課題(2)紀行文
ライター養成講座の課題
(ここは毎回同じ文章載せます)
こちらは2008年に半年間受講していたライター養成講座の提出課題です。
講座で提出したまま15年近く眠ったままなので掲載します。
現在とは社会情勢、私自身の価値観などだいぶ異なることを前提にお読みください。
内容的に許可が必要なもの、私自身が読まれたら恥ずかしいもの以外は掲載予定です。
本文
太古を思い出す蓋井島
「今年はなんか、アザミがぎょぉさん咲いとるねえ」
普段は標準語を話す松本さんが、いつのまにか山口弁でしゃべっている。
「そうやったかなぁ」
「地球温暖化の影響なんかね」
ゆっくりとした時間の中で、男同士の会話が続いている。寝不足の私はぼんやりと聞きながら、2時間前の出来事を思い出していた。
私は船から降り立った。松本さんが「よく来たねー」と笑っている。
松本さんはお世話になっている先輩。私がたった今着いたのは、松本さんの故郷・蓋井島(ふたおいじま)。近くに仕事があった私は松本さんが偶然帰郷していると聞いて、島を訪れることにした。
さらにその40分前。私は走っていた。蓋井島の対岸、下関市の吉見地区を。
「吉見駅から歩いて5分で港に着くよ」と言われていたのに、10分歩いても道が見つからず、出航時刻まで残り5分。1日3往復しかない船で、逃すと次は3時間半後。日帰りで訪れる私は、その船を逃すわけにはいかない。
道を尋ね、必死に走り、途中でこけて足を捻挫しながらもようやく間に合ったのだった。再会した松本さんが笑っているのは、興奮した私が船上からメールで報告していたからだ。
下関市に属する蓋井島は響灘に浮かんでいる。人口は100人ほどで、その存在を知る人は少ないかもしれない。私も松本さんに出会わなければ知らないままだった。
全国には神功皇后に関係する地名はいくつもあるそうだが、蓋井島もそのひとつ。神功皇后がこの島を訪れたときに、この島の井戸に蓋をしてしまった伝説に由来している。
島の主な産業は漁業。だがここ数年、新たな産業が生まれつつある。「エミュー」だ。
エミューはダチョウに似た飛べない鳥で、オーストラリアなどに多く生息している。冬になるとエミューは尻や背に脂肪をためる。この脂肪に炎症を抑える、肌荒れを防ぐといった効果がある。卵から育てたエミューを「解体」し、オイルを採るのだ。
今は島の人口よりもエミューの数のほうが多いと聞いて、松本さんのお父さんの車でエミュー牧場に案内してもらう。
牧場といっても放し飼いに近い。見た目は確かにダチョウに似ているが、エミューには羽がない。いや、あるのだが限りなく退化しており、魚の胸ビレのようにしか見えない。大きなエミューは私の身長(157cm)と同じくらい。
広い範囲でエミューは餌を探し、のっしのっしと歩いている。その光景を見て私は、太古の地球はこんな光景だったではと想像した。人間が立ち入る隙はほとんどない。恐らくエミュー同士の秩序があり、エミュー同士が助け合って生きているのだろう。歩く姿を見ているとお父さんが「鳥というより恐竜に近いのかもしれませんね」と話したのも頷ける。
あっという間に船の出る時間になった。松本さんも故郷を離れ、東京に戻る。
人口100人なので、誰もが松本さんとお友達。船の乗組員さんも「ヒロくん、もう行くんかい」と声をかけていた。
数分後、船が出た。
「ヒロくん! お母さんとおばあちゃんが手を振っとる!」
誰かの声がした。松本さんは港の様子をちらっと見ると照れ笑いを浮かべ、わざわざ港が見えない席に座り直していた。
(2008年6月14日)
2024年のひとこと
皆さんおなじみmtmtさんの故郷へ行った話。この2か月前に訪問したばかりの話を早速課題で提出している。
これを将棋界では「味がいい」と言います。
mtmtさんの許可もらってないので、えーっと、ご連絡お待ちしております。(こっちがしろよ)
↓いま人口80人らしい…。