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大好きな湖の語源を調べてみたら・・・

こんにちは。
スイスラボの言語学者 Yamayoyam です。

運営メンバー紹介の記事にざっくりとした自己紹介はありますが、
話し足りないなと思い、この記事では続きを書きたいと思います。

わたしがスイスでThun湖に出逢うまで

日本にいたときから言語学が好きで、
歴史言語学というのを勉強していました。
特にリトアニア語に興味を惹かれ、
リトアニア語をはじめとするバルト諸語や、
さらにバルト諸語が属する印欧語の歴史言語学を専攻しました。

偶然学会で知り合ったストックホルム大学の
バルト語学科の先生に勧められてそこで博士課程をし、
オランダのライデン大学で開催される
印欧語歴史言語学のサマースクールで知り合った夫の出身国、
スイスに2017年に引っ越しました。
夫の仕事の関係でベルンに住むことになりました。

研究職の求職は日本でもスウェーデンでもどこでも大変ですが、
スイスでは特に大変です。私もご多分に漏れず職探しに苦労し、
少々鬱になって生まれて初めてカウンセリングなるものに通いました。
当時は日本人のツテもあまりなかったし、
ドイツ語もロクに話せなかったし(今でも苦労してマス)で、
英語でのカウンセリングとなりました。

そんな辛い日々のなかで癒しとなったのが、
ベルンからわりと近くにあるThun(トゥーン)湖でした。
Thun湖はスイスでの結婚お披露目パーティーをした
思い出の場所でもありますが、何よりスイス随一の美しい湖。
特に夏は水の色が美しいアクアブルーになり、
太陽の光をキラキラ反射してそれはそれはキレイなのです✨

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夏季は遊覧船が出ており、
それに乗って青い湖を眺めるのが毎年の楽しみです。
Thun 湖は今のところ私がスイスで一番好きな湖です。

麗しのThun湖の名前が気になる!

さて歴史言語学者としては、そんなThun湖の名前の由来が
とても気になるところです。Thun という街にあるから
Thun 湖なのはわかるとして、そもそも Thun ってどういう意味?
ドイツ語はかじる程度にしかやってないけど、
Thun に似た単語なんてあったっけ?
やっぱりあの湖の麗しさに関連する意味なのかな?
とかなんとか、気になりだすと止まらない。

そういうときに便利なのが、語源辞典!色々な種類がありますが、
地名が気になるときは、地名の語源辞典を引くのが良いでしょう。
で、ぴったりな語源辞典があるのですよ!
その名も Ortsnamenbuch des Kantons Bern
(ベルン州の地名限定語源辞典。因みに夫が編集員をやってるんですが、
その話はまたの機会に)。

その辞書の716番目のコラム(↓)に、Thunの語源の説明が載っています
(その前に長々とあるのは、<Thun> の古文書での例証を羅列したもの。
この徹底っぷりがスイスらしい・・・)。

それによると、<Thun> はケルト語の集落の名前に由来し、
ケルト語 <dūnon>「壁、城壁(に囲まれた場所)」はもちろん、
ドイツ語の Zaun「柵、塀」, 英語の town(< ゲルマン祖語 *tūna- ※1)
などに相当するのだそうです。ちなみに標準ドイツ語 Zaun (ツァウン)は、スイスドイツ語では <Zūn / Zuun> (ツーン)と言います。
標準ドイツ語 Zaun では、長母音の「ウー」( ゲルマン祖語 *-ū-) が「アウ」になる二重母音化が起こっていますね。
<Thun> では、語頭の音( ゲルマン祖語 *t-)が Zaun や Zuun みたいに
第二次子音推移」 で<Z> になってないから
(この場合はケルト語からだけど) 外来語だって分かったんだ!
とか、歴史言語学をかじっていると気付きがあったりします。

つまりは、Thun て日本語で例えると、「城下町」っていう名の町、
みたいな感じ?あるいは、古いけども一応外来語だし、
「タウン」ていう名の町みたいな感じ?
なんだ、麗しの湖と全然関係ないじゃん・・・。
なんならこの湖、以前は別の名で呼ばれてたらしいし。

こんな風に、調べた挙句にガッカリする結果におわることもあるのは、
研究活動でもよくあること。求職活動でもよくあること。慣れてますとも。

最後にもうちょっと言語学っぽいことを書くと、
こういうケルト語由来の地名はスイスにはけっこうたくさんあるそうです。
昔むかしケルト人(とその他部族)が住んでいたところに、
ローマ人が侵攻してチューリッヒを建設し、
そして更に(後のスイスドイツ語話者の祖先となる)
アレマン人がやってきて・・・、といった歴史の片鱗を感じさせます。
言葉の歴史を再建することには、こういう話し手だった人々、
民族の歴史を明らかにする一助とするという一面もあるのですね。

言語学エッセーマガジンでは、
これからもこんな感じの駄文を綴っていく予定です。
お付き合いくださる奇特な方がいらっしゃるといいな、と思っています。
どうぞよろしく。

スイスラボの言語学者
Yamayoyam 

#スイスラボ #地名 #言語学 #ヨーロッパ在住 #日本人女性 #スイス #女性応援 #異業種交流会

※1 歴史言語学では、実際にはその存在を確認できないけれども、理論的に再建される言語形式の前には、アスタリスク(*)を付けます。

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