スイスドイツ語方言ウォッチ!田中泰三(著)『スイスのドイツ語』を読んでみました
こんにちは。Yamayoyamです。
今回は、スイスドイツ語方言ウォッチャーネタでお送りしたいと思います。
うちのゲルマン語学者(またの名を家庭内インフォーマントともいう)は、スイスドイツ語方言協会の会長をボランティアでやってます。
その方言協会の蔵書用アーカイブが一昨年、お引越ししました。
それ以来、方言協会の会長をはじめとする会員のみなさんは、新しいアーカイブで蔵書の整理をしています。
その整理中に
「なんか日本語の本が出てきた。これ、どう?」
とうちのゲルマン語学者が発見して借り出してきたのが、この本(↓)
田中泰三(著)『スイスのドイツ語』(クロノス出版、1985年)であります。
この本がスイス方言協会にやってきた経緯は、本に挟まっているグリーティングカードで伺えます。
それによると、「Koichi Maki」さんとおっしゃる方が「これが日本で初めて出たスイスドイツ語の本です。」
と、Ruderf Trüb 博士とPeter Dalcher 博士経由で1990年に方言協会に寄贈したということのよう。
そしてその後30年余り、みんなこの本の存在を忘れていた模様。
この度うちのゲルマン語学者がコレを蔵書の山から発掘したのをきっかけに、数奇な縁で私の元にやってきました。
借りてるだけだけど。
本自体は、巻末のグロッサリーと地図を含めても141ページほどのコンパクトな本です。
著者の田中泰三先生については、ネットサーフィンをしてもあまり情報が出てこず、
1911年生まれ、1996年没、1972年まで東京大学の教養学部で教授でいらっしゃったこと、
他にも何冊かご著書があることくらいしか分かりませんでした。
はしがきにも書かれていますが、 いわゆる標準ドイツ語とスイスドイツ語の違いをガイドする内容になっています。
ドイツ語学習を一通り終えた人がスイスドイツ語に触れたときに感じる
「今何て言った?最後にクスィ~とか言わなかった?」とか「luege って?」とか「へえ、けっこう人称語尾が違うんだね・・・」とか「過去形使わないの?」
などなどの疑問に答えてくれます。
ドイツ語学校に行ったけど、村の人が言ってることがいまいちわからん、
というスイスドイツ語圏在住の人にはかなり面白い&お役立ちな本なんじゃないでしょうか?
コンパクトですから、文法説明がデータとともにガッツリされているというわけではなく、本格的な学術書というわけではありません。
でも、このコンパクトさが肩肘張らずに読めて良い!と私などは思いました。
読んでいると、そうそう!!と膝を打ちたくなるような内容がちらほら。
例えば、
人名の前に定冠詞を付けて「de Napolioon」(= der Napoleon...)などと言う件とか(32ページ)
指小辞 -li を濫用する件とか(38ページ)
このマガジンでも以前取り上げましたが、ベルンドイツ語で動詞の3人称じゃなくて2人称複数形を丁寧形に使う件とか(50ページ)
名詞化した不定詞が目的語をとる件とか(77ページ)
その一方、よく聞き取れていなくて自分じゃ気付けなかったことを学んだり。例えば、
再帰代名詞 sich は4格(対格)でしか使われない。これは中高ドイツ語の語法が保持されているんだって!(50ページ)
前置詞のスイスドイツ語ならではの用法とか、スイスドイツ語でしか使わない前置詞など(61ページ)
スイスドイツ語では2格(属格)を使わないのですが、それをどういう表現で言い換えるか(36ページ、62ページ)
動詞・名詞の活用表、ありがたい!!
97ページ以下に挙げてあるスイスドイツ語独特の「語彙」、面白いです。クリームのことをスイスドイツ語でRahm(標独 Sahne)というんですけど、更にハードコアな「Nydel」という言い方があるんだそうで。
と、ざっと面白かったり印象に残った内容についてお伝えしました。
大分古い本ですし、この本にお目にかかる機会はそうそうないかもしれません。
でももし図書館などで見つけたら、ちょっとパラパラめくってみることをお勧めします。
では、またね!
Yamayoyam
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