武蔵野美術大学大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコースクリエイティブリーダーシップ特論2 第12回 上町達也 氏
20200803 上町達也 氏
secca inc(株式会社 雪花)代表取締役。2006年に金沢美術工芸大学を卒業し、カメラのニコンに入社。7年間勤めた後、2013年に柳井友一・宮田人司と共にアーティスト集団「secca inc(株式会社 雪花)」を設立。
1 会社時代
上町氏は大学卒業後、(株)ニコンに入社し、プロダクトデザイナーとして働き、たくさんのデザインに関わる賞を受賞するなど仕事は順調だった。しかし、製品が世に出るまでに5年半かかるというスピード感や製品化のプロセスに疑問をもっていた。そんなときに東日本大震災が起こる。自分が本当にやりたいことは、ものづくりの立場から「食」に関わることだと気づき、大学時代を過ごした金沢に移住することを決意。7年間務めたニコンを退社し、その年にseccaを立ち上げる。
2 secca (株式会社 雪花)
ニコンを退社後、就農をしたりハヤシライスのレストランを開店したり、食に関わるさまざまな実践を行った。2013年に立ち上げたseccaは、金沢に拠点をおく、ものづくりをするクリエイター集団。伝統工芸から最新のテクノロジーまでさまざまな技能を扱う「職人」としての部分と、考え抜いて美しさを創り出す「アーティスト」としての部分、過去の歴史から学び、未来へと求められるカタチにアップデートする「デザイナー」としての部分をかけ合わせて新しい価値を創造しようとしている。(「職人」×「アーティスト」×「デザイナー」)
金沢を拠点にしたのも、伝統を大切にしつつ新しいものを取り入れていく風土を感じたからだと言う。確かに金沢は、古い茶屋街がいくつも残っており、伝統を重んじる雰囲気がある。一方で、21世紀美術館や金沢駅前の広場など現代的な芸術も尊重している。美への意識が非常に高い街だと思う。
3 最新の伝統
そんな新しさと伝統を融合していく金沢の街とseccaの作品はシンクロしている。伝統と先端技術を掛け合わせて、過去の技術をアップデートして今求められるカタチにしていくか、周りの人との協業の中でのかけあわせで、新しいものを生んでいくか。大きなオブジェから陶器、楽器など幅広い作品をデザインしている。
メーカーとデザイン事務所が合体したような組織を目指していると上町氏。個別に依頼されたデザインの仕事で収益を得て、そのお金でアート作品をつくり、また注目されるという経済的な循環が上手く機能している。そのため、最近はより個性的なデザインが求められるようになり、自分で作品が作れることが強みになっている。
まとめ
上町氏の思い切りと行動力に驚かされた。しかも、「食」に関わる体験をデザインするとなったとき、その背景に関わる就農やレストラン経営まで経験されたということには、ここまでやる人がいるのかと、更なる驚きだった。そういった徹底的な追及力と、学生時代の金沢の土地が自分に合うという直感的な感覚とが、上手く混ざり合って上町氏にしか生み出せないデザインが生まれていると感じた。私も、「審美眼」を鍛えていきたい。