第2話「予兆」
※第一話はこちら
https://note.com/sya_jong/n/ne46bcd2c2418
「ツモ!高目の裏1でバツ(倍満2枚)!!」
「おいおい、これでもう3連勝かよ。お前とはもうやってられねえぜ!」
俺の名はS也。趣味は映画やアニメ、ダーツ、読書。
しかしそれは表向きで、どっぷり浸かっているのはそう、麻雀だ。
ここのところ調子もすこぶる良くて、やっと俺の腕に運が追いついてきている。セットメンツのレートもだんだんと上がってきていて、しばらくATMに行った記憶がない。
「あーあ、結局今日も風は吹かねえか。S也、場代は全部お前が払えよ!」
セット場である錦糸町から自宅まではおよそ1時間。今となっては、勝利の興奮と余韻に浸る悦の時間となっていた。
「へえー、近藤プロがオーラス大逆転の倍ツモかぁ」
youtubeや動画コンテンツでも、麻雀ジャンルが増え始めていた。
中でも、各プロ団体の大御所が集う「Mリーグ」は、麻雀の認知普及に一役買っている。この日、ツイッターでは有名プロがオーラス4着から1着に上り詰めた和了によって、Mリーグの盛り上がりを見せていた。
「なーにがプロだ、麻雀なんてしょせん流れと運よ!こいつらと同卓でもすれば、この俺の豪運の前にひれ伏すに決まっているぜ!」
電話が鳴る。
「お、田中じゃねえか。久しぶりだな!お前、知らない間にプロになったんだって?」
田中はセイガクのときに通っていた多摩の雀荘の元メンだ。なんでも最近、麻プロになってより麻雀に没頭しているのだという。
「S也お前、大学の時に一回セットした池戸って知ってる?あいつもプロになって最近セットに誘われたんだが、メンツが一人足りなくて。」
俺の口元はすでに緩んでいた。どいつもこいつもプロ、プロ。こんな石ころ並べにプロもアマもあるかよ。
教えてやるか、麻雀を操る本物はプロでもアマでもなく、この俺様だってことをな。
「プロと同卓させてもらえるなんて、麻雀打ちとしてこんな喜ばしいことはないよな。それで、いつよ?」
「錦糸町で週末、土曜から朝方までを予定しているんだが、どうだ?」
二つ返事でOKした。錦糸町は俺の地元。この手でプロを闇に葬れるさまを、ホームで見せつけてやるとしよう。
このとき俺は、これまでの人生が単なる上振れの絶頂だとは知る由もなかった。
may be continue..
次回、「S也死す」。