1000回募集しても水着ホシノさんがこない先生の1日
……シャーレ執務室。僕はいま600回目の募集を行ったところだ。
その目的はズバリ、☆☆☆『ホシノ(水着)』をシャーレに呼ぶため。
本来なら、200回も募集すればダイレクトな呼び出しが可能になる。けど水着ホシノさんについては、諸々のやんごとなき事情でそういうわけにはいかない。それでも僕にはどうしても彼女が必要だったので、やむなく募集を繰り返しているわけだが……。
「……頼む。頼みますよアロナさん。くれぐれも、"水着ホシノさんが来てくれる感じの募集内容" で、みんなにメールを送ってくださいね」
《アロナ》「はい!任せてください!あ、先生!☆3のお返事です!」
「よしっ!!」
―――☆☆☆『ワカモ』CV. 斎藤千和
「またワカモさんか!!ちがああう!!」
《アロナ》「すいません……」
「いや、ごめん、アロナさんは悪くない……悪くないんです」
(……くっそ、でもこれがアロナさんの限界だ。生徒を指名で呼んでいいのは特定の条件下だけだし、むしろ今日のアロナさんはいつもの2倍頑張ってくれている。さっきなんて昇格からの☆3三枚抜きとかいう神技をやってのけた。悪いのはアロナさんじゃない。悪いのは、ひたすら運のない僕の方だ)
「むしろ頑張ってくれてありがとうアロナさん、もう一度お願いします」
《アロナ》「でも先生、今日は色んな方がシャーレに来てくださってますね!」
「うん。そうだね」
シャーレに色んな子が来てくれるのは嬉しい。それはもちろんそう。けど、違うんだよ、水着ホシノさんは今日呼ばなきゃダメなんだ。あと1時間以内に呼ばなきゃダメなんだ。
《アロナ》「……あ、先生!☆3のお返事です!」
「よし!!」
……むっ!これは水着の匂い……!!
「きた、きた!! ビーチの心象風景が!!僕の脳に直接!!」
―――☆☆☆『ヒフミ(水着)』CV. 本渡楓
「だああああああああ!!トリニティかよぉ!!」
《ヒフミ》「……ええ……す、すいません」
「ああゴメン!そういう意味じゃなくて!!嬉しいですヒフミさん!来てくれて!」
《ヒフミ》「あの、水着で来てくださいって書いてたので……水着で来てはみたんですが……その、これで合ってるんでしょうか……?」
「合ってます合ってます!ヒフミさんは何も悪くない!ありがとうございます!」
《ヒフミ》「……でも、なんだか私はお呼びじゃなかった感じですよね……? 先生、一体誰に来てほしかったんでしょう。っていうか、募集内容に水着で来るようにって……アッ! ハナコちゃんを探してるんですか?」
「ほんとだ。案外、ハナコさんの水着って実装されてないですねそういえば!!」
《ヒフミ》「実装……?」
「すいません、なんでもないです。いや、ありがとうございます。用事はこれで終わりですので、あとはシャーレの居住区とかで遊んでいってください」
《ヒフミ》「よくわかりませんが……はい」
……ふう。まぎらわしい。ビーチの背景が出たら水着ホシノさん来たと思うじゃん。しかしヒフミさんの水着姿も実によいものだ。とても可愛い。
《アロナ》「あ、先生!☆3のお返事です!」
「よし!!」
なに!? ……これは!このピンク髪はまさしく!!
―――☆☆☆『ミカ』CV. 東山奈央
《ミカ》「やっほー先生!ミカだよ☆」
「だああああああ!!またミカさん!!」
《ミカ》「その反応はひどくない?先生、あんなに私に会いたがってたのに……」
それはそう!!
「いや、ごめんごめん。いやなんていうか、ミカさんもう完凸してるから、ちょっとだけね、ちょっとだけ、またかって思っちゃって」
《ミカ》「先生、私と会うの嫌……?」
「そんなことはない断じて!ものすごく会いたい!いつもそう思ってる!」
《ミカ》「よかったぁー☆ じゃあ、なんか忙しそうだしまた来るね!」
(出来れば今日はもう来ないでほしい!)
本当、言われてみればそのとおりだよ。ほぼ発狂するかってくらい待望してた、実装が発表された時は一日中呆然としてしまったくらいのあのミカさんに対してまさか『来るな』なんて感情が湧いてくるとは、夢にも思わなかった。でもミカさんってばもはやCOMING SOONの新解放要素が来ても平気なくらい文字あるんだよな。我がシャーレで間違いなく最強だよ。もうミカさんでいっぱいだようちは。
《アロナ》「あ、先生!☆3のお返事です!」
「よしよし!!」
!? ピンク髪……いや、騙されないぞ。ピンク髪なんてキヴォトスにはいくらでもいるんだ。……いや、これは!?ピンク髪に……青と黄色のオッドアイ!? これはまさしく!!!!
―――☆☆☆『ホシノ』CV. 花守ゆみり (※標準ホシノ)
《ホシノ》「先生ー、きたよ」
「あああああ! ホシノさんだけどちがあああう!!」
《ホシノ》「え、なに?」
「なんで制服着てるんですか!?水着でって募集に書いてあったでしょう!?」
《ホシノ》「いや、それは読んだけど。だって先生、いま1月31日だよ?コンビニいくのも寒くて嫌なのに、水着でシャーレに来るとか頭おかしいと思わない?そんなのに応える子いないと思うよ?」
「そう言われればたしかにそう!!」
いやでも、さっきヒフミさんは水着で来たけどな。そう考えるとなんて健気で素直な子なんだ。っていうかあの格好でトリニティからシャーレまで来たのかな。だとするとそれは素直とかじゃなくて若干ヤバい子なのでは。いや、水着で来いって言ったのは僕なんだけど。ヤバいのは僕の頭か。
《ホシノ》「そんなわけだし、じゃあ私はそのへんでゴロゴロしてるね」
「いや、すいませんホシノさん、どうしてもちょっと、頼みたいんですが、水着に着替えてきてもらってかまいませんでしょうか」
《ホシノ》「な、なんで……?」
「なんでと言われましても」
《ホシノ》「先生、だいぶおかしなこと言ってない……?」
「それはそうなんですが、つべこべ言わずにホント頼みます。もう僕は限界なんです。時間もお金も精神も限界なんです。よろしく頼みます本当に」
《ホシノ》「よくわからないけど、どうやらこれはただごとではないらしいねぇ。じゃあまた来るよ」
「よろしくお願いします。何卒。何卒」
はぁ、ホシノさんは来たけどまさかの制服姿とは。とんでもねぇお人だよ。こんなに好きなのに初めてイラついてしまった。しかしホシノさんは何も悪くない。悪いのはゴミみてぇに運の悪い僕の方だ。
《リン》「……先生、いまお時間大丈夫ですか?非常事態が起こっているのでその報告と、少し確認なのですが」
「えっ……。なんです??」
ここで急にリンさん……?なんの用だ?悪いけどそれどころじゃないんだが。
《リン》「現在、ワカモが凄まじい勢いでサンクトゥムタワー周辺で暴走、位置の特定が難しいほどの速さで移動中とのことです」
「なにがあった!?」
《リン》「なにがあった? じゃありませんよ。むしろそれはこちらが聞きたいことです。ワカモを目撃した人によると、ワカモは「先生どうして!」と泣き叫びながら暴れているとのことです。先生、なにか心当たりは?」
「……いや、何もありませんが……。ひとまず、了解です」
ワカモさんが暴走??なんで??よくわからんが、こっちは正直それどころじゃない。こういう時は……あの子達に頼むしかない!!
「……もしもし!ミヤコさんですか!?」
《ミヤコ》『こちらRABBIT 1、ミヤコです。どうなさいましたか先生?』
「なんかよくわからんけどワカモさんが暴れてるらしくて、でもいまちょっと手が離せないからこれ、SRTに対応してもらえないかなって」
《ミヤコ》『…………』
「ミヤコさん?」
《ミヤコ》『ご心配なく。いままさにワカモと交戦中です』
有能過ぎる!!!!!!
「さすがです!よろしくお願いします!」
《ミヤコ》『ワカモの対応については引き受けました。でも先生、今回の原因は先生にあること、ちゃんとわかっていますか?』
「えっ」
《ミヤコ》『ワカモの発言は感情的でやや話のディテールが掴めませんが、言いたいことはようするに "私の何が悪かったのかわからない、理不尽だ" ということのようです』
「理不尽?」
《ミヤコ》『これについては私も怒っているんですよ先生。自分で生徒をシャーレに呼んでおいて、すぐに帰れと言ってほとんど何の相手もせずに仕事に戻るというのは、あまりにも失礼だと思いませんか?ワカモについては "またワカモか" と仰ったとのことですが、それで間違い無いですか?』
「……いや、それは。まぁ……はぁ。言ったかも」
《ミヤコ》『私の時だってそうです。初めてのシャーレでしたしそれなりに気合をいれて伺ったのに、まさか23秒で帰らされるとは思ってもみませんでした。全員に対してそうなら、そういうものなのかなと私も思います。しかしサキとモエに確認したところ、二人が初めてシャーレに行った時はそんなことはなかった、むしろプロフィールに関する具体的な確認などもあり、かなり丁寧にもてなされたと』
「…………」
《ミヤコ》『ご存知だとは思いますがSRTはチームで常に情報を共有しています。なので、先生が相手によってこういった差をつけていることもすぐにわかります。別に、私個人が先生に好かれていなくてもそれはかまいませんが』
「それは誤解です!たしかにものすごい手短な挨拶だったけど、僕はめちゃくちゃミヤコさん好きです!もうホントに!SRTの中で一番可愛いと思ってます!!」
《ミヤコ》『その言葉の真偽はどちらでもいいですし、そうやって露骨に贔屓をする発想が不愉快ですし作戦に支障をきたします。こういった点で不信感が募ると先生の指揮に疑問を感じることに繋がります。是正して頂きますようよろしくお願いします』
《サキ》『先生が悪い』
《モエ》『まったくだ。私のときはアメまで用意してたのに』
《ミユ》『……私だけ、まだシャーレに呼ばれてない……』
ぐっ……!!!!!!
《ミヤコ》『ワカモの対応がありますので、これで』
完全に怒っている声のミヤコさんは通信を切る。しくじった。これは確かに僕が悪い。いつもの募集なら、来てくれた生徒に対してむしろ長いくらいのプロフィール熟読や能力の確認をするのが普通だ。でも今日は時間的な制限もあったりするわけで、どうしてもそんな余裕がない。
この件については後日ちゃんとみんなに謝って回ろう。実際、初めてシャーレに来てくれた子は今日だけでかなりの人数になる。その対応が雑になったのは事実だ。
でもまぁ、ワカモさんの件はこれで解決だ。怒られたけど。
*~*~*~*~*~*~*
800募集を越え……青輝石が尽きた僕は、エンジェル24に赴きソラさんに追加の青輝石をお願いする。
《ソラ》「ひぃ!……先生……顔色がおかしいですよ……どんどんやつれて……この短い時間の間に何があったんですか……?」
「まぁその、色々、ありまして。青輝石ください」
《ソラ》「はぁ……でも、平気なんですか……?」
「大丈夫です。僕は大人ですから」
ソラさんのドン引きした顔を背に、僕は再びシャーレ執務室に戻る。
*~*~*~*~*~*~*
―――熾烈な募集を繰り返し、僕の募集回数は900回を越えた。
《アロナ》「あ、先生!☆3のお返事です!」
「よしよし!!」
―――☆☆☆『ミカ』CV. 東山奈央
《ミカ》「やっほー先生!ミカだよ☆」
「ああああああああ!!」
もうダメだ。もうとっくに限界点は越えてる。ハッキリ言ってすごい迷ってる。900回募集の時点での理論値的な排出率は90%を越えているとかいうけど、それって確率論的には本当に正しいのか?だってたとえばさ、100個に一つアタリがあるクジ引きをやったとして、それなら100回やれば当たるよ。でもさ、一回引いたらまた母数が100に戻るクジ引きボックスの場合、100回やっても当たらない感じしない?いやでもあれか、100個のクジの当選確率が全部イーブンなら、どれを引くかも運は均等、そう考えたらむしろ、クジを引くほど当選確率が上がるっていう方が確率論的には複雑な感じになるのか、ああもう!頭がこんがらがってきた!そんなことはどうでもいいんだよもはや、あとは理系の頭いい人でやってくれ!!とにかく、うちのシャーレに!!水着ホシノさんがいねぇんだ!!僕にわかるのはそれだけだ!!
―――その時、僕の背後に気配が。
《黒服》「クックック……わかりますよ先生。私も、キヴォトス最高の神秘といわれるホシノには執心したものです」
「黒服……!!」
《黒服》「しかし先生。私はほんの少し前にも忠告したはずです。『そのカードを使い続ければ、先生は我々と同じ運命を辿る』と」
「……その理屈でいうと、黒服……お前ももしかして」
《黒服》「……」
……ハッ!あれ? 黒服がいなくなってる。いまのは幻か。どうやら僕は990回目の募集を経て、幻覚まで見えるようになってしまったらしい。
……ああ。そうだな黒服。あのとき、お前の言葉を聞いていれば。
でもさ、黒服。僕なんだか、これでよかったんじゃないかなって思ってるところもあるんだ。
だってさ、こんなに心臓とか呼吸がヤバい感じになることって、すごい久しぶりなんだよ。なんかこう、血の巡りがヤバい感じするんだ。僕は大人になって、それなりに色んなこと経験してきてはいるけど、ここ数年、こんなにヤバい感じになったことなんてなかったんだ。人生ってわりとさ、慣れてくるじゃない。上手にやる方法とかもなんかわかってくるじゃない。そして、気づいたら毎日、特に新しい刺激もなく、一週間が飛ぶように過ぎるじゃない。
そう考えると、なんか久しぶりに思い出したんだ。この感じ。危険に飛び込む熱狂っていうかさ。うん。だからこれでよかったんだ。
…………なんて、そんなわけねぇだろ!!!!!
《アロナ》「先生……大丈夫ですか?」
「これで……1000回目の募集ですね」
《アロナ》「そうですね……」
「アロナさん。これで決着にしましょう。これが最後の募集です」
《アロナ》「はい……!お望みの生徒さんが来てくれるといいですね!」
…………。
《アロナ》「あ、先生!☆3のお返事です!」
「よし!!!!!よしよし!!よし!!!!」
誰だ……誰がきてくれた!?
これは……ピンク色の髪に……おいおい、オッドアイ!!
―――☆☆☆『ホシノ』CV. 花守ゆみり (※標準ホシノ)
《ホシノ》「先生ー、きたよ」
「なんでだあああああああああ!!!!!」
《ホシノ》「水着で来ようとは思ったんだけど、やっぱり外寒いしそれは無理だなって」
……そして僕の1000回に渡る水着ホシノさんとの戦いは幕を下ろした。
対戦ありがとうございました。
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