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お茶のはなしの続き~リトアニア語ではお茶はなぜか arbata

みなさん、こんにちは。
Yamayoyamです。

前回のブログで、私のお茶の思い出をしました。私の思い出話にお付き合いくださった方々、ありがとうございました。未だという方、こちらにて↓お付き合いいただけると Yamayoyam 的に嬉しゅうございます。

その思い出話の最後のほうで、「リトアニア語では『お茶』は何故か arbataっていうんだよね」とちょっとボヤきました。

今回は、このボヤキを拾って膨らませていきたいと思います。

前回の記事でも見た通り、お茶はもともと中国発祥のもの。「お茶」を表す言葉も、中国語「chá」と閩南語(「びんなんご」または「ミンナンご」)「te55」が世界各地へと広がって行きました。でもリトアニア語ではこの系統の言葉は使われていなくて、arbata という、一見ナゾな言葉を使っています。Östen Dahl 先生の記事の後半部分に、「植物の葉を使った飲み物は多くの地域でお茶の導入以前からありふれたものだった。かなりの数の言語が、そのような飲み物を指す言葉をお茶の意味にも拡張して使っている」とあります。リトアニア語の arbata はきっとコレだ!というのは当たりがつきますが、さて、どこからやってきた?というのがこのお咄のテーマです。

そこで語源辞典の登場。
いくつか調べたところ、Smoczyński 先生の語源辞典(40ページ、※1)に arbata が載っていました。先生によると、リトアニア語 arbata は、ベラルーシ語 harbáta から借用されたもので、このベラルーシ語 harbáta はさらにポーランド語 herbata から借用されたものなんだそうです。要するに、スラブ語からの借用語なんですね。リトアニア語はベラルーシ語 čaj も「お茶」の意味で借用していて、そちらは čėjus といいます。中国語「chá」由来と思われます。ところが意外や意外、お隣のラトビア語では「te」系統の「tēja」が使われています。
あれこれ書きましたが、リトアニア語で主に使われるのは arbata のほうです。

ここで言語学徒たるもの、ポーランド語 herbata はどこから来たの?と思わなくてはなりません。あちこち探し回ってやっと、Miklosich のスラブ語語源辞典(84ページ、※2)に「(スラブ語 herbata は)ラテン語 herba から」と見つけたよ!

なんと、リトアニア語 arbata は元を辿りに辿ると、ラテン語由来だったのでした。ラテン語 herba といえば、今でも英語の herb「薬草」でおなじみの通り、「薬草、草」という意味の語。ちなみにドイツ語 herb は「渋い」という意味の形容詞で、やはりラテン語 herba から。

いわゆる茶のキから作った茶葉が17世紀に広がる前、ヨーロッパではハーブティーが主に飲まれていて、「お茶といえばハーブティーのこと」だったのでしょう。今でもカモミールティーとか、甘草のお茶が薬みたいに飲まれていますよね。ですから薬草茶が、herb 「ハーブ」から作った派生語で呼ばれてたのは不思議ではありません。
前回もお世話になったお茶の地図を見ると、ヨーロッパの多くの地域では、いわゆるお茶を「te」や「chá」という言葉と一緒に受け入れたのが見て取れますが、「herbata」が使われ続けた言語がバルト・スラブ諸語にあった、というのはちょっと面白いです。「te」や「chá」系列の借用語を受け入れた言語に取り囲まれながらも、herbata 系を堅持したのが面白いといえば面白いですね。お茶が広がりはじめてもハーブティーのほうが好みだったのか・・・。リトアニア語での「chá」由来の čėjus の浸透度の低さと arbata への固執は、ハーブティーの根強い人気を反映している、とか・・・?

ただ、ひとつ言えるのは、リトアニアではハーブティーがとても人気で、なんなら自家製ハーブティーを作る人もけっこういる、ということ。以前ストックホルムにいた頃、リトアニア出身の友人が、「おばあちゃんが庭で取れたハーブで作ってくれたの」といって、自家製ハーブティーをくれたことがあります。清涼感のある香りでおいしかったです!聞けば、自家製ハーブティーを作るのはそんなに珍しいことではないらしい。

よくわからないことはよく分からないままですけど、ハーブティーは寝る前や具合が超絶悪いとき(例えばコ○ナワクチンの副反応がひどいときとか・・・)に、良いですよね。私はミントティーとカシスティー(フルーツティーだけど)が好きです。

みなさまにも、お気に入りのお茶がありますか?
それでは、また次回まで。

Yamayoyam

※1 Wojciech Smoczyński(編)Słownik etymologiczny języka litewskiego, 第二版 (2016)
https://dl.dropboxusercontent.com/u/21280621/Smo%D1%81zy%C5%84ski%20W.%20S%C5%82ownik%20etymologiczny%20j%C4%99zyka%20litewskiego.pdf (02.3.2016)
ちなみに、ポーランド語やベラルーシ語にはあった頭の h- がリトアニア語 arbata では消えていますが、これも Smoczyński 先生によればよくあること、なんだそうです。近代の借用語などには h 始まりの単語もありますので、フランス語のように h が発音できない!ということではないと思われます。
※2 Franz Miklosich(編)Etymologisches Wörterbuch der slavischen Sprachen (Wien: Braumüller, 1813-1891)

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