【SXLP5期レポート#3 チームDD】選手が自分の夢を貫けるサードパーティを創る 〜強豪高校サッカー部の役割・仕組みの考察より〜
現在、Sports X Initiative(以下、SXI)では、Sports X Leaders Program(以下、SXLP)6期の参加者を募集しています(4/21(金)23:59(JST) 締切)。
★募集要項はこちら!
過去のSXLP参加者たちがどのような問いを立て、システムデザイン思考を用いて議論やワークをし、最終的なアウトプットをしたのか、ぜひご覧ください。
※本原稿はSXLP5期終了時に執筆していただいた内容です。
我々のグループでは、強豪高校サッカー部の役割・仕組みについて考察し、スポーツ育成環境が抱える課題への提言を行いました。本noteでは、中野がグループを代表して概要をご紹介させていただきます。
部活動における違和感
プロサッカー選手を目指していた私が、部活動を通じて感じた違和感。それは、「選手個人よりもチームを優先する」という常識です。高校サッカーは、数多くの熱意ある指導者のもと、数多くの優れた選手を輩出してきた育成システムである反面、選手ファーストとは言い難い構造を孕んでいるように感じていました。
例えば、
● 200人、300人を超える過剰な部員数
● 強力なルール・規律・決まりごと
● 選手の切り捨て
● ツテがないチームには行かせない・行けない進路事情 etc…
トレンドは「主体性」
とは言え、私の現役時代から比べると、スポーツ指導の考え方は大きく変わってきているのも事実です。中でも「選手の主体性」「プレイヤーズファースト」「ボトムアップ」など、選手を中心に据えた育成理論は、昨今のスポーツ指導におけるキーワードとして多くの場面で取り上げられています。
しかしながら、これだけ理論が発展してきても、バーンアウト・ドロップアウト・体罰のような、選手一人一人の意思や存在を軽視するような事件は無くなっていないのも事実です。
私たちはこの現状を踏まえ、これだけ良い(とされる)情報や考え方が普及しても問題が解決できないということは、「個人よりチームを優先せざるを得ない構造的な要因があるのではないか?」と、考察を進めていきました。
強豪部活指導者の役割
というのも、
● 主力である三年生は毎年必ず卒業していく
● 未成熟な若手選手が加入してくる
● 成果を出すための正解/方程式がない
という環境の中で、指導者は常に成果を求められているからです。
例えるならば、
● 毎年必ずエース級社員が退職する
● 新たに入社するのは未経験の新卒社員
● マニュアルなし
という組織を率いて、常に高い営業成績を求められるようなものです。
ビジネスの事例に置き換えると、凄まじく難易度が高いことを容易に想像できると思いますが、これらの条件下で成果を出すために指導者は日々試行錯誤を繰り返しているのです。
指導者が取り組むこと
上述した役割を担う指導者が、成果を出し自らの評価を高めるために取り組むべき施策は、主に「成果の確率を上げる」「失敗の確率を下げる」という二つです。
1.成果の確率を上げる具体施策例
● 加入選手数を増やし、高いレベルの選手が生まれる可能性を上げる
● 短期的に効果を実感できる施策を優先する
● チーム目標を最重視させるよう選手をマネジメントする
● より良い選手の獲得に注力する(指導品質の向上などより成功の期待値が高い)
2.失敗の確率を下げる
● 未熟でも最低限のパフォーマンスを発揮できるように約束事・規律を重視する
● 経験豊富な指導者の考えを優先
● 不確実性・想定外を避けるため、できる限り選手を管理下に置きたい
● 望ましい言動ができる選手を厚遇する
● 育てた選手が引き抜かれるのは論外
指導者が熱心であればあるほど、これらのような施策が推進されていきます。要するに、強豪部活動システムにおいて、指導者が担わざるを得ない役割こそが、「選手個人の夢・目標が最優先事項になりにくい」ことの最大要因だということ。指導者一人一人の課題ではなく、強豪部活動システムの構造が抱える課題なのです。
合わない選手の選択肢を創る
ここまで少し批判的な論調で考察を進めてきましたが、強豪部活動が悪いということを言いたいわけではありません。むしろ、多くの優秀な選手を輩出してきたという点においては、疑いようもなく成功を収めてきたシステムだと言えます。
だからこそ、強豪部活動の価値を高めていくために今後目を向けるべきなのは、「強豪部活動に合わない選手」に対して「新たな選択肢を提供すること。言い換えるならば、ここまで論じてきた高校サッカーや、一部の選手しか選択できないJユース以外の「サードパーティ(第三の選択肢)」をどのように創出していくか、ということです。
既存の選択肢とは
もちろん、現時点でもチームの枠を越えて個人が目標を追える仕組みがあります。例えば、トライアウト・セレクション・選抜・エージェント経由の紹介・SNSを用いた売り込みなどが挙げられます。
ただし、既存の選択肢が第三の選択肢になるとは言い難い理由もあります。
● トライアウト・セレクション
○ チーム・経歴・実績重視
○ 選手の活動目的になりにくい
● 選抜
○ チームからの推薦が必要
● エージェント経由の紹介
○ 選手の力量を測る機会が必要
○ 所属チーム歴は重要指標
● SNSを用いた売り込み
○ 情報ソースの一つだが重要視されにくいため所属チームなどの追加情報が不可欠
つまるところ、既存の選択肢では「所属チーム」が選手の価値を測る上で有効なフィルターになっているということです。
また、私も「選手自身が競技関係者に自分を売り込めるオンラインプラットフォーム」を開発・運営してきましたが、ツールを創るだけでは課題解決に至らないことも痛感してきました。
ツールを創って感じた課題
● 選手が自ら情報を提供するだけでは足りない
● やはりチーム名が重要な選手の評価材料なる
● 「ツールを使うこと」自体が選手の活動目的にならない
● 選手一人で活動し続けるのは大変
やはり、選手個人の夢・目標を最優先事項に据えられるサードパーティを創出する必要があるのです。
サードパーティに必要な機能
ここまでのグループワークを通じて、私たちは新たなサードパーティに必要な機能をまとめました。
有効な選手の評価材料を提供する機能
何かしらの実績や実戦でのパフォーマンスなど、選手を評価する上で有効な指標・材料を提供できるかどうか。選手の継続的な活動目的になる機能
単発的な挑戦機会ではなく、選手が継続的に活動する動機を生み出せる仕組みであるかどうか。(賞賛・モテる機能)
活動の結果、選手が賞賛されたり周囲から持て囃されたりされる効果があると尚良い。
これらの機能が内包された仕組みを創り普及させていくことが、サードパーティの第一歩になると考えています。
具体的なアイデアと今後の取り組み
最後に、ここまでの考察を踏まえ、私たちが今後取り組んでいく施策をまとめます。
合同練習会の企画・継続実施
チームとは異なる継続的な挑戦の機会として、まずは合同練習会を企画・実施していきます。Jクラブのスカウトの方に直接見てもらえる場として選手を募集しています。
詳細:https://leaguedoor.jp/lp/training230424選手個人の育成を最重要目的に据えた育成組織の推進
既存の育成システムとは異なる構造を創るという観点から、選手個人の育成を最重要目的に掲げる組織を創っていきます。具体的には、育成費(トレーニングコンペンセーション)や連帯貢献金を得ることで経営を行うことで、組織の焦点を「選手個人の育成」に向けられるシステムを構築していきます。
参考:https://sposuru.com/contents/money-situation/soccer-solidarity-contribution/
現在、小〜高校のクラブと提携を進めているところです。進捗がありましたらどこかの機会にご報告させていただきます。チームレス全国大会
グループワークを通じて生まれたアイデアであるチームレス全国大会は、サードパーティとしての一例になり得ると考えています。チームで参加登録を行うことが必須である既存の主要大会とは異なり、選手個人の意思で参加できる全国規模の大会になります。
● チームに所属していなくても参加できる
● 高いレベルでのパフォーマンスを確認できる
● 賞賛の対象になる
ということから、実行には多くの課題がありますが、これからも引き続き考察していく価値のあるアイデアだと考えています。先行事例への参画
前項のチームレス全国大会の在り方として、参考になるのがバスケットボールの3x3 YOUTH TOURです。
参考:https://nevele.notion.site/presents-3x3-YOUTH-TOUR-ENTRY-PAGE-4c93b08832cd4ae19b19e1a07e9acbab
● 3x3バスケットボールのU-18全国大会
● JBA登録不要
● 監督、ユニフォーム不要
● 半年間の大会期間
● 普段の所属チームがバラバラでも参加OK
これらの仕組みが非常にうまく作用しているサードパーティと言える仕組みだと考えております。2023年度より、この大会の運営に参画することで、サッカーにも活かせる要素を学んでいく予定です。
終わりに
SXLPでのグループワークを通じて、過去の体験から感じていた違和感を生み出している構造的な要因を知り、解決に向けた施策の考察を行うことができました。今はようやくスタートラインに立った段階ですので、ここから「選手が自分の夢を貫けるサードパーティを創る」ため、実行→改善のサイクルを繰り返していきます。引き続き応援のほどよろしくお願いいたします。
(筆者:SXLP5期 中野風太)
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