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命を燃やす人と出会いたい | MOVE ON 2020 | まとめ

スロージャーナリズム講座「MOVE ON」は、ジャーナリズムに関心があるひとだけでなく、自分にとって身近なテーマに目を向けるひとにも参加してもらえるような企画しました。全国17都道府県から41大学の学生が受講してくれました。友達とつるんで参加するのではなく、自らの意思で参加してくれていることを感じます。

さまざまな領域で活躍するゲスト講師の方々は、リスクを背負って現場に入り、傍観者である自分に抗ってきたひとたちです。

「小さな命をすりつぶす社会」というテーマで話をしてくれた川口正義さん(独立型社会福祉士)は「僕は何人もの子どもを殺してきた」と言っていました。本当に子どもを殺したわけではなく、むしろ救うために手を尽くして命を燃やしてきた人ですが、「救えたかもしれない命が救えなかった」という体験をいくつも重ねてきていることを話してくれました。

僕自身、新聞記者として36年間やってきたなかで多くのひとを殺してきたような気がしています。呼吸をするたびに罪を起こしているような感覚になるときがあるんです。それは錯覚ではなくて、自分が書いた記事が自分の知らないところで誰かを傷つけたり破滅させたりしていることが実際に在りました。記事が直接的な原因ではないにしても、私の書いた記事が遠因になって一家を破滅させてしまったこともありました。

誰かの人生を破壊するくらいなら書くことを辞めたらいいのか。しかし、書かなければ書かないで本来は救える命を救わなかったことにもなります。結局、書いても書かなくても、呼吸をするように何かを殺している罪の意識はぬぐえないのです。

今回お呼びしたゲストは、命を燃やし尽くすような生き方をしている人たちです。かけがえのない何かを見つけて、いたたまれないような思いを持って現場に飛び込んで、自らの知的好奇心や冒険心を燃やし尽くそうとしてきた人たちです。僕はこれからの人生もそういうひとに1人でも多く出会いたいし、そういう人といい酒を飲みかわしたいと思っています。

今年のスロージャーナリズム講座はここまでです。これからの社会を考えていく人とこういう時間を持てたらいいなと思います。

<野澤和弘氏プロフィール>
元毎日新聞記者。いじめ・引きこもり・児童虐待・障害者虐待などの調査報道に取り組診、退社までの11年間は社会保障担当の論説委員を担う。現在は植草学園大学副学長・教授。一般社団法人スローコミュニケーション代表。東大リアルゼミの主任講師。社会保障審議会障害者部門委員なども担う。

これまでのスロージャーナリズム講義とは

●Vol.1 「地域共生」は最後の希望か(2020.10.14)

しぼんでいく社会の実相を覆い隠す看板か、それとも国家や社会のあり方を根本から変える画期的政策か。厚生労働省の地域共生社会づくり検討会委員の2人が本音で語る。若い世代が「地域共生社会」をつくる北海道当別町。奇跡のはじまりは20年前、ひとりの大学生が障害児の母と出会ったところにある。

●Vol.2 障害者と裁判~メディアが報じない真実(2020.11.4)
弱い人ほど救わず、弱さに乗じて厳罰化する――。まだ誰も障害者虐待を問題にしなかったころから、小さな弁護団の中心的存在として数々の虐待と闘ってきた。殺人や放火の容疑で訴追される障害者の裁判の知られざる真実。25年間、障害者の事件に取り組んできた弁護士が見つめる司法の虚像と可能性。

●Vol.3 「表現未満」という思想(2020.11.11)
行動障害はアートだ。優生思想を嗤え――。自傷他害、パニックなどの行動障害を起こす人は福祉の現場で敬遠される。過疎地の施設に閉じ込められ、身体拘束をされる。しかし、行動障害には理由がある。芸術的な意味がある。「やっかいもの」のように見られがちな重度障害者の支援に革命を起こせるか? 芸術家でもある母による孤高の挑戦。

●Vol.4 小さな命をすりつぶす社会(2020.11.25)
自分を殺したこども、誰かを殺したこども。継父に週3回セックスの相手をさせられていた女子。そんな子たちに40年以上も寄り添ってきた。児童相談所や婦人相談所は役に立たなかった。先生に助けてもらったこともない。風俗でしか生きられない子どもはたくさんいる。「社会保障なんて、負けている!」。自称・カワサンデル教授の白熱教室。

●Vol.5 間違いだらけの発達障害(2020.12.9)
学校現場で発達障害とされる子は10年間で3~8倍に増加。早期発見・早期支援を目指した発達障害者支援法だが、現実は早期分離するばかり。いじめや間違った支援のため、ひきこもり、触法行為などの二次障害を起こす子どもたち。適切な保育によって、子どもは変わる。社会も変わる。東大卒の福祉職の草分けによる奇跡の講義。

●Vol.6 東大を出て、福祉で働く(2020.12.23)
「やっと本物の社会につながれた気がした」。障害のある利用者に胸倉をつかまれ罵倒された時そう思った。東大を出て、福祉の現場で働く2人が語る。日本人の働き方は大きく変わる。AIが人間から労働を奪っていく時代、私たちは何のために働くのか、人間にしかできない仕事とは何なのかを考える。



 
SOCIAL WORKERS LABで知る・学ぶ・考える


私たちSOCIAL WORKERS LABは、ソーシャルワーカーを医療・福祉の世界から、生活にもっと身近なものにひらいていこうと2019年に活動をスタートしました。
正解がない今という時代。私たちはいかに生き、いかに働き、いかに他者や世界と関わっていくのか。同じ時代にいきる者として、その問いを探究し、ともに歩んでいければと思います。




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