると、「やま」ちゃんは、ご飯を食べるようになってからも、頑なな態度は大きくは変わらない。段ボールのなかに入り込んだまま、上目遣いにこちらの様子を見るが、気を許すような気配ではない。
「はる」ちゃんはフレンドリーだけれど、「やま」ちゃんは難しいと、そう飼い主さんに伝えると、ずいぶんと意外がられた。むこうのおうちでは、まったく逆だったらしい。猫も個体ごとに性格があるだろうが、それが人間や環境と触れ合うばあい、その人間や環境よって、その性格の発現形態を変えることがありうるのかもしれない。
そんなことが2カ月くらいは続いただろうか。「はる」ちゃんが、いよいよフレンドリーになってきたので、「やま」ちゃんもそれにつられたのだろう、頑なな姿勢が、すこし柔軟になってきた。
事件が起こったのは、そんな時期だった。
夕食後、階下で寛いでいると、二階で、「ガッシャーン」という大きな物音がした。慌てて見に行くと、掃き出し窓の部分が、ぽっかりと開いていた。
「はる」ちゃんと「やま」ちゃんがいない。
「ヤバイ!逃げられた」住み慣れた家ではないから、どこかへ行ってしまうと戻れないかもしれない。
暑くなる季節だったので、部屋の掃き出し窓を網戸にして、風が入るようにしていたのだ。たぶん、どちらかが、網戸に飛びついたにちがいない。大きな音は、網戸が外れて倒れる音だった。
慌ててベランダへ出た。室外機のむこうから、のっそりと「やま」ちゃんが現れた。「おお!いた!」
とりあえず、「やま」ちゃんを確保。部屋の中へ入れて戸を閉める。
しかし、「はる」ちゃんは、見当たらない。どこへ行った?狭いベランダに隠れ場所はない。
しばらくして、階下のほうから相方の声。「いたぁ!いたぁよぉ~」
「やま」ちゃんは、図体が大きく、やや愚鈍だが、「はる」ちゃんは、身軽なので下へ飛び降りたらしい。
相方が確保した「はる」ちゃんを、部屋へ入れて、一件落着。猫を甘く見てはいけない。知っているつもりだったが、やっぱりやられた。
逃げたくて外へ出るわけではないから、そう遠くへは行かない。だいたいは自分で戻って来るよ。・・・それもそうだろうが、やっぱり脱走はさせないほうがいい。